有縁千里来相会
2024-03-08T15:54:44+09:00
wenniao
ライフワークになりつつある中国語学習とエレクトーン・千葉市付近のおいしい情報を中心に、日々の出来事を綴っていく予定です。
Excite Blog
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 61-2
http://musicbirds.exblog.jp/33884217/
2024-03-08T15:39:00+09:00
2024-03-08T15:54:44+09:00
2024-03-08T14:33:13+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
程鳳台が曹府に到着すると、ちょうど曹府も大騒ぎになっていた。門外の警備員は直立不動、曹司令官は戦闘服を身にまとっていた。大広間で激しく叫びながらぐるぐる歩き回り、靴の音が床に響き、すぐにでも誰かに襲いかかるような勢いだった。子供たちは彼を怖がりどこかに逃げ去ったが程美心は彼を怖がらず、淡々とした笑みを浮かべ夫の怒りを黙って受け入れていた。「くそっ、早く殺しておくべきだった!ろくでなしめ!命令も聞かないし!命令を聞かない奴は殺すべきだ!これはくそったれの反乱だ!」程鳳台はいたずらっぽく笑って言った。「おやおや、誰を銃殺する気ですか?僕はちょうどあなたの怒りの頂点に遭遇したようだな!」曹司令官は怒りっぽく彼をにらみつけた。程美心は彼に手招きして言った。「あなたの事じゃないわ。中に入ってきて。」姉弟二人はソファに並んで座り、程美心は事情を話した。原因は、曹の大公子が駐屯地で日本軍に何度も挑発され、我慢の限界をこえて今日ついに自ら日本軍と交戦したことだった。双方は実際には肉弾戦を行っておらず、単に態勢を整えて相手に砲撃を加えていた。作戦参謀がこっそりと外に出て曹司令官に戦況を報告し、彼はその電話の向こうで耳をつんざくような砲声を聞いた。停戦命令を発したが曹公子は聞かず、彼を呼び出して電話にでるように言っても聞く耳をもたず。2回目の電話をかけ、知らんぷりを決め込んだ兵士が応対し、通報をした参謀はすでに兵士に捕まり、軍で罰せられていたとのこと。曹司令官は怒り心頭だ!日本人が仕掛けてきてこちらが応戦することには大した問題はない。しかし、どうしても先に手を出すべきではなかった!曹司令官は自分が庶民の出であるとは自認しているが、文武両道であり荒っぽさの中にも繊細さがある。自分の見た限り穏やかな息子であり洋学堂にも通ったことがある聡明そうな子が、どうして何も考えずに行動するのか理解できない!彼は急に足を止め、腰から拳銃を引き抜いて弾倉を確認する。弾倉はいっぱいで、牛を一頭殺すには十分だ。そして外に向かって歩き出した。「くそったれ!あいつを殺してくる!」程美心は実は心の中で計画を立てていて、わざと夫を怒らせ怒りが頂点に達したときに自分のひらめきがさも良いアイデアであることを示そうとしていた。この時急いで曹司令官を止め笑って言った。「ねえあなた、あら、銃を下ろして!自分の家の子供に刀や銃を使う必要がありますか!あなたの実の息子なのよ!」彼は怒りをこらえながらも程美心に銃を奪われた。 程鳳台は傍で見ていて曹司令官は本当に彼女を愛していると感じ、彼女以外だれも彼の怒りを抑えることができないと思った。曹司令官自体本当に程美心を愛している、なぜなら誰も彼の銃をおろさせるものはいなかったからだ。ちょうど怒鳴りつけようとした瞬間、程美心が優しく彼を止めた。「あなた長いこと怒っているんだから、座って少し休んで。私にいい考えがあるの。もし私の方法がうまくいかなかったらあなたは戦場に行って誰でも好きに殺すといいわ、どう?」程美心はおそらく曹司令官の怒りを解くことがよくあるのだろう、彼は 程鳳台の隣におとなしく座り、彼女に手を振ってすぐに動くように合図した。程美心は慌てずに三女を部屋から呼び出しいくつか言葉を耳打ちし、三女は父親を怖がりながらも頻繁に頷いた。程美心は彼女に尋ねた。「宝貝児、全部覚えたかしら?」「覚えたわ、お母さん」三小姐は頷いた。程美心は受話器を取り駐屯地に電話をかけた。「もしもし、私は曹の妻です。あなた方の司令官に電話を取り次いで!三小姐からの電話よ——三妹妹からよ!早く!走って行って!」そう言い終え三小姐に受話器を渡した。しばらく待ってから曹公子が電話にでた。彼女は言い訳交じりに彼に言った。「うん…お兄ちゃん、私よ…私は大丈夫…お兄ちゃん、パパを怒らせないで。パパが家で怒って、銃を持って人を撃とうとしているの。弟と私は怖くて震えてるの。お兄ちゃん、いつ帰ってくるの?私怖い…」兄妹二人は数分間話をしたが戦地の通信状況があまり良くないため、後半は通話に苦労した。程美心はとうとう電話を取り優しく微笑んで言った。「貴修?私よ。この子はまったく!性格がお父さんよりも荒々しいわ!」曹司令官がにらみつけたので彼女は媚びるような目を投げ返した。「今の時点で、貴修、あなたは冷静になるべきよ!あなたがことを起こしたらお父さんはどうなるかわかるでしょ?私たち曹家は正統ではないの!平穏無事でいる人の中には、私たちに陰口を叩く者もいるでしょう。弱みを握られるようなことになるわ!去年の牛家を見てよ、牛家はどうして廃れたのか!」電話の向こうで曹公子が何か言ったが、確かに良い言葉ではなかった。 程鳳台は程美心の笑顔が減るどころか目がますます冷たく、容赦なくなっていくのを見た。突然彼女は目を閉じ、再び開くと笑顔が戻っていた。「そう、私は普通の主婦です。子供の世話やマージャンをしていて、見識があるわけじゃない。あなたたちが風雨にさらされ多くを経験してきたことに比べたら、私は何も知りません。」彼女は目を横に向け、三小姐を見つめ、喜びに混じって少し厳しい笑顔で言った。「男たちの仕事は私にはわからない。ただあなたの妹のことが心配、だからあなたの行動は適切でないと思う。彼女は来年結婚する予定で、その相手は林家の次男よ、あなたも会ったことのある人です、ええ……そう、彼です。穏やかで、品行も立派な。今、私たち曹家に何か悪いことがあったら、あなたの妹はどうなるの?下の二人の男の子は何とかなるかもしれないけれど女の子は耐えられないわよ!」電話の向こうで曹公子は迷っている様子だった。そこで程美心は追い打ちをかけた。「あなたたちの母親があなたたち兄妹を育て、それを私に託したの。あなたは男の子、大きくなれば私はあなたを制御できません。ただ、あなたの妹を無事結婚させたいと思っているだけで、それでやっと役目を果たし、彼女にも顔向けができる。私がこんな風に考えられるのに、あなたは兄として妹のために我慢できないの?何か腹に据えかねることがあるなら、三小姐が結婚した後にでも吐き出せばいいじゃない?日本人はここに何年もいる、彼らは逃げだすことができる?」三小姐は自分の嫁ぎ先の話を聞いて、すぐに恥ずかしくなって階段をかけ上がり、部屋に戻った。程美心は電話で曹公子と事を話し合い、最後に曹公子を心配していることを告げやっと電話を切った。曹司令官はこの時点で怒りの大半が収まり、大義親を滅す、という事態に走る必要はないと理解したが、まだ機嫌が悪いままで言った。「お前、何のつもりだ?三女が結婚したら、彼は好き放題できるとでもいうのか?」程美心は笑い飛ばして言った。「今はとにかく彼をなだめることが先決よ。残り一年の時間であなたは父親として息子を諭せないの?そうなら無駄に養ったということで、本当に銃殺されるべきだわ。」曹司令官は冷ややかに笑った。程鳳台はこの一幕を見て、かつて程美心が彼に使った同じ手法を思い出した。今では姉に対して怨みはないが、別の角度から見ると心がざらつくと同時に胸が痛む。まるでいつの間にか曹贵修と同じ世界の人間となったような気がした。曹貴修の状況が、かつての彼の弱みと同じだったからである。曹司令はやっとこの小舅子のことを思い出し、程鳳台の太ももをひとたたきして驚かせた。「で、お前、何で来たんだ?」 程鳳台は我に返り、急いで事の経緯を話した。曹司令官は聞いて驚き、「おいおい、まさか!」と何度も電話をかけて調査を始めた。一度はこれを疑い、次はあれを疑い、彼の仇敵は実際に結構いて、考えれば考えるほど、裏切り者らしき人間がいたるところにいることが分かる。結局、彼らが軍関係者であろうとなかろうと、すぐに結果は出ないだろう。程鳳台は曹家を後にし、直ちに二人の仲間の家に慰問に向かった。このふた家族は本当に大家族であった。年老いた者は八十歳以上で病床に臥せり、一番小さい者はまだ乳児だ。家族全員が一人に頼って生計を立てており、その当事者が亡くなれば、まさに天が崩れるようなもの。女性たちや子供たちに泣かれ程鳳台はひどく心を痛めた。この慌ただしい慰問が終わるとすっかり空は暗くなり、夕食も取らずに車の中で額を揉んで座っていた。彼がこんなに心を悩ませた日は久しぶりだった。 程鳳台はため息をつきながら老葛に尋ねた。「何時だ?」彼自身が腕時計を身につけているにもかかわらず一度も見ようとしなかった。老葛は車を運転しながら手首を見上げ言った。「七時四十五分です。范家に行きますか?それとも先にどこかで食事を取りますか?」程鳳台は車窓を見て尋ねた。「あれ、ここはどこだ?清風劇場方面かな?」「違います、遠いですよ」「それでもちょっと行ってみようかな。」老葛は何も言えず、ただ指示に従って車の向きを変えた。 程鳳台が商細蕊とつきあい始めてから、老葛は彼の家の二爷に対して新しい見解を持つようになった。かつての程鳳台は異性関係を求めると、十回中九回は寝るために行くことであり、あとの一回は寝るための下地を作るためだった。しかし今、程鳳台が商细蕊を尋ねても十回中一回も寝ることができないかもしれない。商老板はやはり商老板で、忙しすぎて私的な時間がほとんどない状態。それでも会いに行ってちょっとばかり話し、それは恋人同士という感じではないと老葛は思う。ではそれがどんなものかと言われても老葛にもわからない。老葛が確かに言えるのは、商老板は本当に才能があるということ、以前は戯曲を聞くのが好きでなかった二爷が、商老板のものは喜んで聞くようになったこと、そして二爷が以前は「寝る」ことが好きであったが、商老板にはすっぽかされていることである。老葛は二爷のズボンの中のさまざまな出来事を思い出し、くだらないことを考えて運転した。 程鳳台は頭を仰け反らせて目を閉じて休んでいたが、心の奥でかなりの重荷を感じていた。商細蕊は今、日増しに彼を束縛しており、昔の二奶奶よりも強力だ。二奶奶が彼を見張っていたのは、大人が子供を管理し、子供が騒動を起こさないように心配しているのに似ているというならば、商細蕊は猫や犬がお椀の中の肉を見つめているようで、誰かが動くといつでも噛み付くか、いっそ肉をすべて食べてしまう。これではたまったもんではない。今朝水雲楼は新しい役者を迎え入れ、商細蕊は試めすこともなく、待ち望んでいた二人を選んで共演させ、調声の試験も不要だった。彼らがどんな声の調子か、商細蕊ははっきりと覚えている。かえって戯曲を歌うときは彼が他の人の声に合わせている。楽屋は相変わらず混乱していた。商細蕊は雪白の水衣を身に着け、笑顔で人々と会話し、空気中には甘い香りが漂っており、誰かが小さな鍋で白キクラゲを煮ているのがわかった。十九は新しく来た役者たちに向かって大声で言った。「水雲楼の規則についてだけど、他のことは後で話すとしても、まず最初に覚えておくべきはこれよ!ここにあ美味しいもの、美味しい飲み物をまずは班主に試食させなければならないの!」そう言いながら、一碗の白キクラゲスープを商細蕊の下に持って行った。そのスープは濃厚で甘ったるく、十九はさらにさくらんぼの缶詰を二匙すくって混ぜた。商細蕊は大きな口で飲み込んで、「舞台に上がる前にこれを食べると、嗓子が詰まるな。」と眉をひそめた。沅蘭は鏡の前で化粧をはたきながら笑った。「嗓子を詰まらせるのもいいわ!班主の喉の調子は高くて誰がついていけるのかしら?嗓子を詰まらせておいて、私たちがやっとおいつくってもんよ!」商細蕊はこの世辞に喜んで白キクラゲスープを一口飲んだ。自分は大いに楽しんでいるが、他の役者たちは舞台に上がる前にこれを食べることは許されない。彼の喉は良いからロックできるが、彼らの喉はそれほど良くないので、詰まってはいけないのである。おそらく水雲楼の第二の規則は、彼らの班主が人に対しても自分に対しても常に二重基準を持ち、班主が自分に対する寛容さを手本として学ぶことはできないということであろう。 程鳳台は扉を押し開け、扉を二度叩いたが入らずに入口の薄暗いところに立って笑顔で言った。「商老板、ちょっと話があるんだけど。」商細蕊は今夜の彼の笑顔は疲れていて優しいものだと見てとって、突然恥ずかしくなった。そして、はっきり言わないで、公然と人目を避けて言う話ってなんだろう?と思い、みんなが彼らを見ているので、商細蕊はますます恥ずかしくなって彼のもとへ行くのをためらった。沅蘭は彼をからかい「呼んでいるよ!班主、早く話しに行ったら?」と商細蕊を小突き回して外に追い出し、さらに楽屋の扉を意味ありげに閉めて二人を小さな暗い路地に閉じ込めた。その小さな暗い路地には一切の明かりがなく、商細蕊はまだ白キクラゲスープを手に持っていた。程鳳台は頭を下げて見て言った。「食べ物?それくれる?お腹が減りすぎて死にそうだ!」商細蕊はこの一碗の甘いものが大好きだったが、もっと愛しているのはこの二爷だ。 程鳳台が本当にお腹を空かせているのが分かり、彼は無邪気に碗を差し出した。 程鳳台は数口で完食し口を拭って言った。「商老板、ちょっと難しい問題がおこって、これから数日間は君に会いに来られない。」商細蕊の心は一瞬で冷え、険しい顔をして一碗の甘いスープを手放したことを後悔した。「何か難しい問題なの?」と尋ねた。程鳳台は彼が発作を起こすのではと思い軽く笑って言った。「言っても分からないよ、全部仕事上のことだから」「言わなきゃ分からないじゃないか」「きっと分からない、実は自分でもまだよく分からないんだ!君は君の芝居を歌えばいい、僕はこれで数日忙しいだけだ」「これから数日ってどのくらい?」「数日かからない」「でもちゃんと日数を教えてよ」「四、五日ぐらい、多くても七、八日。町を出なきゃいけないこともあるかも」「それが何日か教えてよ!」「一週間あれば確実に終わるだろうな」「じゃああなたは僕の芝居を見に来られないんだね!」商細蕊は最初から冷たい口調で話し、最後には悪意に満ちた口調に変わった。 程鳳台は商細蕊に挑発され、言葉を失った。商細蕊をからかい、取り繕おうとしたが、怒りに対して無力であることを感じ、心の中で大きな問題が発生していることを察知した。問題は既に芽生え、将来的にはより複雑で深刻な状況に発展する可能性がある。しかし程鳳台は前向きに物事を考え、彼の気まぐれな性格に対処することが重要だと考えた。そして、 程鳳台が巧妙な手段を尽くしても、彼の激しい反応に沈黙が広がった。 程鳳台はなんとか取り繕うとしたが商細蕊に挑発され逆上してしまった。「なんでわからないの?そんなに大袈裟なこと? 俺が数日来ないだけさ、まともな仕事に行くだけだよ!」商細蕊は声を大にして「なんでそこまでするの!毎日僕の舞台を見にくるのに、大して手間はかからないでしょ?僕と小周子の共演を見に来るって言ったじゃない!何か難しいことがあるなんていっても僕は騙されないからね!」程鳳台はしばらく彼を睨みつけ、そのまなざしからは狂気と残忍さの光が見て取れた。いよいよこういう事態が来てしまったか、と平陽、蒋夢萍、彼の狂気の噂について一瞬で理解が深まった。程鳳台は商細蕊が突然狂ったわけではないと考えている。いままでずっと彼を甘やかしてきたため、自己中心的になり、ますます高望みするようになっていったのだ。心の中で結論がでた程鳳台は、くるっと後ろを向いて歩きだし、途中手に持っていた碗を地面に投げつけた。夜の暗闇の中で高らかに音が響き、碗は粉々に砕け散った。商細蕊は程凤台がこんな風に怒るとは予測しなかった。彼の背中を睨みつけながら叩き殺してやりたいと思った。
*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*さすが美心、肝が据わってる。曹司令官のような人物にはうまく手綱を引いてくれるこういう人が必要です。かつて瀕死の家族を救うためという名目で二奶奶と政略結婚させた手口よ再び。久しぶり登場の老葛はあいかわらずでおもしろい。ノータッチのようで観察眼が鋭いです。以前付き合い初めの頃はこの楽屋裏の狭くて暗い路地も二人には秘密の甘い場所だったけど、こうなってくるとほんとに暗くて陰鬱な場所に思えるから不思議。二爷も日々大変な状況の中ちゃんと顔を出して直接不在の旨を伝えに来ているのに、自己チュー商老板はあげた好物の白キクラゲスープさえ恨みに思ってしまう始末。どうやって歩み寄っていくのかこの二人。
]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 61-1
http://musicbirds.exblog.jp/33855739/
2024-02-26T21:20:00+09:00
2024-02-26T21:20:22+09:00
2024-02-26T20:41:19+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
沅蘭は薛千山との交渉役に抜擢され二人はある酒楼で酒を飲みながら話をすることになった。ほとんどの女優たちは甘い話術を持っており、特に水雲楼出身の女優たちは交際上手である。どのように褒めたりほらを吹いたりしたかは分からないが、なんと彼女は実際に二人の若者の引き抜きに成功した!これは商細蕊にとって大きな成果だった。商細蕊は手の付けられない二月紅の事はそっちのけで、初々しい若者がやってくるのを楽しみにしていた。二月紅は妊娠しており、時が経つとおそらくそれが顕著になり、「先奸後娶(先に不義の行為をしてから結婚すること)」と言われるのはあまりよろしくはない。結婚式はもう目前で準備期間は一か月もなく、薛千山も焦っていた。翌日、彼は四喜児と同じ酒楼で会い、あらゆる手段を使って周香芸を強引に奪おうとした。四喜児は若い頃は美貌と名声で知られており、その気難しい性格は一種の独特な味わいがあった。彼の古い愛人たちの言いぐさでは「嚼み応えがある」と言われていたが、今や半世紀以上が経ち、その美しさは全て失われ、その気難しい性格は噛んでも嚙み切れないしわしわの牛筋のようでほっぺたが痛くなるほどだ。薛千山は四喜児との交渉に半日かかり、口がからからに渇き最終的には大金を失うはめとなり、彼に手を出され誘惑され、惨めな目に遭う寸前だった。非常に屈辱的で嫌な思いをし、心身ともに疲れ果てた。周香芸獲得は成功した。商細蕊が気に入ったもう一人の役者は楊宝梨という名前である。十七、八歳の年頃で、劇団では淡々と前座を務めていた。周香芸よりも状況は少し良く、いい点は四喜児に罵られず苦しめられなかったことだ。商細蕊は観劇が好きで暇なときには北平市全域の小さな劇団をすべて見て回る。彼は役者を応援する以外に舞台の裏に潜む隠れた宝石を見つけているのだ。周香芸は検証済みの確かな宝石であり、今でもファンは彼を忘れられず、商細蕊に王昭君について近況を尋ねるほどである。楊宝梨は商細蕊から見てよく訓練された適材だ。彼を手に入れるのは簡単で、薛千山は二百元払って、人に言葉を伝えるだけでなんなく手配できた。楊宝梨は商細蕊が彼を指名したと聞いて、一晩中眠れなくなるほど嬉しかった。彼らは同じ都市、同じ職種で年齢の差はほとんどない。しかしその地位はまるで天と地ほどの差がある。楊宝梨にとって、商細蕊は神様仏様であり、新聞やラジオで見る人物である。たまに観客席から彼を見上げると、遠くからで顔がはっきり見えなかったが、衣装や装飾が豪華で照明の強い光の下で星の如くきらめき、まるで絹と宝石で作られた夢の中にいるような人物だった。楊宝梨は彼と一度も会ったことも話したこともなく、なんの縁もゆかりもないのになぜか突然幸運が訪れ、商細蕊のお眼鏡にかなったというわけだ。楊宝梨は商細蕊がかつて 程鳳台を連れて彼の芝居を一度見たことを知るわけがない。楊宝梨が歌いだすと、生まれつきの泣きの声質があり、鼻にかかったような声で非常に柔らかく悲しい美しさがあった。それを感動的だと受けとる人もいる、例えば商細蕊。受けつけない人もいる、例えば程鳳台。ある日、 程鳳台はしきりに瓜子のお菓子を食べ、茶葉を啜り、たばこを吸っていた。商細蕊をいらつかせ、一度テーブルを叩いて低く吠えた「静かにできないの?!」と上から下まで彼を見下した。「もぐもぐが一向に止まらないね!女みたい!」程鳳台は彼に向かって笑いかけ「俺たちそろそろ退散しないか?聞く価値があるかな?」そして彼が不快に思わないようにお世辞を言った。「商老板よりも遙かに劣ってるしさ」商細蕊の顔色は明らかに曇りから晴ればれとし、首を振って軽やかに言った「そりゃそうさ!でも彼も悪くないよ!」「彼は小周子ほど上手ではないと思うけど。この歌、あまりにも陰気な感じ。」商細蕊は首を振って言った「あなたはわからないんだよ。多くの人は自分の師匠の声に従うよう一生歌を歌うんだ。自分のスタイルを見つけるのは並大抵な事ではない!楊宝梨は若いのに彼なりの声の味があって、一千人に一人、一万人に一人同じものはない。僕が目にとめたくらいだ、絶対に才能がある!」程鳳台はステージ上の人物を見つめ、集中して味わってみたがまだ良さがわからなかった。商細蕊は舞台を見つめてため息をついた。「私は普通の人間に飽き飽きしている!誰とも同じでない、他とは違う、それがいいんだ!」これを聞いた程鳳台は理解した。楊宝梨が本当に優れているかどうかはわからないが、商細蕊の心をつかんでいるのは確かだ。彼は舞台上でも舞台下でも、舞台役者として、他の人とは違う独自のスタイルを求めている。周香芸と楊宝梨は素晴らしい未来を手に入れ、それぞれ心から喜びに満ちあふれて古い友人に別れを告げ、荷物をまとめて夏至の日に一緒に水雲楼に入門することになった。前日、二月紅は今の身分相応の鮮やかな服を身にまとい、静かに裏口に現れて別れを告げた。商細蕊の機嫌を損ねないよう、皆が彼女に多くの注意を払うわけにはいかないためだ。経験豊富な劇団員たちはこの娘が普段は控えめで、特に美人でもずるがしこくもないと思っていたのにまだデビュー前に自分の相手を見つけたことに驚いていた。人は見かけによらないものだ!若い役者たちは商細蕊の考えを基準にして、一様に二月紅を見下し、水雲楼の叛逆者と見なしてた。他の誰もが彼女を無視するところ唯一腊月紅は違った。彼は恭しく二月紅の手を優しくひくと舞台の片隅で熱心に話しかけた。「師姐、そんなに急いでいかなくてもいいんじゃない?僕の芝居を見てからにしたら?」二月紅は突然結婚することになり急に妊娠してしまい、ちゃんとした思い出を腊月紅と共有する時間がなかった。二月紅はちょうど頷こうとしたところで、薛家からの使いの老婆が頭を出して急かしてきた。二月紅は老婆に対して畏れ多くも小声で言った。「少しだけ遅らせることはできますか?今日の芝居を見てから行きたいのですが、いいですか?」その口調には全く妾としての主人の気概がなかった。老婆が返事をする前に、沅蘭が高らかに言い放った。「かまわないでいいわ!十姨太、急いで!ここは埃がたち込めるような場所で、長居しない方がいいわよね?気持ちは分かりましたから!」二月紅はまた彼女を罵倒しはじめ最後にまたたいそうな嫌味を受ける屈辱は避けたかったので、腊月紅の手をしっかり握りしめ、商細蕊に別れの言葉を述べようとした。商細蕊は後ろを向いたまま「うん」と一言だけ言った。小来が商細蕊の代わりに事前に用意していた紅包を二月紅に手渡そうとしたが、その時沅蘭が再び声を上げ、小来を止めて言った。「十姨太、私があんたをとやかく言ってるわけではないのよ!これはあまりにもおかしくない?水雲楼はここ数年あんたを養って、いい喉とスタイルを与え、みんなに愛される清新で華やかな一輪のつぼみのように育て上げたのよ。あんたが去っても私たちは何の報酬も期待してないわ。でもせめて私たちの班主に頭を下げるくらいのことしたらどう?」二月紅は戸惑いと不安で目を赤くした。商細蕊に頭を下げるのは当然のことだが、こうして圧力をかけられ頭を下げるのはいじめのように思えた。腊月紅は師姐が嫌なら、自分が前に出て彼女を守るために争うつもりだった。商細蕊も沅蘭がこの手を使うとは予想しておらず、手にしていた仕事を止めた。君たちはずっとそうやっていればいい、でもなぜまた私を巻き込むんだ?商細蕊の性格上、二月紅に対して非常に愛情深く心遣いが行き届いているというわけではなかったが、一般的に劇団の班主として打つ、罵る、いじめるといった冷酷な態度をとることはなかった。彼は年下の弟子の劇団員たちに対しては先輩としての態度をとり、比較的寛容で親しみやすかった。褒めそやして彼を喜ばせる者には笑顔で接し、言葉が不器用で無口な者にも公正に接することができた。しかし、沅蘭たちの横柄な態度は最も許せなかった。商細蕊の困った点は、組織をまとめる指導力がないという事であり、水雲楼には常に裏切り者が蔓延しており彼は無知な君主のような存在だった。二月紅は商細蕊の以前の優しさを思い出しながら、涙をこらえて彼に三回叩頭した。小来は急いで彼女を起こし紅包を手渡した。商細蕊は身を斜に構え彼女を一瞥し「今後は自分を大切に!」と言った。二月紅が去る時、腊月紅は数歩追いかけて送り出し、彼女が車に乗るのを見とどけ絶望した様子で演技のために戻った。注意が散漫した状態で舞台に立ったため客席からブーイングをうけ、落胆して舞台を降りた。役者たちは皆、商細蕊の気性を知っていた。今日は商細蕊の大一番の舞台であり、前の演技に何か問題があれば場の雰囲気が乱れ、後続の演技に影響が出る可能性があった。これは商細蕊としても大いなる回避すべきことだった。腊月紅は惨めだった。商細蕊はやはり遠くから大変な勢いで腊月紅に近づき、彼の大腿部に一蹴りをいれ、次いで雷鳴の如く激怒した。「おまえなんてことをしてくれたんだ!二月紅がいなくなったら真面目に演じる気がなくなったとでもいうのか?それなら彼女と一緒に嫁入りしてしまえ!」 程鳳台は扉の外で彼の獅子のような咆哮を聞いて、扉を押し開けて中を見ると、腊月紅が土下座し商細蕊がその背中に足をかけていた。本来なら英雄的なポーズだが、旦角の化粧がまだ半分残されており、人を殴るときに水袖が揺れ、髪の花飾りが乱れ飛び、まるであばずれ女のように見えた。 程鳳台は笑って言った「ハハハ!商老板、これは『武訓徒』?それとも『武松打虎』かな?」皆が笑い商細蕊はぷんぷん起こりながら腊月紅を離し、振り返って小来にガラスの襟飾りを留めさせた。腊月紅は地面から手足を使って這い上がった。確かめずとも下半身には商細蕊に蹴られてあざだらけだろう。他の人たちは彼を慰めて言った。「幸いなことに、お前の失敗は班主の舞台では起きなかった。もし班主と同じ舞台に立ってお前が芝居を崩したとしたら…ああ…」ともはや言葉に表すどころか考えることすらできなかった。腊月紅はその時急に身体の痛みがなんでもないものであると感じた。役者たちは演技し世間話をした。商細蕊は芝居を終え、鏡の前で半ばうつむいて呆然と座っており、雑事には無関心で一切答えない。彼の様子は単に呆けたとは言えず、むしろ舞台に入り込んでいると言わねばならない。こうして半時間ほどで、再び舞台に立つのである。その間、程鳳台はずっとソファで新聞を読んでいた。商細蕊が舞台から降りてくると、観客もその後ろを追いかけ、彼の周りにはひとときも休息の時がない。商細蕊と 程鳳台が知り合った頃、彼はどんな有名な贔屓客とも付き合わなかった。彼は舞台を終えると必ず程鳳台と演劇のことを話し、それから夜食をとることがお決まりだった。しかし二人の関係が長くなるにつれ商細蕊は徐々に通常の社交活動に戻り、ご贔屓たちとの会話が次第に盛んになっていった。 程鳳台は傍らで嫉妬もせず、きまずさも感じず、ただ自分の茶を飲み、たばこを吸い、新聞を読みながら、商売の事を考えていた。商細蕊は彼の姿を見ると心穏やかになり、何も言わなくても十分だと感じた。彼はちょっと変わっていて、周りがどれほど賑やかであろうとも、程鳳台がそこにいなければならないと思っているようで、まるで 程鳳台以外の人間はお伴ではないかのようである。たとえ二日間誰とも会わなくても平気だが、それが 程鳳台となるとかんしゃくを起こすだろう。そのため、程鳳台はしばしば用があってもなくても楽屋に座っており、まるで通って来ているかのようだ。化粧を落とすと商細蕊は贔屓客たちと一緒に食事に赴く。 程鳳台は新聞をくるりと巻いて茶卓の下に入れて帰って寝てしまう。新しい客の中に程鳳台を知らない者がいれば、この紳士は一体何者なのかさっぱり理解できないだろう。観客席では彼を見たことがないし、風格からして劇場の仕事をしているようにも見えない。二爷を知っているなじみの観客たちは、程鳳台が葉巻を片付ける時間を利用して、笑いながらこう言った。「程二爷のこの応援スタイルはますます斉王爷に似てきたね」有名な斉王爷の名前が挙がると、場にいる老世代は皆笑った。言われてみれば本当にそうだ!商細蕊も 程鳳台を見つめて笑った。 程鳳台はスーツを着ながら「ああ、 斉王、知ってるさ! 彼はどのようにしていたの?」と尋ねた。「彼はね、包間(貸し切り席)には絶対上がらない。彼は楽屋に座って大きな葉巻を吸っている。寧老板の番が来ると、斉王は脇役になって舞台に上がり、一言セリフを言って適当に動き、それが終わるとまた楽屋に戻って大きな葉巻を吸っていたよ。」斉王爷が寧九郎を支えるように、 程鳳台が商細蕊を支えるという比喩自体がある種の曖昧な意味を含んでいる。この業界にいる誰もが斉王爷と寧九郎の関係が何を意味するかを知っている。 程鳳台は笑って言った。「私は斉王爷よりも熱心さ。商老板に聞いてみて。俺は包間に入る回数が多い。今日のこの芝居を商老板が演じたのは少なくとも八百回は見ているよ。もう前に行くのは面倒で、聞いているだけで歌えるようになったさ!」観客たちは一斉にどよめき、「二爷一度唄ってみせてよ。あなたはいい声をしてるから商老板に教えてもらえばすぐにできるよ!」と言った。 程鳳台は大笑いし「彼が俺に教えるって?彼の性格からして、叩かれるのはごめんだよ!」彼は商細蕊を見つめて言った。「さて、俺はこれで失礼するよ。皆さん楽しんで。商老板?」商細蕊は頷き言った「明日も来てくださいね。小周子と僕の『紅娘』を見せてあげる」程鳳台は笑顔で応えた。翌日は周香芸と楊宝梨が入団する日であり、同時に入団する老生二人、花臉二人、武生一人もいた。みんな一緒に梨園会館で祖師爺に祈りを捧げ、例によって賑やかな様子が見られた。しかしこの賑やかさは外部に公開されるべきではないもの。程鳳台はもともとこれらの役者たちの内情にはあまり興味を抱いていなかったが純粋に商細蕊のお供をするために来ていた。商細蕊が彼を招待して見守ってくれるよう頼んだので、誰も異議を唱えなかった。その他の参加者は、数人の梨園の名優や前輩たち以外は興味津々の杜七だけ。杜七は腕組みをして満足そうに微笑み、まるで自分の家に新しい仔猫がやってきたかのようで、彼ら若き役者に大きな期待を抱いているようだった。周香芸と楊宝梨はそれぞれ青い長袍を身にまとい、きちんと整えられて、書類を整理し、手印を押した。楊宝梨は一気に興奮し、役者として成功した光景を妄想していた。一方、周香芸はあまり気にせず、ただただ苦労が実り、これからはもう夜叩かれ朝責められる生活に我慢しなくてもいいんだと感じていた。手印を押すとき、周香芸は涙を浮かべた。祖師爷に祈りを捧げると、周香芸は規則正しく頭を下げ香を炊いた。楊宝梨も頭を下げ、突然商細蕊の方に向かって跪いて地面に額をつけ、はっきりと三回頭を下げた。皆は驚き、何を意味しているのか分からなかった。商細蕊は小さく後ずさりし、なんでここ最近こんなに私に頭を下げる人が多いんだろう?と思った。楊宝梨は「ここにおわす祖師爷は梨園のすべての人間の祖師爷、商老板は私楊宝梨の祖師爷です。祖師爷の前で、弟子が一礼します!」といい、周香芸は呆然と立ちすくんでいた。彼には同じようにできるはずがない!楊宝梨が言ったことは彼も同じ気持ちではあるが、しかし彼には真似できない!楊宝梨のこの行動は、確かに悪目立ちすぎると思われた。外部の人間たちは、このようなやることが派手な者が劇団にいると何か騒ぎが起こるかもしれないと心配した。水雲楼の何人かは同様に大胆で目立ったことをするようなものもいたので、同じようなタイプを見ると競争意識を感じ、軽蔑の眼差しを向けた。しかし他人がどう見ようと商細蕊は明らかにこのお世辞の技に非常に感激しており、にっこり笑って頭を振り、口にはわざと謙遜な言葉を添え手で楊宝梨を立たせた。まるで暗君のような陶酔状態で、他人が見ていて慌てるほどだった。儀式が終わると、皆は食事に行くために前後に呼び寄せられた。 程鳳台はまず行かないだろうと考え、商細蕊に別れを告げた。商細蕊は外部の人たちの前で猫をかぶる演技はまだまだ続き、真剣な場面では礼儀正しく、少しの引き留めを演じた後、黙って人を解放した。 程鳳台は家に戻り、顔を洗って食事をしようとしたそのとき、彼の大番頭が真っ青な顔で、北方の荷物にトラブルが発生したと急いで報告に来た。 程鳳台はそれを聞きおおよその状況がわかった。すぐに眉をひそめて尋ねた。「荷物は今、誰の手中にあるんだ?負傷者はでたか?」怪我だけにとどまらず、二人が死亡し三人が負傷した。死んだのは彼の最強の部下だった。 程鳳台は高額な商品を失い、部下二人を失ったことに心を痛めた。彼は北平に来てからの数年間、外部では曹司令の銃で守られ、内部では范家の支持を得て、どちらも役に立たない地域ではお金を使って道を切り開いてきた。乱世の中にいても程鳳台のビジネスは順調だった。されど乱世であり、予測できない出来事が次々に起こり、防ぎようがない。家にこもって座っているだけの善良な人々ですら、いつ災難が降りかかるかは保証できないのだ。火中で仕事をしているならなおさらである。江湖の世界は常に暗黒だ。 程鳳台はすぐに冷静になり、厨房に料理を命じ仲間に食事を与えながら話を聞いた。二奶奶はその男が元気がないのを見て、窓を隔てて座り込み恐る恐る聞き耳を立てた。当初商品を護送することは危険だとわかっていたもののこんなに状況が混乱するとは。軍隊が武装してトラックを護衛していたのに、それでも何者かが堂々と強奪するとは思ってもみなかった。そして強奪が始まると、それはまるで戦争さながらになる。食事の後、 程鳳台は部屋にもどり二奶奶と相談し、二人の部下の家族に一時金を支払うことにした。彼らは十年間彼に従い生死を共にしてきた。彼は、二つの家族が一生涯にわたって食べていくだけの保証でなければならない、と良心を持って決意した。それは小さな額では収まらない。二奶奶はこれを聞き、いくらとも聞かずに無言で封筒を開け印鑑を取り出し、支票に捺印しながら言った。「このことは、あなた自身が直接相手の元に行ってお金と心からのお悔やみを届けて初めて仁義がなりたつというものよ。」程鳳台は笑って言った。「ああ、その通りだ。最初に姉さんの家に行ってくるよ。夜遅くに街を出るのはよろしくない。今のところ誰が手を下したのかもわからないし。これは冗談ではすまされない。もし義兄たち軍方の話じゃなかったら、別の方法を考えなければ。君は待たなくてもいい。今夜は范漣の家で寝かせてもらおう。彼と話をするから。」そして続けて言った。「支票はとりあえず君が持っていて。この金は一度に全部渡さないほうがいい。普通の家庭が突然富むのは良くないことだ。」三男坊は乳母に守られながらふらふらと部屋にやってきて 程鳳台の足につかまった。 程鳳台は戸棚の前に立ちタオルで顔を拭き、汗で頭は濡れていた。心中は考え事でいっぱいで、足を震わせ子供を見ることもなかった。三男坊は口を尖らせ、すぐに母親に抱かれて連れ去られた。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*思うところあってこの章より簡体字名詞を日本語の漢字表記にすることにしました。(以前の部分も徐々に訂正予定です)
]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 60-2
http://musicbirds.exblog.jp/33815619/
2024-02-02T17:17:00+09:00
2024-02-02T17:18:26+09:00
2024-01-31T10:04:47+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商细蕊は水运楼の中では比較的若い方であり、滅多に先輩風を吹かせる機会はない。しかし今回は容赦なく大人びた態度を見せ、人々の心を背けるような形になった。商细蕊は考えた。結婚すれば確かに看板役者を失うことになり、子供を産むことで喉も体形も崩す危険がある。良い苗が完全に台無しになる。ちゃんと気を付けていても少なくとも二年は復帰できないだろう。二月紅はまさに絶好の年齢で、この時期の二年は無駄にできない。だから互いを考慮して、薛千山が残してくれた小さな罪は流産させるべきだ。迷う余地はない。商细蕊は自分の考えは正しいと思ったが、この非情な一面が露呈することでその場にいる者たちの心はひんやりとした。沅兰は直前まで息巻いていたが、堕胎の話を聞いて女性として感情移入したかのように何かうすら寒いものを感じ、低い声で「野種を残すよりも、流産させる方がいい」とつぶやいた。その声はどこか嗄れておりそれ以上何も言わなかった。程凤台は彼らが女優というものに対してどのような規則を持っているのか理解できなかった。ちょっとおかしくないか?たかが一幕の芝居のために、人の命をかける値打ちがあるんだろうか?二月紅の心は凍り付き泣きたくても涙もでない。弱々しく首を振りながら「 班主、私…それはできません…」といった。 彼女の額にはらりと落ちた一房の髪が腊月紅の首筋で揺れ動き、彼の心をかき立てた。彼女はもろくて優しい姉妹だからだ。商细蕊は言った「まだなにか問題があるの?少しの痛みも我慢できないのか?」しかし、これは痛みとは程遠い話だ!腊月紅は顔を挙げて叫んだ「 班主!どうか情けをかけて師姐を嫁がせてください!」商细蕊は叱責し「 黙れ!お前が口を挟むことじゃない!」と声高に叫び続けた。「 二月紅!」 この一声は喉が破裂するかのような音でそれはまさに大花脸(くまどりの男役)役者の声であり、格別に怒っている様子が見て取れた。二月紅は恐怖で震え急に頭を上げ、商细蕊と目が合った。商细蕊の双眸は澄み、一切の人間味がなく、冷たくて硬く、まるでこの世のものではない、つまりそれはまるで血肉の通った眼ではないかのようだった。水运楼で商细蕊に三、四年もの間直に教えられてきた彼女は、商细蕊の性格をよく知っていると思っていたが、今日は彼女が以前知っていた班主よりも百倍千倍も理不尽に思えた。商细蕊自身の親師姐が水运楼を離れて結婚することになった時のかつての噂話を思い出し、商细蕊がどれほど冷酷で非情に夫妻の仲を引き裂いたかを考えると、師徒の情に頼ることは不可能に思えた。二月紅は冷や汗をかき、額を腊月紅の背中に押し付けた。腊月紅は心の痛みが限界に達し、焦りのあまり生まれたばかりの子牛のような力で商细蕊に向かって頭突きをした。商细蕊は数歩後ろに退かされるほどの力で頭をぶつけられた。まさか彼が本当に手を出す勇気があるとは!腊月紅は商细蕊の鼻先を指差して叫んだ。「あなたたちは何の権利があって私の師姐を非難するのか!薛千山が彼女を選んで彼女が自ら行きたいと思ったからか?彼女が行きたくないと言ったら、冷やかしを言うのをやめてくれ。すべては彼女が背負うことだ!」商细蕊は胸を押さえながら腰を折ってむせ、程凤台は彼を心配しつつも笑って背中をさすって言った「まったくこれは…まるで狂った犬だな」狂ったのはまだ序の口だった。腊月紅はテーブルの上から西瓜の包丁を手に取り、みんなに向かって振り回した。沅兰たちは驚きの声を上げて跳び上がって逃げた。程凤台は腊月紅が本気で発狂するとは思わなかったので商细蕊を守るために急いで彼の身を後ろに回し、小来も必死で商细蕊を引っ張った。腊月紅は刀先をまず沅兰に向け、二度振り回した後商细蕊を指差し、歯を食いしばりながら一言一言言い放った「師姐は結婚が決まった!また誰かが彼女をつるし上げて苦しめようとするなら、僕は、僕は・・・!」矛先を誰に向けたらいいかもわからずむやみに包丁を振り回すと、二月紅が彼の腰を抱きしめ「腊月!駄目よ!」と泣き叫んだ。腊月紅は雄たけびを上げ力強く刀を振り下ろし、目の前の茶卓を叩き割った。すかさず商細蕊は、籠から出された野良犬のように飛び出し「腊月紅!」と大声で叫びながら、彼を蹴り倒した。そしてその手から西瓜包丁を奪い遠くへ投げた。大して食べていない腊月紅が商細蕊の相手になるわけがない。かつて平陽で商細蕊が武生を演じていた時、その拳法は地元で一世を風靡していた。普通の大男の荒くれものなど、一対五でも楽に勝てたほどだ。北平に来てからは優雅な演技を目指していたのに、自分の家でこんな悪漢と対峙することになるとは!腊月紅の非難が正当かどうかは気にせず、まずは叩き潰してから考るとするか!と腊月紅を蹴り倒した商細蕊は、そのまま彼の背中に座り込み言った。「さあ私を殴る気か?」と言いながら、さらにお尻を重々しく沈ませた。「さあ殴る勇気があるのか?!」腊月紅は咳込むと血を吐いた。これでは彼が潰されてしまうかもしれない。周りの人々は今、驚くべきか笑うべきかがわからない。とにかく、このように人が生きたまま押しつぶされるのを黙って見ているわけにはいかない。あわてて商細蕊を引き上げようとしたが彼は頑固にも動こうとしない。彼の人生では義父と曹司令以外の誰かに殴られたことがない。あまりにも不当な扱いだと腹を立てた。彼は連打で腊月紅の頭をなぐり、同時にお尻を持ち上げて叩き続けた。痩せっぽちの少年腊月紅は、すぐにでも商細蕊によってやられてしまいそうだ。小来達は商細蕊を引っ張りながら「商老板立って!このままじゃ死んじゃうわ!」二人の师兄は手に握ったものを離すものかと腕やひじを使ってそれぞれ片方ずつ商細蕊を抱え込もうと試みた。しかし彼に振り払われ思わず笑いながら言った。「師弟!おいおい!もういいんじゃないか?俺たちが子供相手にこんな無駄な喧嘩をする必要はないだろう!強情にもほどがあるよ!」 沅兰と十九も傍らに立って諭した。「彼を教育するのに班主ともあろうものが自ら手を下す必要があるかしら?指導教官の分を残しといたらどう?」 二月紅はまったく手を出すことができず、ただ胸を裂かれんばかりに泣きじゃくるだけだった。程凤台はもう笑い死にそうになっていた!前にすすみ出てみんなを引き離し、腕を抱えて商細蕊を嬉しそうに見つめた。その目の表情からは「おいおい、君は立派なボスだろう?こんなことして、笑えるぞ」と言っているようだった。商細蕊も彼を見上げ、その後首を振るとまるで「あなたには関係ない」という風に再び腊月紅を突き飛ばした。程凤台は眉をひそめ、商细蕊の首根っこの肉をつまんで引き上げた。商细蕊はすぐに首の後ろが痺れ手足が硬直して戦闘能力を失った。まるで猫のように体をくねらせると、あっという間に程凤台に連れ去られた。程凤台は彼の首根っこを掴んだまま家の中に足を踏み入れ背後の人たちに手を振りながら言った。「さ、解散解散、用があればまた明日。」師兄師姐たちは商细蕊にこんな弱点があったのかと呆気にとられた。一緒に育った仲なのに、なぜ知らなかったんだろう?彼らは当然わからない。彼らどころか商细蕊自身も元からの性質でベッドの上で程凤台に気づかれたのか、それとも程凤台と一緒になってからのものかさえ分からない。これは程凤台だけが握っている秘密の奥の手といえよう。程凤台は彼をベッドの上に引きずりあげ(←部屋に引きずり入れ)、彼は勢いよくベッドに転がりいら立ちの声を出した。うーむ、うーむ、と長めの尾をひく声である。ちょうどその時どこかの胡同の犬が、まるで尾っぽを踏まれたかのように長い遠吠えを始めた。その犬の声は商细蕊の声よりも一つ高い音程で響き渡り、調子は同じだ。程凤台はびっくりし、信じられないと思いながらも注意深く聞いていた。商细蕊は声楽には異常に敏感で、犬の遠吠えが聞こえた瞬間に感じ取り、内心戸惑いながらも、きっと程凤台がからかってくるだろう、と思い、枕の下に頭を隠して苦しそうにハミングを続けた。程凤台はしっかりと聞いてから、嬉しさを抑えることもなく笑い商细蕊のお尻を叩きながら「おい、商老板!聞いてよ、お隣りさんが君と対話しているよ!それも商派の対話だ!」と言った。商细蕊は怒って言い返した。「ぷっ!それはあなたのお隣りさんでしょ!」二人は同じ通りに住んでいるので、程凤台は寛大に認めた。「そうだね、それはおれのお隣りさんだ。もともと商老板の声が、おれのお隣りさんについてきたんだ!」商细蕊は不愉快な笑みを浮かべ怒りを込めて言いました。「ムカつく!あの卑しいやつ!」水云楼のような場所にいると、汚いののしり言葉を学ぶことができる。しかし商细蕊はあまり悪態はつかず、非常に怒っているときだけ「卑しい奴」と「恥知らず」がでてくる。この「卑しい奴」が誰を指しているのかはわからないが、あの师姐弟であることは間違いない。程凤台は笑って腕枕をしながら彼のそばに横たわり「君たち水云楼は本当に面白いな。君は師姐が結婚したことで人を殺そうとして、彼は師姐が結婚できないといって人を殺そうとする。やばい師弟だな!俺の子供達は君よりも分別があるよ!そうだろ?君ら二人が入れ替わったら世界は平和になるだろうね!一番大喜びするのは蒋梦萍だな。」商细蕊は不満そうにうーむと唸っている。程凤台が尋ねた。「君、あの二月红、本当にそんなにいいのか?」商细蕊は枕の中から悶々と「うん」と答えた。女子が旦役を演じるのは自然体で、男子が異性のしぐさを学ぶための特別な努力は必要ないため、二月红は師兄弟たちよりも前に進んでいた。もう少しで成功するところだったのに商细蕊は悔しくも涙をのむことに。程凤台は言った「じゃあ、二月红と小周子、どちらがいいと思う?」商细蕊は考えながら「歌唱技術はほぼ同じ。技術的にはもちろん、小周子の方が優れている。二月红は武旦が少し足りない。」と答えた。程凤台は笑いながら言った「商老板、小周子と二月红を交換したら得かな損かな?」商细蕊は枕から急に身を乗り出し彼を見つめた。「范涟が小周子を引き抜くつもり?」「范涟が小周子を手に入れられないからこそ、だ。范涟はそういうのに疎いし、小周子をどうやって使うつもりなのか?小周子をステージに立たせて何をしようと?四喜儿の心の内はあきらかだ。小周子がデビューするのを嫌がって放す気はないだろう」商细蕊はがっかりして言った「范涟は使えないやつだな!それでも僕にニヤニヤとしてくるとは。それではどうしたらいい?」程凤台は「四喜儿の態度を見て、彼に圧力をかけて引き渡してもらうしかないだろうなあ。四喜儿に迫るためには財力と権力の両方が必要だろう。だから俺は適さない。俺は君ら梨園とは縁がないし、話にならない。范涟も適してない。彼は賢く身を守るだけで、人を怒らせることは避けるからね。杜七は文人であって金はあるが権力不足だし四喜儿は彼を恐れない。なんといっても彼は性格が悪いし、おそらく四喜儿との交渉は破綻するだろう。唯一ここは薛千山に頼むしかないな。彼はお金をゆすられることも恐れないし、梨園との関係もあるから、場に慣れている。必要なときには、彼もちょっとしたギャングの様にふるまうこともできるしね!」商细蕊は頭を垂れて考え込んでいた。程凤台はゆっくりと周到に先を考えるように続けた「大師姐沅兰に薛千山と交渉してもらおう。金銭のことは一切触れず、ただ単に二月紅が素晴らしい役者で才能があるから彼女がいないと水云楼はまったく成り立たないと言ってもらえ。唯一、周香芸がなんとか代わりになりそうだと。周香芸を呼ぶために水云楼は二月紅をむだに手放すことはない」四喜儿から小周子を引き抜くにはおそらく二月紅二人分ほどの身売り金に相当するだろう。でもこれには金がからまない!表面上金の話はしないのに、実質かなりお得な話だ!商细蕊はこの理屈を理解し、頷き続けた。「実際、沅兰がうまく話せば二月紅を天まで持ち上げ役者二人分を交換することもできるかも。商老板は他に誰か引き抜きたい子はいる?でも、でもまだ名が売れてない子じゃないとだめだよ。」商细蕊の目が輝き、程凤台の上に飛びかかって歓喜に満ちて言った「いるよ!無名の子が、一人いる!青衣を歌う子、声が特に良いんだ!」程凤台は彼の腰を抱きしめ(←彼を見つめ)た。本当に子供のような顔をしてる。時折曇ったと思ったら急に陽気になり、さっきは雷鳴と嵐のような騒ぎだったのに今はぱっと花が咲いたように嬉しそうだ。商细蕊はさらに力強く抱き返し、二人は空気をも抱き込むように一緒にころころと転がった。程凤台は商细蕊の上にのり彼の顔と首にキスをした。彼は程凤台の顔を引っ張って、二人は互いに見つめ合うようにして言った「二爷、あなたは本当に私の狗头軍師だね!」程凤台は笑って言った「俺は中国全土を商売で渡り歩いてきたんだ!君のこの劇団の事なんて、おちゃのこさいさいさ!杀鸡用牛刀 (鶏を殺すのに牛刀を用いる) ってもんだ!」商细蕊は油で綺麗に整えられた程凤台の髪型をぐしゃっとかき乱し、一見真剣な面持ちで言った「狗头軍師、ほら、犬の頭を触ってやったぞ!」程凤台は怒り笑いし、頭を沈めて彼をがぶりと咬んだ。(←この二爷を犬頭呼ばわりするとは、どうこらしめてやろうか!)
*緑部分はWEB版のみ *は書籍のみの代替部分
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*「狗头军师」(犬頭軍師)→軍師ではあるが下策なアイデアをばかり出す人 「杀鸡用牛刀」→小さな事を処理するのに大げさな方法は要らない*芝居一筋の商老板、時には他人への非情な行動もいとわない。ここに第三者的立場で冷静に判断できる二爷がいてよかった。「犬頭軍師」とはいえナイスな取引ではないかな。さすが世渡り上手のビジネスマン。小周子ゲットへの道筋がこういう流れになるとは。そして狂犬と化した商老板を一瞬でおとなしい猫ちゃんの様にふにゃんと黙らせるテクがウケる!( ´艸`) 狂犬に犬頭軍師、近所の犬と犬ずくしですね。]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 60-1
http://musicbirds.exblog.jp/33798656/
2024-01-21T17:07:00+09:00
2024-01-21T20:22:00+09:00
2024-01-21T15:29:30+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
翌日程凤台は早起きしたが、歯を磨いて朝食をとりすでに午前十時を過ぎていた。鏡の前でスカーフを首に巻いていると三男坊がパタパタと近づいて父親の太ももに抱きつき、彼を見上げた。程凤台は喜んで「おい、この悪ガキ、パパと呼んでみろ」と言った。三男坊は一生懸命『パブプー…』と声に出したがぶくぶくいうだけで、唾液が程凤台のズボンに飛び散った。程凤台は大笑いし、足を引いて子供の柔らかい髪を触り、彼を抱き上げ重さを感じた。彼は腕の中でまだ小さく、性格や顔だちがまだはっきりしない。ただ白くて柔らかく太っているだけだ。もしも二奶奶がそんなに気にかけないなら、彼を適当に育てて形成していくのも面白いかもしれないと考えた。子供はこの時期が最も楽しい時だ。十歳くらいになると面白くなくなり、特に親子の関係が疎遠になる。そんなことを考えていたら、十数歳になろうとしている長男と次男が挨拶しに入ってきた。最近大学でストライキがあり彼らも影響を受けて休校になっている。二人の兄弟は家に拘束され、一日中読書したり勉強をしている。程凤台は言った「弟の面倒を見てやってね。お母さんがいつも抱っこしきすぎて体調が悪くならないように。」長男は頷き、にこにこと父親を見つめ、何か言いたげな様子だった。程凤台は続けた。「使用人にも抱かせすぎないで。抱きぐせがついて地面を歩けなくなると困る。兄貴として、普段から一緒に遊んで、話すことを教えてあげてね。」長男は再び頷き、しばらく考えた後、「父さん、僕たちがお母さんと一緒に弟の世話をするよ。お父さんも一緒に外に出て散歩しようよ」と言った。程凤台が子供たちを見ると次男坊は兄の腕の後ろに隠れ、長男はとても控えめに笑っていた。程凤台は子供たちを連れて行くことにあまり乗り気ではなかった。子供を連れ出すと二奶奶との間に問題が生じる可能性があったからだ。しかし普段子供たちは彼にほとんど何もおねだりをすることはない。彼はわらってごまかすように「お母さんに聞いてみて。お母さんがいいと言ったら連れて行くよ」と言い訳した。予期せず、その日は二奶奶が麻雀をする人を家に招待していて、子供を見る暇がなかった。二人の兄弟たちが懇願すると彼女は了承した。程凤台は仕方なく子供たちを連れて後海に行き、遊んで食べて買い物をして、公園を散歩した。二人の子供たちは大喜び、汗をかいて楽しんだ。午後、子供たちを家に送って昼寝させた後、彼はさらに大きな子供のことがきがかりで、直接商宅に向かった。程凤台心の中の大きな子供商細蕊は、今まさに庭の籐製のベッドの上で巨大な赤子のように仰向けに寝そべり、頬が紅潮し息を荒くしていた。その後ろでは小来が彼のために傘を差し持ち、その前には小さな四角い机があり、上には急須やてぬぐい、折りたたみ扇子、西瓜が並んでいた。あと一つ拍子木があれば講談師の台のようになるところだが今は彼の執務机として機能している。沅兰と十九は二人で水雲楼の内務を引き受けているので当然のようにこの場にいて二人の兄弟師匠と一緒に座っており、中央に跪いて泣いている二月紅を囲むようにして、まるで三者会議のような状況になっていた。役者たちはいつも昼夜逆転の生活を送っている。商細蕊は昨日大変怒っていたが誰も理由がわからなかった。皆商細蕊の号令に応じて、侯玉魁の喪に服し飲酒や、女、賭け事を避けていた。誰が彼の怒りをかうためにききだそうとなんてするだろうか?今日は何もない日でみんなよく寝て午後までダラダラしてから二月紅を連れてきた。この時点で商細蕊はすでに怒りで具合が悪くなっていて鼻血が流れ、声もかすれていた。本来京劇役者は少し喉に不安を抱えているが、彼は毎年秋に咳をする傾向があり、重症の場合一か月も咳が続くことがある。しかし、今回は完全に怒りが原因の体調不良、降ってわいた災難で無実の罪をきせられた感がある。それだけに更にイライラするのだ。程凤台が入るとその様子を見て足が止まり、笑って言った「おや!商老板、お取り込み中だね。邪魔しちゃ悪いな」 商细蕊は何か言おうとしたが喉がゴロゴロと音を立て二回咳払いし、眉をひそめて目を見開き怒りっぽくなった。程凤台は彼が自分にいて欲しいと思っていると察した。沅兰はその表情を見て急いで立ち上がり、笑って言った「二爷は他人ではないでしょ、ここに座って!豪華な椅子もありますよ。」 程凤台はゆっくりと中庭に歩み寄り「師姐、座ってください。私は立ってお茶を飲んで涼むよ。」そう言って商细蕊の茶壺を直接手に取り、一口飲むと、茶の中には火薬のような奇妙な匂いが漂っていて飲み慣れない。たたまれた扇子を開けてぱたぱたと扇ぐと一面に金色がさす。台の上にあったのは使い古した金泥の牡丹扇子だった。 沅兰は笑顔を押さえ、冷酷な目で二月红に尋ねた「あんたどうぞ続けて!」二月红はすでに不正な関係をきちんと認めていた。もう何も話すべきことはない。沅兰がこのように執拗に尋問しているのは、明らかに二月红の面子をつぶすつもりだ。沅兰がこんなに憤慨しているのも理解できる。彼女は梨園で賢くて有能な者や注目を浴びる者に嫉妬し、おまけに若くて美しい女が良縁を見つけることを毛嫌いしているのだろう。沅兰は北平で長い年月を過ごしても、薛千山とはいい関係にならなかった。商细蕊も彼と付き合ったことはあるが、なんといっても商細蕊は商細蕊だ。この二月红はどこの穴ぐらから這い出てきたっていうの?毛も生えそろっていない卑しい娘のくせに! 商细蕊は彼らがどのようにねんごろになったのかという点には全く興味がなく、水云楼に彼女を居続けさせるためにどうやって二人の仲を引き裂くかに頭が向いていた。重要なのは舞台で自分と共演させるためだ。自分の師兄や師姐の前でドアを閉めると、理知的で友好的、忍耐強いといった徳目はすべて一旦無視し、宁九郎に教えられた舞台人としての行動様式もすベて捨て去り苦し気に「結婚しないで、ここに残ってくれ。私が守ってあげる。」といった。程凤台は彼のしゃがれ声を聞いて、その刺すような耳ざわりさに少し心配した。商细蕊の声が損なわれてしまうのは、まるで絶世の美女が顔を傷つけられたか、世界一の手練れが武功ができなくなったかのようで、特に心が痛むのだ。彼の喉が痛むたびに、ここまで壊れたらもう歌えなくなるのではと配するが、しばらくするといつも通りに回復してしまい、それはまさに持って生まれた素質であると言わざるを得ない。二月紅はおろおろして十九を見つめた。十九は商細蕊の今回の意図をよく理解しているので珍しく沅兰に向かって直接はむかうことは避けた。彼女は二月紅を助けるために商細蕊と対立するわけにはいかない。十九は片方の眉を上げひたすらにお茶を飲み二月紅と目を合わせないようにして考えていた。何を慌てているんだろう?薛千山はすでに結婚を公表してるし彼はあなたを留めることができるっていうのかしら?こんなことで人を引き留めることができるなら、それは真の班主の腕前ってものよ。二人の大師兄は自分らには関係ないと決め込んで無視していた。一人はくるみをこねくり回しながら目を閉じて神妙にしているし、もう一人は鼻をすすり小声で歌いながら、みずから一杯の旨いお茶を入れて優雅に味わっていた。これはまるで北平の何もすることがない老人たちの風景で、彼らはそこに座りすっかり背景となっている。沅兰は商細蕊の代弁者となり、机をたたくと二月紅の顔に向かってつばを吐いた。「班主がひきとめてるんだからもう少しメンツをたてたらどうなの!薛家が華やかにやってきておめでたい行事を行うなんて本気で期待しているの?そんな夢を見るのは無駄だわ!ただの寝言じゃないの?それにあんたと水雲楼との契約はまだ終わってない。私たちはあんたを手放さないし、薛家も公然と奪いに来るわけにはいかない。もう少し分別を持ってくれないと、これからは舞台に立たせないし、一生戏班から出られないようにしてやるわ!」二月紅はただひたすら地面に跪いて泣き続け、太陽の日差しによるものなのか息を詰まらせているのか分からないが、小さな顔は真っ赤になり、沅兰は憤慨して罵り続けこちらも真っ赤になっていた。程凤台は仲間同士の冷酷さを目の当たりにし、口を挟む余地がなく、軽蔑の念を抱いていた。彼はこの光景を好ましく思っておらず、一群の人々が一人の少女をいじめているのはどうかと考えていた。商細蕊の肩を軽く叩いて部屋に入って寝るつもりだったが、商細蕊は彼の手をしっかりと握りしめ離そうとしなかった。商細蕊は二月紅の泣きっ面に悩まされ、同時に沅兰のつるしあげがどこかずれていると感じていた。彼の考えは、結婚は火の中を飛び越えるようなものであり、舞台で歌い続けることが唯一の明るい道だということだ。沅兰の言葉は、まるで遊女が身請けされ新しい人生を始めようとする時に、おかみが値段をつり上げて手放さないようなものだと感じていた。商細蕊はもぐもぐとわき目もふらずに西瓜を食べ始めた。彼は西瓜の種も吐かずに食べ、まるで猪八戒が高麗人参を食べるかのようであり、程凤台は彼は味覚を感じ取れているのか疑念を抱いた。一切れを食べ終えると、のどがすっきりと冷たくなり嗄れた声で短く言った。「彼女に路金蝉の事を話してくれ。」十九と二人の師兄は皆驚きで顔を見合わせた。沅兰も一瞬固まり、それから二月紅を睨みつけるように振り返った。二月紅はその厳しい視線に怯え唸った。商細蕊が水雲楼を引き継いで以来既に七、八人の女優たちを嫁に出していた。幼少期から共に成長した師姉妹もいれば、よそから来た女優たちもいた。彼女たちはすべて人の姨太太(妾)として嫁いでいった。その中で最も良い結末は子供を生んでつつましく淡々と過ごすこと。路金蝉の場合は最悪の結末ではないが最も典型的なケースと言えた。最初は互いに愛し合いまだ結婚する前は、彼女の名前「金蝉」にちなんで、男性は黄金でできたガチョウの卵くらいの金の蝉を彼女へと楽屋に届けさせた。箱を開けるとまばゆいほどの金塊のような輝きが広がった。蝉の羽は金糸で織られていて模様ははっきりと細密で、まるでいままさに飛び立とうとする姿だった。二つの眼は黒翡翠がはめ込まれ、脚の棘までもが生き生きとしていた。これは宮廷の職人が手掛けたといわれ、実に貴重なものだった。当時みんなは羨ましがった。商細蕊も曹司令宅や斉王府で多くの珍奇で異国情緒たっぷりな宝物を見てきたが、この金蝉には目を奪われ手に持ってしげしげと観察した。路金蝉の夫は笑って商細蕊に言った。「商老板、生身の路さんを僕におくれ。僕が金の様にあつかうってことがこれでわかるだろう?」周囲の女優たちは一斉に歓喜の声を上げ路金蝉は大変得意そうに笑った。しかし、結婚し実際に生活を始めたら夫は彼女を大して大事にはしなかった。結婚前には天に届くほど褒めそやしていたのに、彼女と一緒に過ごす時間は減っていった。そして路金蝉は徐々に自分が孤立無援な環境にいることに気づき始めた。家族全体は元妻たちの一団であり、多くの視線が彼女に注がれ、何かあればすぐに叱咤される。劇団にいた頃に培った派手な性格や、ファンの追っかけや拍手に慣れていることが、彼女を賑やかで多彩な生活から離れ普通の夫人になることを難しくしていた。歌っている時は結婚して安定した生活が欲しいと思い、結婚すると夢中で歌い続けたくなる。そのため、心の喜怒哀楽が安定しなくなり時間が経つにつれて夫も彼女に見向きもしなくなり家庭内での生活がますます困難になっていった。一度望みをかなえるためにある集まりで歌を披露した。そのあとすぐに彼女が男の役者とねんごろになり楽屋で手を握ったなどと噂され、夫からは顔に平手打ちをされ、片方の耳が聞こえなくなった。その後子供を生むと喉や体つきが完全に崩れ、もう二度と戻ることはできなくなってしまった。ある大雨の日、路金蝉は夫の家とどうしても折り合いがつかず、ずぶ濡れのまま水云楼の裏口に駆け込み商细蕊の前でひざまずき、彼女は舞台に戻れるなら口をきかなくても構わないと言った。商细蕊は彼女のしわがれ声、浮腫み、青白い顔、定まらない目を見て、彼女が人間らしさを完全に失ってしまったことに驚いた。女性が出産後に経験する変化について考えながら彼女を受け入れるべきかどうか思案した。しかし、商细蕊がはっきりと考えを巡らせる前に、夫の家から人が現れて路金蝉を引きずり出した。路金蝉は雨の中で商细蕊の名前を叫びながら助けを求め、その声に誰もが恐れおののきぞっとした。商细蕊は後を追い雨に濡れながら高らかに言った「彼女は歌いたいんだ!彼女に自分で決めさせてあげてくれ!」しかし、誰もが彼を無視した。このような家庭に陥ってしまった女性は、すでにこの段階ではもはや自ら自分の運命を切り開くことはできないのだ。沅兰はまるで脅すように路金蝉の過去を話した。座っていた一人の師兄は、この美しい師妹のことを今でもはっきり覚えており残念そうにため息をつき、それは物語の悲惨さを現実味を帯びたものにした。程凤台は二月红の顔色が真っ赤から真っ白に変わり、うなだれていくのを見た。沅兰は商细蕊がじゅるじゅるとスイカを食べている姿を背景にして自分の胸を叩き心底言い放った「なんかいいなさいよ!班主とは比べものにならないけど、私のからだもなかなかのもんだとおもわない?誰もいないわけじゃないし、結婚してと跪いてくれないわけじゃない!もう三十歳近いのになぜうまくいかないの?私だって女なのにさ!」ここで彼女の目が赤くなりハンカチで鼻を押さえ、まだ言い続けた「あなたの経験はまだ浅い!小金持ちの男を結婚相手に選んだけど、誰もが新しいもの好きで古いものが嫌い!信頼できる人がどれくらいいるのかしら。普通女性は生計をたてる手腕がないと男に頼って一生喰っていくしかないの!私たち自身は稼げるし、若いときに十分お金をためないと、他人の家に行ってすべて台無しにされちゃうわよ。あんた達はちゃんとした夫婦でもないし、後ろ盾も蓄えもないし手段もない、あんたは辛抱強く耐えるしかないのよ!路金蝉はあんたよりも何百倍も賢いわけじゃない。金の蝉を手に入れたのにああいう末路よ。あんたは愚かよ、薛千山に金の龍や金の鳳凰を作ってもらわないと、他人の家の中でやっていけないわよ!」沅兰の口調は不快だが言っていることは正しい。程凤台と商细蕊、長くこの世界で生きてきた者たちは理解していた。妾になることは問題ないかもしれないが、まだ世間知らずで何も持たないまま他人の家に入って小妾になることは、心を傷つけられやすく深刻な場合には命にかかわることもある。商细蕊は二月红が火の中に飛び込むことになると多くの例を見てきた経験から予測できた。二月红はこれらの話を聞いて、お腹を抱え口を押さえて悲しみに打ち震えながら言った「遅いわ、もう間に合わないのよ!」そう叫んだ後、彼女は恥ずかしさと悔しさで身をかがめ、地面に倒れて泣き崩れそうだった。人々は彼女のお腹を見て、一様に表情を曇らせた。程凤台は「薛千山、あの畜生め!」と心でつぶやいた。最初に関係を持ってその後結婚するならともかく、妊娠してから結婚とは。いたいげな女の子がいきなり妊娠し、まだ子供時代を十分味わわないままに自分が母親にならなければならないなんて、怖くないわけがないじゃないか。小来は日傘を折り畳んで二月红を支え上げようとした。しかし、二月红は動こうとせず、ただ傷ついて泣くばかり。商细蕊は西瓜から顔を上げたがなぜ二月紅が悲しむのかわからない。「間に合わないことはない。心配するな、私が薛千山と相談する。彼だって無理強いはしないだろう。」本当に何もわかっちゃいないなと程凤台は舌打ちし商细蕊の背中をパンと叩いた。沅兰も商细蕊にすぐに説明せず、代わりに十九を睨みつけ冷笑して言った。「これがあなたがかばってる人間なのよ、身ごもってるって訳。知らなかったの?」彼らの掟では、誰かと寝ることは大したことではないが、妊娠してしまったら完全に卑しい存在となり、妊娠しているのに黙って報告しないというのは師を欺くこととなり、致命的な過ちだ。十九は怒りで顔色を変え、前に出ると二月紅に向かって手のひらで一発叩きつけた。顔には当たらず髪が乱れて頭にかかり、ビンタをされたよりなお悲惨に見えた。商细蕊もとうとう理解した。西瓜を放り投げ、咳き込んだ後突然立ち上がり怒って言った「おろせ!(堕了!Duo le!)」聞いていた人々は、彼が二月紅を「剁了(Duo le→切り刻む)」つもりだと思い商细蕊がいつこんな荒くれものになったのかと一様に驚いた。程凤台もこの役者が無邪気で真面目に見えるのに、自分にはむかうものに出くわすとやることが残虐になるとは思わなかった。その時中庭からどたどたと何者かが部屋に入ってくる音が聞こえた。腊月紅が壁を乗り越えて飛び降り、そのために青い瓦が数枚割れて散乱していた。二月紅が尋問のために連行され彼は気が気ではなく、その後を追って壁をよじ登りここまで除き見していたがいてもたってもいられなくなったのだ。腊月紅は死を覚悟で中庭に押し入り、师姐の傍らに跪き彼女を自分の背後に押しやった「 班主は师姐を切り殺すつもりですか?それなら先に僕を殺せ!」商细蕊は目を見開いて言った「 彼女を切り殺す?堕胎をしてほしいだけだ!」そして頭を振って庭に散らばった瓦を見て眉をひそめて言った「おまえに武術を教えたのは、私の家に上がって屋根の瓦をはがすためではないだろう?」沅兰たちも腊月紅が規則を理解していないことに非常に腹を立てていたが、唯一程凤台だけがニヤリとした。商细蕊は手を背中で組んで二三歩歩き、急に身をひるがえして言った「师姐に子供をおろさせるのは彼女のためだ。お前は口を挟むな。二月紅、お前はどうするつもりなのか?」二月紅は激しく頭を振った。彼女は薛千山と結婚できず子供を姓なしで生む可能性があること、同時に薛千山と結婚した場合、金蝉のような運命が待っている可能性もある、ということに恐れおののいていた。しかし、堕胎するのは怖い。場合によって自分が命を落とす結果になるかもしれないし、血のつながりのある一つの命をどうして捨てさることができるだろうか!商细蕊は怒りに満ちた表情で二月紅の前に歩み寄り足を止め、高い位置から彼女を見下ろした。腊月紅は師姐をさらに固く守り、頭上で雷が轟くのを聞いていた。「何度も言ったろう!どうして考え直さないんだ?ただのつまらん妾になりたいのか?薛千山はいつも家にいないし、穏やかな日々がおくれるわけないだろう?」そして急に口調を変えて巧みな言葉で子供をそそのかすように「水运楼に残れば、来年は年季を終わらせ給料を上げてあげよう。一部屋を独り占めさせてあげるよ、どうだい?」と言った。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止*二爷、まあまあ良きパパの部分は本ではカット!かわいい盛りの三男坊、そこからのいい男への改造計画もいいかもしれない。でも一番かまいたい相手は巨大赤ん坊商老板。ドラマ7話のくだりがここででてきました。相変わらず男女の色恋沙汰のことになると察しの悪い商老板。ドラマではヒマワリの種のようなものをずっと食べていましたが、原作では西瓜だったんですね。ここでのセリフ,「堕了!(Duo le)!」と「剁了(Duo le)!」は両方四声で発音が全く同じ。ドラマの字幕も確認してみましたが同じようなセリフで、読んで初めてそのオチ(?)に気づきました。そりゃあ腊月紅が血相変えて飛び込んでくるはずだわと思います。怒ると何をするかわからない商老板、弟子が一番よく知っている。师姐が切り刻まれるのは阻止しないと!(まだまだ続きます)]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 59-2
http://musicbirds.exblog.jp/33753450/
2023-12-27T11:38:00+09:00
2023-12-27T11:50:34+09:00
2023-12-27T11:38:55+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
二人が食事をしようと降りてくると人々は既に箸を動かしており、范涟は主席の席に彼ら二人に隣り合った席を用意した。人々は彼らを見ると自然に挨拶や賞賛の言葉が飛び交った。ただ商细蕊の気持ちは完全に沈んでおり無気力な笑顔を見せながら、范金泠の嬉しそうな声を聞くと憤りを込めたまなざしを向けた。程凤台は舌うちし、彼の腕を叩いて椅子に座らせると鱼翅スープをすくって飲ませた。美味しい料理をちらつかせて少しでも彼の怒りを抑えたかったのだ。彼ら二人は遅れてきたが彼らよりももっと遅れた者がいた。杜七は気品を持って遅れてやって来た。後ろに一人の従者が贈り物を持ち、杜七がホールに入ると指を鳴らし一方を指し示すと、従者は指示された方向の執事に贈り物を渡し、杜七自身は帽子を取り笑顔で言った「すみません、范二さん、遅れてしまいました。」范涟は実は杜七のことをあまり好きではなかった。役者が少し向こう見ずなのはまだ許容できるが、杜七は学者であり大学で教授をしている人物でありながら、役者たちと同じようにがさつなのは品性が低い。針の穴ほどの狭い心を持った辛辣な文人は、深い友情に値しない。彼にとっては心の広い人物、例えば常之新や程凤台のような人の方が価値がある。しかし范涟は押しも押されぬ社交上手、普段は笑顔で会話する仲の良い友人であった。こちらの主席の席は満杯で、范涟は急いで一席を追加するよう促し、薛千山は椅子を動かし「七公子、ここに座ってもいいよ」と言った。杜七はまるで聞こえないふりをして、商细蕊の隣を指差し、「ここに置いて」と椅子を持った使用人に告げた。程凤台は不機嫌そうに椅子と皿をずらした。商细蕊は杜七を見てちょっと喜び「七少爷!来たんですね!最近はどう?」と聞く。杜七は軽率な性格で、座ると商细蕊の口の端にスープがついているのを見て、親指でそれをこそぎ取り自分の口にぺろりと入れて笑いながら言った「とてもいいよ!私の商老板。」程凤台は彼を見て不快になった!しかし一瞬で場が盛り上がった。皆が立ち上がり、杯を持ち、范涟に今後も幸せな歳月をと祝辞を述べた。范涟は程凤台と商细蕊をちらっと見て思った。今日の誕生日にこの二人が交じるとやっかいなことになるな、これからもこんな感じなんだろうな。一杯を飲み干そうとしたところで、薛千山が大声で言った。「皆様お座りください、もう一杯もう一杯!」皆、彼の顔が紅潮し、まるで何か喜ばしいことを発表するつもりだと察した。実際に、薛千山が言った。「今日は范二さんの良き日に乗じて、私も幸せを分かち合いたいと思います!皆さんにお知らせしたいことがあります。この月の十八日、私、薛某は姨太太を娶ります!ここにいる皆さん、もし時間があれば、喜宴にお越しください!」范涟はさっき彼と五台の車の話をしたが、そんなことはちっとも聞いていなかったし、他の人々ももちろん知らなかった。薛千山は程鳳台や范涟とは違い大きな後ろだてはなく、商売に熱心で自ら動き、北平にはあまりいないので彼に関する情報も少ない。彼は九人の姨太太を次々と娶っており、曹司令よりもさらに傲慢で、今回の新しい結婚でちょうど十人になる。すぐに誰かが尋ねた。「薛二爷、新しい夫人はどこのお嬢様ですか?」「いつももの静かな人が、いきなり嫁をもらうだなんて!薛二!そこいらの娘を強引に奪ったんじゃないの?」みんなが薛千山をからかい、興味津々で冗談を言った。彼らは三妻四妾が普通である一方で、金持ちが一人の妻だけを守り、清廉潔白な生活をしているのを見ると密かに憶測や注目が集まる。よほど妻が怖いか、もしくは人に言えない病気があるとか偽善者だとかとなにかと噂が立つ。しかし、薛千山は妻を多く娶ることに精を出しているように見え、これがまた別の意味での笑い話になっていた。程凤台と范涟は軽蔑の念が微かに宿った目を交わした。妾を手に入れることを他人の誕生日の宴会で発表するなんて、あまりにも得意げすぎるじゃないか。商细蕊は微妙な感情を抱いているようで、それは薛千山が好きか嫌いかではなく何か他の理由があるようだ。北平に来てから、薛千山は彼を一方的にひたすら熱心に追いかけていた。商细蕊は追い求められることに慣れており、あまり気にはしていなかった。彼を単なる裕福な友人と見なしていた。しかし今日彼が新しい関係で喜びに満ちているのを見ると、自尊心が傷つき自身の魅力がなくなったような感覚になった。もし程凤台がこれを評価するならこう言うだろう:虚栄心だ!これが役者の虚栄心ってもんだ!皆、薛千山が新しい夫人について話すのを待っているが、杜七は無表情で箸を持ち、ただひたすら酒を飲み肉を食らっていた。薛千山は笑みを浮かべ目線を杜七を通り過ぎ商细蕊の方に向け、自ら彼に一杯の酒を注いで言った。「私の新しい夫人、それは――ああ!商老板、ここに来て、杯をかかげましょう!」誰も理解できなかった。なぜ彼の新しい妻の話に商老板が関係しているのか?商细蕊は混乱して杯を持ち上げ、みんなに注目される中で、少し恥ずかしそうに顔を赤くした。程凤台は心の中で罵倒した:くそっ、お前が恥ずかしがるなんておかしいじゃないか!薛千山は「この一杯は私が商老板に捧げるものです!商老板、これまで二月红をお世話してくれてありがとう!商老板、ここに来て。私が先に飲みほします!」会場は一気にざわつきだした。薛千山が水云楼の女優に目をつけているというのは予想外の出来事だった。水云楼には多くの女性がおり、その評判は良く知られていた。女優たちの一般的な結末は、ある程度の名声を得た後、裕福な人に嫁いで姨太太になることだけだ。そのため、水云楼はしばしば北京の姨太太たちの発祥の地として嘲笑されていた。しかし最近脚光を浴びている二月红は演技が素晴らしく、明らかに商细蕊の秘蔵っ子である。まだ本格的な成功を収めていないのに、彼女が引退して結婚するって?商细蕊はどうして納得できようか?商细蕊は当然ながら納得できず酒杯を持ち上げて呑むべきかどうか迷っていた。薛千山は気前よく一気に飲み干し商细蕊に杯の底を見せつけた。商细蕊はこの時点で微妙な感情など全く残っておらず、公然と強奪されたような衝撃を受けた。二月红が薛千山と……私がこれまで彼女を育ててきたのに、どうして気づかなかったんだろう?杜七は商细蕊から酒杯を奪い、テーブルに叩きつけた。その動作は乱暴すぎ、酒がこぼれてしまった。そして袖を引っ張って彼を椅子に座らせ、薛千山に一切の面子を与えなかった。商细蕊は呆然としており、程凤台は微笑みながら彼に魚翅スープを注ぎ、この出来事についてどうしたらいいかと胸算用していた。薛千山は商细蕊の表情を窺いながら言った。「商老板、僕が引き抜くことを責めないでください。実際、長年外で働いているから母親に孝行することができません。しかも母親はほんとに二月红の声が好きなんです。孝順のためにこのようなことをしなければならないんです。」薛千山はかつて関係を持った女性全てを家に連れていき名誉を与えるために努力していて、母親に孝行することも嘘ではなかった。公然と結婚を宣言することで彼の決意が分かったので、商细蕊は二月红と薛千山という実力のある商人のために顔を潰すつもりはなかった。しかし彼は非常に不満気で、食事を終えたらすぐに沅兰や十九らに何が起こったのか聞かなくてはと思った。程凤台は当然ながら彼につき添っていくつもりだ。范涟は彼らを麻雀に誘いたかったが、程凤台はしょげた商细蕊を指し「今日彼は僕と寝て満足したくらいで、他はただ嫌なことばかりに遭遇しているようだ。君が彼を残しても楽しみはないよ。もし後で誰かが彼をからかうことでもあったら君の客に無礼を働くかもしれないからね。」范涟が商细蕊の諸々のことを思い出し、急いで立ち上がり二人を送り出した。杜七はぶつぶつ言いながら一本タバコをくわえ、商细蕊の肩を抱きながら歩き「二月紅って娘は、まあ…悪くない、まあまあさ!同じ時期に入ってきた子だって悪くないさ、心配することはない。そもそも娘は嫁に行くから何年も歌えるわけじゃないし、結局誰もが俞青のようではないしね!」と言った。商细蕊は何か言おうと思ったが杜七に先を越された。「わかってるよ、君はこの二年間の彼女にかけた労力が無駄になったって腹が立ってるんだろう?薛千山のクソ野郎、北平にはたくさんの劇団があるのに、なぜかお前のところが気に入ってるのさ!俺も腹が立つ!安心しろ、君のために彼をぶっ殺してやる!」商细蕊は杜七の押しの強さに従順に頷き、そうなることを信じた。商细蕊も察察儿もこの道中ずっと不機嫌で黙り込んでいた。程凤台は最初に商细蕊を家まで送り、二言三言言葉を残した。そして察察儿と一緒に家に戻り二奶奶に謝罪した。二奶奶は怒って涙を拭き、察察儿が必死に懇願し、姑嫂二人はしばらく気まずい雰囲気となり四姨太太も仲裁に入った。家の中は緊張感が高まり夜は外出するのも難しかった。二人の息子たちの勉強を見てやり三男坊を抱きしめ、最後に二奶奶に察察儿が学校に通うことについて再び話し合った。夫婦二人は子育てに関しては調和不能な大きな溝があり、二奶奶を怒らせないよう程凤台は三人の息子の生活には干渉しないようにしていた。二奶奶は以前彼に不満を持っていた時期にこう明言していた。子供たちは彼らの共同の努力の結果ではあるが、妊娠は十か月間彼女自身が行った主要な功労である。程凤台は二番目の権利しか持たないとされ、関心を寄せることは許されても干渉することは許されないと。彼女は古風な考え方を持っているが子供の問題においては非常に進歩的で、伝統に挑戦する勇気を持っていた。しかし察察儿は彼女の実の子供ではなく、彼女は小姑子に深い感情を抱く権利はない。怒りのあまり手に持っていたはさみや針糸を籐かごに投げ込みながら言った「私は察察儿に学校に行くのを禁じたことはないわ。ただ、彼女が外で学ぶことを望んでいないのよ!世の中は今とても乱れています。男は悪いことを学んで後から良くなることもあるけど、それは『放蕩息子の改心は金にも換えがたい』というもの。女の子が一度間違うと一生台無しになるわ!」程凤台は二奶奶が間違いなく杞憂していると感じ笑って言った「心配しなくても大丈夫だよ。察察儿が学校に入ったら老葛の娘に彼女を見張らせよう。確認済みだけど、高学年と低学年はたった一階しか離れていないんだ。それに女子校だし男の先生もほとんどいない。何の怖いことがあるっていうの?」この問題は何年も続いており二奶奶は今回の程凤台の決断を見て、もう覆すことはできないと思った。程凤台を無視し子供を抱いてあやした。程凤台は「この子ももう二歳になったし、ずっと抱いている必要ないだろう。体調が悪いなら、乳母に預けてもいいんじゃないかな」といった。しかし二奶奶は全く相手にしなかった。彼女は一度本気で怒ると目を半分閉じ、高々と頭を上げ、特有の高慢で冷徹な態度を見せる。程凤台がどんなに言葉巧みに説明してもまず聞く耳を持たず、しばらく経ってから忘れられるまで軟化しない。程凤台としては冷酷な態度をとらされるよりは大喧嘩をした方がいいと思う。心がざわついて息が詰まる感じがするのだ。その日は早めに眠ることにした。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*范涟のお祝いの席でさらに一波乱。杜七らしい登場の仕方が好き。商老板、今まで自分を熱烈に推していた相手が自分の劇団員と電撃結婚すると知ってげんなりする気分、なんかわかるなあ、Wショック。久々に名前がでてきた二月紅!たしかに班主としては気が付くべきでしたね。ドラマでは六月紅、原作では二月紅、なぜ微妙に名前が違うのか、という件については以前私なりの考察をしてみたので(笑)あっているかは定かではありませんがご参考まで(22話下部感想部分)→ https://musicbirds.exblog.jp/32599312/*察察儿の教育方針についてもめる夫婦。子供については意見が言えない二爷なんですね(自分のお腹で十月十日育てなかったからって)。しかしはっきりもの申すタイプ、奥さんとしてはなかなか手ごわい…。]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 59-1
http://musicbirds.exblog.jp/33641855/
2023-11-30T22:05:00+09:00
2023-11-30T22:06:14+09:00
2023-11-30T21:55:16+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商细蕊は顔に水滴がついたまま急に頭を上げ、范涟を斜めに見つめ、范涟が彼のお尻を見たと言えば、殴りかかるつもりだった。范涟は非常に賢く、姐夫が彼を罠にはめようとしたと分かった。再び商细蕊に警戒され、すぐに否定することを恐れて「商老板の何を見たかなあ?あなたのあそこは見たけどね!」商细蕊はけらけらと笑ってまた顔を洗い続け、まあ程凤台は粗野で価値がないから、見られたとしてもどうってことはない、と言った。程凤台はもったいぶった様子で「お前は下品なやつだな。そんな風にみられる覚えはないぞ!」彼は以前、小公馆での恥ずかしい姿を見られてないとでもいうのか?それは大胆な変態っぷりだったのに、今は真面目に装ってるなんて。范涟は笑った。「ふつう性行為を見る方が不吉だと言われているけど、なんであなたは損したように言っているの?」商细蕊は顔を洗い終え、鏡の前で顔を拭きながら言った「我々も平陽で同じ言葉がある、ズボンの股下を引き破ると解消できる!ってさ」程凤台は手を打って言った。「それはいいぞ!」范涟を掴み、その解消とやらをしようとした。范涟もまたひ弱な少爺で程凤台とは力も拮抗しており、しばらくもみ合いになった。この騒動は実におかしな光景だった。ズボンの股を押さえて必死に抵抗し、悲鳴を上げている姿はまるで貞操を守る娘のよう。しかし、范涟のこの誕生日の宴は、まだ序盤戦にすぎなかった。扉が二回ノックされ、勝手に開かれた。范金泠が入ってきて一瞬びっくりし、目の前の光景を見て驚いて言った。「兄さん!あなたたちは...何しているのです?」程凤台は首をひねり、范金泠が連れている人物を見て、急いで范涟から離れて尋ねた。「大丈夫、俺と彼とでふざけていただけだよ。察察儿はどうしてここに来たの?誰がお前を連れてきたの?」察察儿は髪を二本三つ編みにして淡い青色の蜀锦織りの旗装を身に着け、薄青色のプリーツスカート、黒い革靴を履いていた。一見今時の女学生の制服に似ているが、今どきの洋装を着こなす范金泠と一緒にいると完全に二奶奶風だ。この服は見た目に美しいかもしれないが、彼女らのような裕福な家庭の若いお嬢様は、制服や洋服以外にツーピースの服を着ることは一般的ではなく既に時代遅れである。察察儿は范金泠の手を離し、誰とも挨拶せずに不機嫌そうにカウチソファに座ってしまった。商细蕊が初めて彼女に会ったときと比べ察察儿はすでに大人の女性に成長し、漢人とは異なる雪のように白い肌、髪、瞳がますます深い琥珀色になっていた。彼女は兄姉とは似ても似つかないが、それでも非常に美しく人間味のない冷酷な美しさが潜んでいる。商细蕊が洗面所から出てきたが、彼女はもうこの役者を忘れてしまったようで、一度も見向きもせず、程凤台に向かって「兄さん、私をまだ気にかけてくれる?」といった。程凤台はほぼへつらったように笑って言った。「気にかけてるさ!俺の妹なんだもの、見過ごせるわけないだろう?なんでまた一人でここに来たの?義姉さんに言ってきたの?」察察儿は腹を立てたように頭を振り、唇を噛んで何も言わなかった。范金泠は彼女の隣に座り「おそらく姉さんはまだ知らないでしょう。察察儿は自分で車を呼んでここに来たので、お金も持ってなかったわ。門番が彼女を覚えていて、お金を前借りして中に入れてくれたのよ。」この二人の女性がさっきまでお楽しみだったカウチに座っているので、彼女らの兄さん連中は気まずい思いをした。范涟は咳払いをして喉を整え、軽蔑するように程凤台をにらみつけ明日さっそく誰かにそれを捨てさせることを決意した。ここに置いておくと本当に人を不快にさせる。程凤台は常に良心がなく、一切の羞恥心もない。商细蕊も特に反応もなく、范金泠を不機嫌そうに睨みつけているだけだった。范金泠も彼が彼女のむき出しの腕をじっと見ていることに気付いた。この役者が女性に不適切な視線を送ることに腹を立て、白目を向けて睨みつけた。蒋梦萍とは特に親しいので商细蕊を見ると本当に嫌悪感が湧く。他の人々は彼を賞賛し、彼を甘やかして美化しているが、彼女はそのことに同意してはいない。この荒唐無稽で邪悪な人物がなぜ有名になり成功し賞賛を受けるのか。その中には彼女の兄弟と義兄も含まれているようで、非を問わずに受け入れる姿勢は実に理解できないでいた。程凤台は妹に気遣いながら尋ねた。「義姉さん(二奶奶)に怒られたの?」察察儿は言う。「むしろ私を怒ってくれた方がマシだわ!彼女は私に料理を習わせようとしているのよ!」「おや、料理の勉強?」范涟が驚いた声を上げた。范金泠も驚きながら察察儿を見つめた。彼女は台所のすみっこすら触ったことがないほどなのだ。程家の三小姐が料理を学ぶなんて、まさに聞いたことがない。「この間は刺繍を学ぶように強要されたわ!何で『双蓮花』なんて刺繍するのよ!十本の指のうち六本も怪我をしたわ!」彼女は手を差し出して程凤台に見せた。今も2本の指先に包帯が巻かれている。「今日は何としても料理を教えるって!もうたまらないわ。だから、兄さんを探しに来たの!」察察儿と二奶奶が争うたび、范金泠は思わず幸運を感じる。彼女はまだ幼い頃、范家は程家の責任逃れに心を痛めていた。ある日、姉が髪を結いながら彼女に言った。「これからはずっと家にいるわ、誰とも結婚しない。」范金泠はとても喜んだ!しかし、数年後、程家は姉を娶っていった。そのため、彼女はしばらく程凤台を憎んだが今思えば姉が結婚したことにも利点があった。そうでなければ、今日の察察儿の苦悩は彼女自身に降りかかっていたのだから。程凤台は和やかな口調で説得する。「この件は全てを君の義姉さんのせいにするわけにはいかないよ。彼女は言ってたよ、女子はこれらの仕事をしなくてもいいけど、できるにこしたことはないと。考えてみれば、間違ってないよね?将来、自分で家庭を持って何か女らしいことや料理を知っていた方がいいんじゃない?」察察儿はそれを聞いて、なんだあんた達夫婦はグルなのかと怒り出した。「私は家事をするのが嫌い!学校に行きたい!」程凤台は優しく微笑んで、「そうだよ、学校に行こう!学校は絶対に行かなきゃだめだよ!」察察儿は怒りながら言う。「兄さんは約束だけは上手なんだから!いつも先延ばし。こんなことが難しいの?」程凤台は二奶奶に逆らいたくないし妹を傷つけたくない気持ちもあって、内心かなり困っていた。仕方なくため息をつきながら微笑んだ。范涟は程凤台が妹にしつこく迫られているのを見て、「察察儿、この件は焦らなくていいよ。このことは兄さんと検討してみるから。そうでなければ僕から姉さんに話しをつけてあげよう。いい?私も君の兄貴だからね。金泠、妹を食事に連れて行ってあげて。今日はこの問題はひとまずここまでということで。僕等も下に行こう。商老板、どうぞ!」商细蕊は頷いた。一行は出口に向かい、范家の兄弟は察察儿を前にして移動したが、商细蕊は程凤台を小さなバルコニーに引っ張りこみ、言葉もなく彼の胸を一発どついた。「范金泠ってなんなのさ!」程凤台は胸を押さえ痛みに苦しみながら、「彼女がどうかした?またなんか君を怒らせたの?ちゃんと話してくれないと」商细蕊は低い声で怒鳴った。「彼女の手になんで蒋夢萍の腕輪があるの?!」程凤台は女性たちの装飾品にはまったく注意を払ったことがなかった。絹織物のビジネスを始めてからは流行の布地に最も興味を持ってはいるが。「はあ?腕輪が蒋夢萍のものだったら、それが何が問題なの?女性たちが仲良くなって、お互いに宝飾品を贈り合うのは普通じゃないの?」しかし、この腕輪に関する理由は、商细蕊をますます怒らせた。「普通じゃないって!その腕輪は蒋夢萍の母親から彼女に残されたものだ!彼女はそれを大切にしてたんだ!なんで范金泠にそれを贈ったのか!彼ら二人は一体どんな関係だっていうの!」程凤台は商细蕊の激しい感情に汗をかきながらしばらく沈黙した。蒋夢萍は商细蕊にとっての鬼門であり、一触即発で彼を激怒させることができた。「彼女たち、とても仲良しなんだよ。」「とても仲良しとはどのくらいの仲良しなんだ!」程凤台は躊躇し、隠してきた言葉を商细蕊に話すべきかどうか悩んだ。商细蕊も彼に何か言いたいことがあるのを感じ取り、何度か催促しても効果がなかった。その結果、彼は急に激しくいきりたったのだ。彼は内と外ではまったく別人である。外の友人たちの前では、とても友好的で礼儀正しく、控えめであまり話しもしないし、決して急かしたりもしない。実に人当たりが良い。しかし程凤台の前ではまるで七つの子供のように、犬さえ嫌う鼻つまみ者だ。まさに二面性の持ち主なのである。程凤台の三人の息子が一気ににかかってきてもこの一人にはかなわないほどの騒ぎとなる。程凤台は子供を叩くことを嫌うが、商细蕊が乱れるのを見ると手がむず痒くなった。一方でバルコニーの窓を閉め、外に人が通るのを心配し、同時に顔をしかめて忠告した。「騒がないでくれ!ここは他人の家だぞ!下には沢山の客がいるんだから!」「他人の家で寝たくせに、何をいまさら!」商细蕊は怒りのあまり言葉を選ばずに口にした。程凤台は一瞬間黙り込んで、「恥知らずめ!」と吐き捨てました。二人は意味のない汚い言葉を何度か言い合った後、突然沈黙した。程凤台は手すりにもたれ、タバコを取り出して吸いながら笑いだした。「覚えてるかい、商老板と出会ったころは君も俺に甘えてたこともあったよね。どうして仲良くなるにつれて、君の態度はどんどん硬くなるんだ?」商细蕊は程凤台の口調から優しくなっているとわかり、彼も一緒に手すりに寄りかかった。彼にもわからない。なぜ仲が良くなるにつれ口論が増えるのか。他の人とは明らかに違う。程凤台は続ける。「君の師姉のことを話したら、おりこうさんにして俺と一緒に食事に行くんだ。騒ぐのはダメだよ。君をリフレッシュしに連れてきたんだ、逆にイライラするなんてよくないよ!」商细蕊は微妙に頷き、曖昧にうんと声を返した。程凤台は静かな声で言った「師姉は君も知ってのとおり思いやりがあって母性本能に満ち溢れている人だ。君がいた頃は君を可愛がっていたが、君に別れを告げて以来、同じように幼い性格の金泠嬢を見て、彼女をかわいがっているってわけだ」商细蕊は一瞬にして怒り心頭した。「僕と同じ?彼女がどうして僕と同じなのさ?!彼女はただの子供じゃないか!」「さっきちゃんと約束したのに、また騒ぎ立てるのかい?」程凤台は彼を見ながら笑って言った。「師姉がどんな人か、俺より君が一番よくわかっているだろう。彼女は俺の可愛くもない二人の息子さえ好きなんだから天真爛漫で甘え上手の金泠ならなおさらだよ。君の師姉に心を開いているのは君とそう変わらないさ。だから彼女をとても可愛がっている。年齢も大差ないしもっと年が離れていたらきっと金泠を養女にするだろうね。」商细蕊は怒りで荒い息を数回ついた後、突然大声で叫んだ「范金泠なんて僕と比べる資格があるもんか!僕は蒋夢萍を知己としている!彼女たちはただ遊んでいるだけ!比べようがない!」叫び終わると、苦痛に耐えながら腹を押さえてしゃがみ込み、汗をかき出した。「僕は彼女を知己として大切にしている。なのに彼女は僕を可愛がって遊ぶだけのおもちゃのように扱ってる!おままごとさ!范金泠だって僕の代わりにすぎない。彼女に対する思いを全く理解していない!」程凤台は彼がまた発作を起こしそうだと思い、煙草の吸い殻を踏み消してから彼を引っ張った。彼はまるで石のように膝を抱え、引っ張ってもびくとも動かせなかった。程凤台は力を込めやっと彼を引き上げたが、自分は足元がふらつき、腰が石の手すりにぶつかり、痛みが生じた。商细蕊は程凤台を抱きしめ、顔を彼の胸にうずめて泣き崩れ「腹がたってしかたないよ」と呻いた。程凤台は彼の頭を押さえ耳にキスをし、かすかに笑って言った。「そうだね、よしいい子だ」商细蕊は彼の力強い抱擁のなかでかすかに息をしながら、静かに震えていた。*すべてWEB版のみ、読みずらいので緑ではなく黒字表記していますしろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止。
]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 58-2
http://musicbirds.exblog.jp/33530168/
2023-10-21T18:03:00+09:00
2023-10-21T18:03:57+09:00
2023-10-19T09:41:23+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商细蕊は蓄音機の中で十五、六歳の年齢にいた。彼は既に平陽市周辺で有名になっていたが、中国全体で見ればそれほどでもなかった。商菊贞は彼を育てるために、戏班子(戯劇団)を連れて天津、武汉、広州などいくつかの地域を巡り、最終的に上海まで行った。レコード会社のマネージャーが彼を見出し、四枚のレコードを録音した。その中には彼の個人のものや他の歌手との共演も含まれており、各レコードの発売数は三百から四百枚程度であった。商细蕊の名声が全国に広まり歌唱力も向上すると、真剣に二枚のレコードを録音すべき時期になったが、彼はもう声を小さな円盤に収めることを望まなくなってた。「じゃあ商老板はなんでまたレコードを録音しないの?」程凤台は片手を商细蕊のズボンの中に入れて彼のふくらはぎをもみ、商细蕊にお腹を強く蹴られた。「素晴らしい歌を録音しないなんて、もったいないよ!俞青が舞台に立って黎伯もまだ元気な頃、君たちの得意な演目を録音して、ファンに楽しみを提供してあげるべきだったのに。」商细蕊がなぜレコードを録音したくないのか、これには別の小さなエピソードがある。商细蕊と彼の義父である商菊贞は、性格が似ていて自慢好きだった。最初にレコードを録音したとき、会社のマネージャーから多くの称賛を受け、彼は非常に光栄に感じた。しかし後に父親が亡くなり姉は結婚し、商细蕊は戏班を連れて北平に移り宁九郎の下で学び、彼に深い尊敬の念を抱くようになった。ある日、彼は小さな路地を通りかかり、一軒の家の扉が半開きになっていて、女性が厚化粧をして髪に大きな赤いビロードの花を挿し、服のボタンが一つ外れ、壁に寄りかかって行商人と価格交渉している様子を目撃した。中には数人の男性が酒を飲んで賭け事をしている音が聞こえ、一目で売春婦だと分かった。商细蕊は彼らの前を急ぎ足で通り過ぎようとしたが、その女性が言った言葉を聞いてしまった。「大銭二個でどう?それ以上は無理だわ。宁九郎の『碧玉簪』と『桑园会』を聴かせてよ。全部よ、一場面でも抜けたらあなたの蓄音機をぶち壊すわよ!」行商人は大きな蓄音機を背負って、その女と一緒に家に入るとほどなくして快楽的な物音の中に宁九郎の揺らめく歌声が入り混じって聞こえてきた。商细蕊は外で立ち尽くし、自分の耳には何千もの蟻が骨をかじるような感覚に襲われ、おもわずドアを蹴破って中に押し入りその蓄音機を叩き壊しそうになった。それ以降、商细蕊はレコードを録音することに非常に抵抗感を抱くようになった。宁九郎は後でこの理由を知り笑顔で言った。「私たちは舞台で歌っています。下にはいろんな人が座っている。なぜ私の歌が非公開の場所に置かれていると、あなたは不満なのですか?」商细蕊にはこの問題を説明するのは難しかった。彼はただ、ちゃんとした場所で演技するのは問題ないが、どこでも気軽に音楽を聞くこと、聞き手が不適切なことを言ったり考えたり、単に騒々しい雰囲気を楽しむために聴くことは好きではなかったのだ。それはまるで、彼が心から大切にしているものが侮辱されるようなものだ。宁九郎はこれを聞いて笑い、商细蕊はまだ若いのに侯玉魁と同じくらいの堅物だと笑い話にした。侯玉魁も同じ理由で、一生にわずか二枚のレコードしか録音しなかった。しかし、その当時、商细蕊は侯玉魁をまだ知らなかった。レコードの细蕊は歌っている:——被纠缠陡想起婚时情景,算当初曾经得几晌温存。我不免去安排罗衾秀枕,莫负他好春宵一刻千金。原来是不耐烦已经睡困,待我来再与你重订鸳盟。(結婚した夜をふいに思い出させる。当初幾晩も楽しい時間を過ごし、二人の間に温かな愛情が長く続いたわ。あなたとの値千金の春宵を過ごすため私は絹のシーツと刺繍の枕で寝床を整えないと。寝室の準備に時間がかかったから彼は寝てしまった。次はちゃんと二人楽しむことができるでしょう。)美声の歌声は聞く者を魅了した。程凤台はグラスを置き、商细蕊の前に来て意味ありげに笑顔を浮かべた。彼の眼にはその笑顔はたいがい卑猥な意味に映っている。商细蕊はでんでん太鼓をかかげ、程凤台の顔を遮るように振った「ほらほら楽しいでしょ?」程凤台はそれを奪い取って遠くに放り投げ、商细蕊の長衫のボタンを外し始めた。「あれは面白くないけど、こっちは面白い。」そう言いながら、彼はカウチソファの上に膝をつき、体の重みを彼の上に乗せ、不器用にその葡萄ボタンを外そうとした。この長衫は新しくあつらえたものでボタンが特に硬く、商细蕊は黙って首を上げ、彼がやりやすくするために協力してあげたが口では彼を嘲笑った。「ハハ!ここはあなたの義弟の家だよ!この恥知らずの大色魔!」程凤台がやっと一つボタンをはずし終わると動きを止めた。商細蕊はこの色魔が自分の言葉に反応して改心したのかと思い、立ち上がって話をしようとしたが、程凤台にしっかりとマットに押さえつけられた。「動かないで、ちょっとの間眺めさせて」そういうと夢中で商細蕊のあごから首にかけてのライン、首の間に細く続く鎖骨を見つめて感嘆した。「商老板から学んだのは、ボタンを一つはずすと首の一部が露見し、つつましさの中の誘惑が人を挑発するものだってこと。女性のチャイナドレスも同じデザインだけど、この味わいは別格だ」商細蕊は手で首を隠した。「范涟にも長衫を着せて毎日ボタンをはずして見せてもらえばいいんじゃないの?」程凤台はその光景を想像しただけで嫌気が差した。それから本業に戻り、商细蕊の手を数回へし曲げようとしたが、彼は手を固く閉じ首を見せるつもりはなかった。この俳優はとても開放的な一面も持っていながら同じことでも突然羞恥心から頑固になることがある。程凤台はまだその法則を掴みきれず、何度か試みたがついに笑って言った「手で隠していてもいいよ、絶対手を離してはいけない、何があってもだめだからね。」商細蕊は程凤台を見つめてまじめに純粋な目でうなずいた。程凤台は彼のそのまなざしに全身がむずむずし、下半身が爆発しそうになった。商細蕊のズボンを膝まで引き下げ自分はズボンをといただけ。潤滑剤がなかったのでそのプロセスは非常に困難で、少しずつ濡らしすこしずつ擦り、すっかり汗まみれだ。最後には代わって商細蕊に先にいってもらい、その精液を彼のお尻に塗り付け、やっと首尾よく挿入することができた。程凤台は満足そうにため息をもらし商細蕊のふくらはぎにキスをした。商細蕊は射精した後恍惚とし、程凤台はほてった体で華奢な狭くて柔らかいカウチソファに彼をぎゅっと押し込めた。彼は蓄音機の中で数年前の自分が芝居を歌っているのを耳にし、同時に自分は男に突かれてあられもないことをしていた。こんな淫らであっても心の中には奇妙な感覚が生まれ、まるで心神喪失したようだ。手足の力が抜けそっと程凤台を押し、深い安堵のため息をついた。彼は程凤台に押される窮屈な感じが好きだと気づいた。程凤台はせかすように笑いながら「商老板、早く首を隠して!君の素敵な首はすでに俺に見られてしまったよ!」商细蕊は程凤台のからかいに当惑し、幻想の中にいて首を隠すように言われると、その通りにすぐ首をしっかりと隠した。それは自分の首を絞めているかのようで、愚かで笑えた。程凤台は大笑いし、徐々に動き出した。二人の上半身の服は整っているが、下半身は大胆に露出している。商细蕊は自分の歌に合わせて、高音と低音とでハミングしている。程凤台はこの状況に特別な罪悪感も感じずただその新しい感覚を楽しんでおり、商细蕊をわざとさらに刺激し、彼に声を押し殺すことをできなくした。一枚のレコードが終わり、午後の時間も過ぎ、食事の時間がやってきた。范涟はこの二人が一旦つるむと膠の如く離れ難いことを知っているので、使用人が呼びに行っても彼らを動かすことはできない。商细蕊にとっても、これは十分な敬意ではないように思ったので、客を置いて自ら呼びに行くことにした。ドアの前に立つと異様な物音がし、つい思わずノブを回し中を見ると、程凤台と商细蕊が本当にくっついて一緒にいた...二人のおしりはまだつながっている!商细蕊は驚いて言った「おや!」程凤台は怒って言った「ドア閉めて!」范涟は今日、商细蕊と少し話したことで愚かさに少々感染したので、ドアを閉めて自分も部屋に閉じこもってしまった。外に出ようと思っても、廊下にちょうど二人の女性が現れ、暑い天気と広間に風が通らないことに愚痴をこぼしていて、おしゃべりをしている間去るようには見えなかった。范涟が外に出れば、彼女たちは一度振り向いて、部屋の中の光景を簡単に見ることができてしまうだろう。程凤台は怒鳴った「お前目をどこにつけてんだ?ドアの花輪を見ずに中に入ってくるなよ!」范涟は非常に恥ずかしがったが口答えをし「あなたは我が家に来た役者を台無しにしましたね。この人でなし!」彼は真面目な学生で、汚い言葉は簡単に吐かないことから真剣に怒っていることがわかった。彼は二歩前に出て、声を低くして程凤台を怒鳴りつけた「あなたは嘘をついてましたね、あなた方はセックスしか頭にないんでしょう?ああ、どうせ私は盲目だ、あなたの事を信じられなかった!」程凤台は今まで喧嘩を売るような状況に遭遇したことはなかったし、似たような状況は踊り子や娼婦のところで見たことがないわけではない。なぜ今回特別に我慢できないのか?彼も怒鳴り返そうとしたが、商细蕊は震えながら真っ赤な顔で范涟を指差し言い放った「お前、後ろ向け!」范涟は驚き、すぐにくるりと背を向けて立ちすくんだ。彼も怒りっぽくなっていたが、義兄を非難するのに夢中で、この役者先生の事をうっかりしていた。しかし、ちらっと振り向くと、彼の体は湿って陶酔し身を縮ませていて、精力的にしていたことを物語っていた。商细蕊はもう恥ずかしいことなど気にせず、快楽の中で目に涙を浮かべ、程凤台の頬をそっと叩いて自分に向くようにして言った「ねえほら動いて、早く!」程凤台は指示に従い、范涟の前であることは気にせず力強く行動を起こした。范涟は商细蕊の口ぶりにお可笑しくなり壁に向かって首を振りタバコを取り出して吸った。彼は程凤台が戏子をもてあそんでいると思っていたが、実は戏子が彼をもてあそんでいるようだ。いつも言われた通りにしないとビンタを食らうし日々疲れ切っている。今日はこんな義兄の姿を見て日頃のうっ憤を晴らすことができた。やれやれこの売春男め!程凤台と商细蕊はすべてを終えさっぱりとし、テーブルに置かれていたレースのテーブルクロスを取り出して身体を拭き、ゆっくりとズボンを履いた。范涟はやっと振り返り、笑顔で二人を見つめ「あなた方二人、まさに西门庆と潘金莲だな。私の家を王婆茶铺だと思ってるでしょ!」程凤台は商细蕊の背中に跨り、「ねえ金莲!早く彼をおばさんって呼んであげて!」と言った。商细蕊はこの冗談を受け入れず、真剣な表情で黙っていた。顔はまだ紅潮していたが他のことは一切知らんぷり。彼は羞恥心を隠すために真剣な態度を装い、まるで程凤台と一緒に寝たことがなかったかのように振る舞っていた。「やめて!僕をからかわないでよ!私はそれに耐えられません!」范涟は手を振りながら言いました。「それからこのソファも持って行って。見ていると頭が痛くなるよ。」程凤台と商细蕊はこのソファには思い入れがあったので本当にそれを持って行くつもりだった。范涟は「もういいよ、ただ食事の準備ができたことを君たちに知らせに来たんだ。楼下ではもう食べ始めているだろうから顔を洗ってすぐに降りてきて。」といい部屋を出ようとしたその時、床に散らばった何枚かの壊れたレコードを見て、素っ頓狂に叫んだ。「げげっ!これは誰がやったの?!」商细蕊はまだ無言だった。程凤台は「とにかく俺じゃないよ。俺はそんなに無礼ではない。」商细蕊は不満を表すために冷笑した。范涟は床にしゃがみ込み、悲しみのあまり泣きそうになった。「廃盤なんだよ!私の商老板よ!全部壊れてしまった!これは誰がしでかしたのか?ああ、痛々しい痛々しい!」言葉の繰り返しは、彼の深い心の痛みを感じさせた。これらのレコードは范涟が平陽から関外へ、そして関外から北平へ持ち帰ったもので、商细蕊が曹司令官と一緒にいた数年間、これらのレコードを聞いて孤独を癒していた。今ではお金を出しても手に入れることが困難である。程凤台は鏡の前でネクタイを締め彼を無視している。商细蕊は我慢できずに「そんなふうにしないで。私はここに生きているじゃない!お墓の前で泣いているみたいなことしないでよ」といった。程凤台は鏡の前で大声で笑い出したが范涟は笑える状態ではない。商细蕊は続けた「それに、全てが壊れたわけじゃない、まだ一枚あるよ!」范涟の目が輝いた。商细蕊は蓄音機から「春闺梦」のレコードを取り出し、力を入れてへし折り、それは范涟の目の前で真っ二つに砕け散った。「これで全て壊れちゃった」程凤台は我慢しきれず狂ったように笑い、商细蕊の額にキスをした。范涟は怒って何度も叫んだ「義兄さん!あなたもなんで彼を叱らないの?甘やかしすぎだよ!前はこんなことしなかったのに!」程凤台は答える「彼の力は強すぎて、俺には制御不能だ。」商细蕊は言う「私は前からこうでしたよ。お互いまだ知らなかっただけです。」范涟はそう聞いて名優によって個人的に認められたような名誉を感じ、いくつかの興行チケットを融通してくれるということで和解した。*すべてWEB版のみ、読みずらいので緑ではなく黒字表記していますしろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*ああ、もうこの二人自由すぎる!誰にも止められない。范涟めげずにおつきあいよろしく。二人がいちゃこらしていたソファ、ですが原作だと「欧式的贵妃软榻」直訳すると「ヨーロッパ風プリンセスソフトマットレス」、検索するといわゆるお姫様カウチソファ。ちょうどラジオドラマでこの部分の挿絵があり、まさにこのシーン、ということで載せさせていただきました。商老板、でんでん太鼓持ってる!*商老板がレコードを残さなかった理由がわかりました。少年商細蕊の気持ちもよくわかるけど、さすが大物、師匠の寧九郎、芸の世界に生きる不動の貫禄がありますね。*唯一残って「いた」商老板のレコード「春闺梦」から流れる一節は有名な部分のようで、参考動画もいくつか見つかりました。まだ出会っていなかった頃の商老板のういういしい声を聞いて、程凤台の感慨もひとしおだったことでしょう。(しかし商老板にはこの世から抹殺したい黒歴史…)https://youtu.be/cWKANE3cv1U?si=gqdYyHtqRTpUzDZ
]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 58-1
http://musicbirds.exblog.jp/33463170/
2023-09-28T15:55:00+09:00
2023-10-03T15:06:46+09:00
2023-09-28T15:10:31+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
程凤台は老太太たちの部屋を後にして商细蕊を探したが、彼はどこかに隠れてしまっていた。外では子供たちが庭で遊び、一階の大広間では紳士淑女たちが酒杯を片手に軽食を楽しみ、ひそやかに話をしていた。その中で、范涟と薛千山は特に仲が良く二人は長いソファに座って、薛千山は葉巻を吸いながら目を細めて頻繁に頷き、もう一方の手で范涟の肩を抱いていた。この二人の資本家は、まるで同じ母親に育てられたように親し気で明らかに何らかの陰謀を巡らせているように見えた。いつもは程凤台は薛千山と挨拶を交わすことすら面倒くさいと感じていた。遠くの階段口で、トレイを持ったウェイターに合図して范涟にメッセージを伝えさせた。ウェイターはこのようなことは日常茶飯事で、身を乗り出して酒を范涟の前に持っていき階段口をじっと見つめ頷いた。范涟は暗示を受け取り、薛千山を置いて程凤台のもとにはせ参じた。程凤台はソファの肘掛けに寄りかかってタバコを吸い、不満そうに言った。「彼と何の話で盛り上がってたの?気をつけろよ、どうせ良くない話だろ!」范涟は程凤台が薛千山に対して抱く恋敵的な態度には気づかず、笑顔で「どこの誰が良い話なんて言ったの?どこにも良い話なんであるもんか。お金を稼ぐことは、誰が誰をだますかを見ることさ!もちろん、私も彼をだますつもりはないよ、一緒に金儲けしようじゃないか!」程凤台は彼の自信たっぷりの口調を聞き、すでに金を手に入れたかのような態度を見せたことに気づき、尋ねた。「また工場のこと?」范涟はこの義兄が家族全員で移住の準備していることを知っており、工場の設立には反対するだろうと思っていた。すぐに声のトーンを落とし神妙に説明した。「今回の上海の繊維工場はおいしい話だ。私たちはうまい汁を一緒にすうことができる。」程凤台はすぐに理解しタバコを消し、范涟の腕をつかんで外に連れ出した。良いことは家族に隠しておくべきだ。そして、工場の規模や販売経路について尋ねることなく、ただ「私も参加させてほしい」と告げた。范涟は彼の胸を軽くたたき、笑いかけた。「あなたがこの話にのってくれるのはわかっていたよ!あなたは本当に賢い!だから、先に知らせずにまず周りを固めてからと思ってさ!」この時期、上層階級はひどく腐敗しており、表立って金儲けをすることは難しかったため、門下生や子弟に工場を経営させたり商売をさせたりして、裏で手助けをしていた。范家は南京に親戚筋が高官として仕えていた。薛千山は話がうまく手腕があり、程凤台は商売をしているので手元には動かせる資金があり商品の供給も豊富だ。三人は、一人は権力を提供し、一人は力を提供し、一人は資金を提供し、工場を迅速に立ち上げ、その結果日々金を稼ぐことに問題はなかった。程凤台は薛千山の方をちらりと見て、「こんなに早く彼をまるめこんだの?」と尋ねた。范涟は笑って「こんな願ってもないいい機会、彼に何か問題でもあるの?私の家族はみんな北平にいるし、私がだますことなんて彼だって恐れちゃいないさ!」と言って、ため息をついた。「ああ、私たち二人は日々楽しく怠けることが好きだからね。あくせく日々働いたってこんな財産は手に入らないよ!」程凤台も笑顔で「よく働き楽しく過ごすことが大事さ。お金について言えば、一生分を稼いだよ。犬のように疲れてまで金を追い求める必要はない。健康に気をつけないとね。」といやらしそうに范涟の肘を叩いた。「君はまだ結婚していないし、特に健康に気を使わないとね。」范涟は顎を薛千山の方向に向け「この紳士は私たちとは違う考えを持ってる。自分の母親や妻を置いてまで懸命に金稼ぎをしている!彼の家はそれなりに裕福だと言えるのにちょっとの金もうけのためにこれほどの距離をやってくるかね?」程凤台は言った。「本当に貧しい出自の人は、たとえ地面に落ちたゴマでも拾って食べるだろう。彼は母親を大事にするのと同じくらいお金が大事、貧乏に怯えているんだ!」范涟は感嘆の意を込めて首を振り「時々彼には尊敬するよ。ゼロの状態からなんの後ろ盾がないままひと財産を築き上げるのは本当に簡単ではないからね。彼は才能がある。と同時に本当に我慢ならないこともある。少しのお金を稼ぐために、生活を犠牲にすることはないだろう。彼が次から次へと迎え入れている姨太太たちとちゃんと過ごしているとは思えないよ!」といった。程凤台は悪戯っぽく笑った。「何を心配しているの?私が彼に手を貸したこともあるじゃないか。」范涟はかつて程凤台と薛家の八姨太と一緒に過ごしたことを思い出し、悪戯っぽく笑った。笑い終えた後、世の中の苦労を経験したと自負している二人のお坊ちゃんは、同情と軽蔑とを同時に薛千山に向けた。たとえ実際に苦労を経験したとしても、本質的にはお坊ちゃんはお坊ちゃんであり、生活を楽しむこと、快適さを求めることが最も重要である。下層階級からの出発で、懸命に努力して少しでも多く稼ごうとする人々に対して、すくなからず見下すような態度があった。范涟は、程凤台と薛千山と共に計画を詳しく話し合いたいと考えていた。しかし程凤台は周囲を見渡し「今日は君の家は騒がしいし人も多いしゆっくり話す場所じゃないよ。まず君が彼と話して決めて、後でまた会って話し合おう。」范涟は考えた結果、その提案を受け入れた。彼は振り向いて立ち去ろうとしたが、程凤台に呼び止められた。「あれ、あの人!芝居歌う人、どこにいるの?」「どの歌手のことを言っているの?今日は何人かの芸達者が来ています。男役、女役、詩歌い、武役、どのタイプが好みか教えてくれれば紹介しますよ。」誰のことを指しているのか范涟はすぐにわかったが、わざとすっとぼけた。「歌唱力については別として、容姿やスタイルは例の人にも負けないけどね」程凤台が彼を蹴る前に、「はいはいわかりましたとも。姐夫、今は他の歌手に目移りする余裕はないですからね。楼上の一室にちゃんと案内しておいたよ。私はどうせ『王婆的茶铺』ですからね」とため息をついた。程凤台は両手をズボンのポケットにつっこみ、のんびりと階段を上っていき、范涟に微笑みかけた。「おまえ、分かってるね」突然、范涟は程凤台の腕をつかみ、豪華な階段の手すり越しに彼を見上げた。この姿勢で、范涟の白い顔は照明の下で鮮明に見え、まるで平らに広げられた白い布のように笑顔がなくまじめに見え、声も神妙だった。「さっき、彼と少し話しをしたよ。あなたがどれほど好きかはわからないけど、少なくとも彼はあなたのことがとても好きなようだ。」この言葉には多くの憂いが込められていた。程凤台はすべてを理解し、無意味に心を乱されたように感じた。范涟は伝統的な大家族の中で育ったせいか特別な才能を持っていた。人間関係や世故に巧妙に対応する能力があり、物事や人物を非常に正確に見極めることができた。彼はこの冷静さと鋭さを活かして今日まで生きてきたのだ。程凤台は范涟の質問のような言葉に、まるで商细蕊が自分をとても好きだということが当然のように受け止められ、それが明白な悪影響をもたらす可能性があることに気づいたようだった。明らかにこの話題をする場面ではないが程凤台は考えた。程凤台と范涟は多くの年月を共に過ごし、何でも話し合う仲だったが商细蕊の件については深掘りして話すことはなかった。それでも程凤台は簡単に言った。「俺が彼に対する気持ちと、君が思っている気持ちとおそらく少し異なるかもしれないな。どこが違うのかは尋ねないで欲しい。それは説明が難しすぎるよ。話したところで君が理解できるかどうかはわからない。」実際、商细蕊もほぼ同じように答えていた。彼らは范涟にはっきりと話すつもりはなく、事実を隠していた。「俺たちはつきあっているが君が思っているような芸人遊びじゃあない。」范涟は言った。「私もあなたがその手の遊び人ではないと思っているよ。私はあなたが心から恋愛していることを知っている。」彼らは長い間一緒にいたので、范涟は程凤台の趣みをよく理解していた。商细蕊は愚鈍な青年で、全く色っぽくもなく、程凤台が通常楽しむ対象ではない。新しい経験をするためと言ったら、それにはあまりにも時間がかかりすぎている。程凤台は新しいもの好きで、どんなに美味しい料理でも二、三年食べてたら飽きてしまう性格。あの踊り子に対する態度も同じだ。しかし、商细蕊に対しては、一般的な気持ちとは異なる真摯な感情を抱いていることを范涟は知っていた。しかし、恋愛という言葉を使うのはわる乗りがすぎる。なぜなら、范涟は恋愛は悲しみや複雑さや煩わしさがつきものだと考えており、二人の男性がどのように恋愛をしているのか想像ができなかったからだ。特に商细蕊は率直で鈍感であり、繊細で優美な情緒が欠けている。程凤台にとっては難しい相手だ。彼ら二人の愛情表現や喧嘩の際の様子など想像することができない。彼と自分のガールフレンドの状況を考えると、二人がどのように振る舞っているのか考えるのは奇妙で不快に感じられた。程凤台は范涟の皮肉を理解せず、言いはなった。「恋愛というのはそんなに単純じゃない。恋愛をするのに、なぜ彼なんかを選ぶ?彼と何の愛を語るっていうのか!... おまえはなんでいつも恋愛とかベットインについて考えているんだ? 汚らしいな!」范涟は反論しようとして目を丸くしたが、程凤台は彼の腕を軽くたたき「もういい、お前はこれについて心配しなくていい。俺には分別がある。」そう言い終わると軽く彼を振り払って階段を上って行った。范涟は不快な気持ちを抱えながら、彼らが同じ言葉を使っていることについて考えた。彼らはおそらく裏で共謀しており、人々を惑わすためにわざわざここに来たのだろうと思った。そして、彼らに質問することで、自分がお節介を焼いていると感じさせたくないとも考えた。将来何か問題が起きた場合、泣きついて助けを求めてくることがないように。以前、程凤台は范涟を「非常に信義ある好人物」と褒めたことがあったが、おそらく将来本当に難しい状況に直面した場合、范涟は現在予想しているほど冷酷にはならないだろうと考えた。しかし、今は冷酷な感情を抱いて薛千山のそばに戻った。薛千山は彼の顔色が良くないことに気づいて、遠くを見つめてから笑顔で聞いた。「程二爷?」范涟は微笑み「彼は私の義兄じゃない、まるでかたきみたいさ!」といった。薛千山は頷きました。「もう言わない言わない、もう君たちが親戚だと忘れていたくらいだよ。それで商老板も今日来たのか?」范涟は驚いた。なんと、薛千山までがこの二人の秘密を知っているとは!茫然として微笑みながら答えました。薛千山は大胆な調子で「いいぞ、ちょうどいい時に来た!」といった。何をしようとしているのか、范涟にはわからなかった。二階のリビングルームと洗面所はすべてゲストに開放され、ゲストは部屋に入ると、洋風のパーティーに習って、邪魔をされないように部屋のドアノブにかけられた花輪を外して外に掛けておく。商细蕊はもちろんこのユニークな習慣を知らず、程凤台が外に立っていると、中からレコードの音楽が聞こえてきた。商细蕊以外の誰かではないだろう。ドアを開けて中に入り、花輪を外に掛けようとすると、商细蕊が一列のガラスのケースの前でレコードを選んで手に取っていた。程凤台は一枚取り出して見ようとしたが、商细蕊はしっかりと握りしめて離さなかった。程凤台は商细蕊のお尻を軽くたたいて言った。「離せ!それを見せてくれ、何か問題なのか?」商细蕊は不機嫌そうに一枚を渡した。それはなんと彼が昔に録音したアルバム「飘零泪」だと分かった。ここ数年、彼よりも劣る歌手たちがアルバムを次々とリリースしていた中、商細蕊は何度もレコード会社の申し出を拒絶し、頑なに録音はしないと言い張っていたのだ。他の数枚のアルバムも見てみると、「庚娘」、「春闺梦」、「十三妹」、「铁弓缘」など有名な歌唱シーンが含まれており、唯一の例外として「红楼二尤」は蒋梦萍とのデュエット曲だった。これが彼のタブーの対象になるほどのものであるはずはなく、二度と録音をしたくない理由にはならなかったはずだ。程凤台は一枚を取り出して蓄音機にかけようとしたが、商细蕊は急いでそれを取り上げ、他のものと一緒に三枚一気に太ももに叩きつけて、全てを真っ二つに折り曲げた!程凤台は非常に心を痛め最後の一枚を隠し、驚きと怒りで商细蕊を睨みつけた。「君、狂ってるのか?!素晴らしいアルバムを壊して何が面白いんだ?この馬鹿が!」商细蕊は一言も言わずに襲ってきた。二人はもみ合い、もつれ合いながら、喧嘩になった。商细蕊は程凤台を欧風のカウチソファに押し倒し、彼のスーツをしわくちゃにした。息を切らして言った。「それを僕に渡せ!」「何で君に渡すんだ!また壊すつもりか?」「昔、僕の歌は下手だった!」「下手だからって壊すつもりか?君、どんな性格だよ!」「だからこそだ!早く渡せ!これは僕のものだ!あんたには関係ない!」程凤台はレコードを高く掲げ、一方で商细蕊を押さえつけた。商细蕊は彼の上にのりあげ腰をくねらせ手を伸ばし、彼の怒りを引き起こした。一方は過去の満足できない歴史を破壊しようとし、もう一方は愛する人の知らない過去を守ろうとしていたが、どちらもそれが范涟のコレクションであることを忘れていた。彼らはゲストとして、主人のコレクションを勝手に奪い合う権利は持っていなかった。商細蕊が本気で喧嘩を始めると、程凤台は温室育ちのお坊ちゃんとして対抗できないことを悟った。彼はまるで若く力強い雄ヒョウのようだ。彼の筋肉は引き締まり、しなやかでタフで、彼の上に倒れ込んで蹴りまくり、腸が裂けそうになり肋骨に痛みを感じた。程凤台は二度咳こみ彼のお尻をたたき「くそっ、もう一度騒げば殺すぞ!」といった。商细蕊は鼻先に鼻先を突きつけ、怒りに満ちた目で言った。「来いよ、やってみろよ!」程凤台は彼の鋭い視線に急速に刺激され逆に声を柔らげて彼の耳元で言った。「それじゃあ、俺に聞かせてくれ。商老板が昔歌っていた声を」商细蕊は疑わしく「聞いた後、渡してくれるのか?」と尋ねた。程凤台は保証した。「必ず渡す。さあ、立ち上がって。二爷は君に潰されちゃうよ!」商细蕊は身をひるがえし程凤台から離れて華奢なカウチソファに座りその長い表面を軽くたたいて言った。「外国人のこの椅子は本当に快適だね。マットレスやソファよりも快適だよ。」「中にスプリングはなく、スポンジだけだよ。快適だろ?気に入ったら一つ買ってあげるよ。」彼は商细蕊のアルバムを大切そうに置き、二杯の赤ワインを注ぎ一杯を商细蕊に手渡した。商细蕊は口をつけて一気に飲み干し、舌を鳴らした。「酸っぱい、まるでロバのおしっこみたい。」程凤台は眉をしかめて笑った。「ロバのおしっこが酸っぱいってどうして知ってるの?ロバのおしっこだって、君のように飲むもんじゃないよ。」そして、彼にもう一口注ぎ、隣に座った。
*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*『王婆的茶铺』は「水滸伝」に出てくる王おばさんの経営する茶館。武大の隣人で、彼の妻である潘金蓮と西門慶が浮気をする手引きをしたとされる。なるほど!范涟ったら(誕生日当事者なのに)義兄を心配しつつ気をつかってる。なのに。。。心配して逆切れして罵られるわ、収蔵のお宝レコードを勝手に商老板にぶち壊されるという悲劇に見舞われるわ…ほんとお気の毒(^^;)。]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 57
http://musicbirds.exblog.jp/33446177/
2023-09-22T14:06:00+09:00
2023-09-22T14:07:14+09:00
2023-09-22T11:38:51+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
侯玉魁がこの世を去り、商细蕊は水运楼に三日間自発的に哀悼の意を込めて芝居を休ませた。と同時に最近の疲労と傷心を癒したいと思った。商宅では、侯玉魁の古いレコードが絶えず流れ、商细蕊は白いシャツとズボンを着て、庭で戯曲の音楽に合わせて剣を舞っていた。この季節、小道には柳の綿毛が舞い、エンジュの花が咲き誇り、これらの小さな清白な花びらが人々に降り注いでいた。北京では一年の半分は雪が降っている、槐の花と柳の綿毛は北京の春の雪だとそう程凤台はよく口にした。風が吹き花びらが庭いっぱいに降り注ぎ、商细蕊は花のシャワーを浴びているようだ。若くて細身の体つきは、風の中で舞う白い絹のように優雅でしなやかだ。程凤台は扉を押し開けこの風景を見ると、思わず目を奪われ、扉の枠に寄りかかって腕を抱え、静かにそれを眺めた。本来、舞台で演じられる剣術はその姿形が特長で、これだけで武林で独り立ちするには物足りないかもしれないが、さすが見た目は美しいと言える。修練した体と剣は一体化し、優雅で風格のある仙人のような雰囲気を漂わせ、格別優美だ。隣家の二人の少年も鼻水を垂らしながら壁に寄りかかり、楽しんで見ていた。彼らはまるで漫画の中の大侠である白玉堂のように感じているのだ。商细蕊は彼らが見ていることを知っており、剣を振るうことを止めず、一連の動きを終えると腰をかがめ、剣の先で梅の木の下の泥から石を掘り出した。程凤台はこれを見て、子供の目を傷つけるかもしれないと心配したが、止めようとしても遅すぎた。幸いなことに、商细蕊はただ彼らを怖がらせるつもりだった。石はす速く飛んでいったが屋根瓦に当たって子供を驚かせ、彼らは壁を跳び越えて逃げ出し、その後、壁の向こうで痛みで叫ぶ声が聞こえた。商细蕊は子供たちをからかった後、得意気になり、隣の壁越しに言った「これで何回目?もう一度壁に足をかけたらお母さんにいいつけるぞ!次は容赦しないからな!」そういうと同時に剣を鞘にしまい、汗で濡れた服を脱いで椅子にほうり投げた後、急須を手に取り注ぎ口から口へとひと口飲んだ。程凤台に手招きしながら言いました「二爷、おいでよ!」 さっきの美しい水彩画のような舞剣は一瞬で壊れ、まるで幻想だったかのように感じられた。商细蕊は仙人のように舞っていた姿から、花火みたいな性格の戯子に一瞬で戻った。程凤台は彼の服をかけ直して言った「何てやつだ、真っ昼間に裸で庭に立ってるなんて!小来が見たら君だって恥ずかしいだろう!」「小来は今日家にいないんだよ」商细蕊は不機嫌そうに言った「お腹がすいて死にそうだったんだ」程凤台は彼の下あごをつつき「それならちょうどいいね!いい服を着て范公馆に行こう。今日は范涟の誕生日なんだ、気分転換に連れて行ってやるよ」といった。通常、商细蕊は余計な社交や義理を避けることが多く、今回も即拒絶した「行かない!范涟はまた私を招待しなかったんだから!」程凤台は商细蕊がそう言うだろうと予想し、ポケットから招待状を取り出し、それを開いて彼の前に差し出した。「ほら、自分の名前が読めるだろ?その前は葬儀で忙しかったから、彼は君の行方が分からなかった。今日は特別に君を招待するために俺を派遣して来たんだ。さあ、一緒に行こう、范涟は宮廷料理長を雇って料理を用意してる。本格的な中国料理を楽しめるよ!ライチーの木で焼いた大きなガチョウを試してみて!」商细蕊は料理長と満漢全席に心動かされすぐに程凤台に従って誕生会に向かったが、「宮廷料理は何度か試したけど、あまり美味しくなかったし、合仙居の料理には遠く及ばないよ」そして「僕は手ぶらだ、贈り物を用意してないよ!」と口に出した。実際、范涟はもともと商细蕊を招待しようとしていなかった。彼の誕生日はまず家族が集まるべきもので、二奶奶と蒋梦萍が出席する以上商细蕊を招待することはまったく考えられないし、招待したら祝宴も台無しになる。しかし、偶然にも二奶奶は三番目の息子が生まれて以来、気分がすぐれず時折不機嫌になり、子供を連れてもでかけられないし天気が暑いことも嫌がり、急に行かないことに決めた。彼女が来ないと蒋梦萍も来ないという事で、二奶奶につきそい程宅にいのこることに。そこで范涟は程凤台に商细蕊をさそってもらうことにした。商細蕊との関係が最近少しぎくしゃくしていたし、それがなぜかは自分でもわからないが、彼に愛想よくしておきたいと思ったのだ。程凤台は笑って言った「商老板が行くこと自体、范涟にとっては面目を保つことだよ。彼が贈り物をねだるなんて言ったら、よこっ面を張り倒せばいいさ」范家は北京にあって曹司令官と同じように、近くの洋風の別荘に住んでいたが、家族数が多いため曹司令官の家よりも大きな家だった。大きな別荘は父親の複数の妻と弟妹たちが住んでおり、後には寡婦の叔母と従兄弟従姉妹たちも加わった。もう一つの小さな別荘はそれぞれの使用人と老婆子たちが住んでいた。それでも范家は関外での広々とした環境に慣れており、洋風の家でさえ窮屈さを感じていた。寡婦と子供が多いため、日常的に喧騒や泣き声が絶えず、混沌としていた。范涟は外では有能なビジネスマンでありながら、家では家族の中で威厳のある家長ではない。程凤台は怒ると時折強情な匪賊のような気質を表すが、范涟は庶子として、幼少期から耐え忍ぶことに慣れていて、今でも実母や数人の伯母たちに時折困らされ委縮していた。彼が外で踊り子と同棲しているのは、こんな家から逃れるためであり、その動機は実は少し哀れなものであった。商细蕊と范涟は知り合ってもう十年にもなるが、誰も詳しく説明しなかったため范涟が范家堡全体を継承し、皇帝になったかのように富み、威厳があると思い込んでいた。しかし、実際には太后や太妃が後宮で権力を握り、外朝では皇叔たちが私腹を肥やしている。そのため范涟は同治帝や光绪帝よりも厳しい日々を送っていることを知らなかった。商细蕊は車の中で范涟にとても同情した。程凤台はこの機会を利用して仲介役となり、彼を見つめて笑って言った。「だから、范涟がどこかで誰かを怒らせたりなにか不備があっても、俺たちは彼を責めたりはしないようにしよう。彼は実に親切で正直な人間だよ。」商细蕊は無表情で何も言わなかった。范家に到着すると、庭園はすでに立食ビュッフェ風に装飾されていた。広間は狭すぎるので子供たちが家の装飾品を壊さないようにと、草地に白い布が敷かれた長いテーブルを出し、その周りに数人の子供たちがいた。程凤台を見ると子供たちは一斉に駆け寄って「姐夫!」と叫んだ。程凤台は自分の子供たちにはあまり興味を示さないが他の子供たちには非常に親しみやすく接した。一番小さい子供を抱き上げ顔にキスをし「何を持ってきたか見てごらん!」と言った。老葛は車の後ろから黒松ソーダ二箱、フルーツキャンディ二つの大箱、さらにたくさんのクッキー、チューインガム、チョコレートを取り出した。子供たちはみんな喜び、すぐにキャンディを奪い合って喧嘩を始めた。一人の幼い女の子は力不足で、髪を引っ張られて泣き叫んだ。老葛はすぐに使用人二人を呼んでキャンディを家の中へ運ばせた。程凤台は微笑みながら子供たちが泣いたり騒いだりするのを見て、范涟が家を育児所のようにしてしまったことについて考えた。子供たちは大家族の子供らしい態度を全く持っていなかったからだ。范涟は珍しく白いスーツを着て、自ら出迎えに出てきた。彼は子供たちを避けるように足元をかわし、商细蕊に笑顔で近づきながら挨拶した。「蕊哥儿!あなたを待っていたんだよ!あなたが来なかったら私の誕生日は全然楽しくなかったよ!うん、蕊哥儿、ますますかっこよくなった、実に上品だよ!」程凤台は范涟の言葉の乱れた様子、商细蕊が「かっこいい」と褒められたことに嬉しそうに微笑んでいる様子を見て、彼の本性を理解した。范涟は程凤台の肩を軽く叩き「姐夫」と呼びかけた。程凤台も彼に応じて肩を叩き返し、「商老板を案内してあげて、俺は先に姑に挨拶に行くよ」と言った。程凤台の義母である范老太太は、范家の実母であり、二奶奶の母親である。不思議なことにこのような裕福で権力のある家庭では、しばしば父親が早く亡くなり、複数の夫人が長寿を保つことがある。范老太太はまだ高齢とはいえないが動くことをあまり好まず、ほかの人にお茶とたばこを出してもらっている。数人の伯母たちも同様に伝統的な衣装を着ており、その中でも最も若い人も三十代だが上の古い世代に属していた。彼女たちは老太太の周りに集まりおしゃべりを楽しんでいた。范涟の誕生日のような若者が多い場面では、彼女たちはあまり目立たない。程凤台が話に入ると、范老太太は范家堡の栄光や、亡くなった夫がいた頃の誕生日には遠くから名優がわざわざ駆けつけ演奏会をしたものだと思い出話しをした。そして、范涟はセンスが悪いとこぼし、大広間で演奏させた西洋楽団に不満を述べ、去年家に来て《虹桥赠珠》を歌った商细蕊の方が良かったと嘆いた。商细蕊は武功の技も素晴らしかったと。二人の若い伯母たちは商细蕊の名前が出ると、顔にほのかに恥じらいの表情をうかべ一人は不自然に微笑み、もう一人はハンカチで口元を拭き咳払いをした。この二年間、程凤台はなぜ商细蕊が絶えず女性から関心を寄せられているのか理解できなかった。あんな横柄で情のない男を誰が気に入ってくれるというのか。逆に自分はスマートで颯爽とし范宅の内堂にも堂々と出入りしていたにもかかわらず、どの老姨娘も自分に好意を示したことがなかったことが不思議だった。程凤台は笑って、「范涟は素人で、商老板に芝居をさせる資格はありません。お義母さんが誕生日を迎える時には水雲楼を招待しましょう」と言った。彼は彼女たちに商細蕊がここに来たとは敢えて言わなかった。後ほど未亡人たちにお慰みのために呼ばれたら、まるで売春する芸子のようになってしまうではないか。程凤台が姑に挨拶をしている間、商细蕊は范涟に連れられ客室に案内され、料理や西洋音楽の演奏を楽しんでいた。范涟は商细蕊のそばでつかず離れず冗談を言い、これ食べてみてあれはどう?と他の客はそっちのけだった。商细蕊はすべてのデザートやプリンを試食し、カップに入ったミルクティーを持ってソファに座り、ゆっくりと飲みながら正餐を待っていた。彼は今日は他に何かをするためではなく、美味しいものを食べるために来たので、のんびりと過ごしていた。范涟は商细蕊がまだ多少不機嫌な顔をしているものの美食の楽しみを経て、比較的幸福な気分にあるようだと思い、軽めに尋ねた。「蕊哥儿、私たちは長いつきあいだよね。お互いの性格もよくわかっている。私はずっとあなたを尊敬しているよ。」商细蕊は一口茶を飲みながら「ほう」と答えた。心の中では、誰もが自分を尊敬するだろうし、それに聞いてどうするのさ?と思った。しかし、范涟は哀れな表情で言った。「でも蕊哥儿、最近何かあなたを怒らせたのかな?なんで私に対してこんなに冷たいの?」商细蕊はまだ彼を見ず、ただお茶を飲んで「ほう、あなたが自分で言えばいいんじゃない?」と答えた。范涟は焦って言った「私が何を言ったか、何をしたのか、言ってみてくださいよ。」商细蕊は彼が反省しないことに怒り、カップを皿に戻し彼の胸に指を突き立て、声を低めて脅した。「もう二度と二爷にこそこそと誘惑させたり困らせたりしたら、あなたを殺すから!」范涟は怒って言った。「何だって?私が姐夫を困らせた?彼が私を困らせてるんですよ。あなたは彼のことを知らなさすぎる…」商细蕊はたとえ程凤台が悪かろうとも彼の悪口を聞くのが我慢できず、眉をひそめた。范涟はすぐに許しを乞うように言った。「蕊哥儿、お願いだよ、詳しく説明してくれないか。本当にわからないんだ。」商细蕊は冷ややかに言い放った。「東交民巷!踊り子の女!」范涟はこれですべて理解した。まさに「哑巴吃黄连」、いうに言えない苦しい事情。もし彼が商细蕊に真実を説明しようとしたら、程凤台を困らせる前に彼によってなぐり殺されるだろう。しかし、彼が予想外だったのは、この情事を最初に問い詰めてきたのは彼の姉ではなく、商细蕊だったことだった。言える立場か?まったく余計なことをしてくれるな。范涟はしばらく黙って、自暴自棄になって言った。「そうだ、私は下劣な男だ!彼に紹介したことを後悔してるよ!彼女は追いだすよ。これからは、ダンサーや歌手の女を姐夫の前に連れて行くことは絶対にしないよ!」彼は言いながら委縮し泣きそうだった。商细蕊は頷いて言った。「その通りだ!」二人はしばらくの間、お茶を飲みながら静かに座っていた。范涟は商细蕊の表情を見ながら、事態が今日まで進展し、この二人の火遊びが危険な道に進んでおり、より真実に近づいていると気づいた。今日は言わなければと決意し、ためらいながら切り出した。「蕊哥儿、私はずっと言いたかったことがあるんだ。あなたは不快に思うかもしれないけど。」商细蕊は彼が何を言おうとしているかをうすうす感じた。「言ってみてください。」范涟は言葉を発するのが難しいようで、再びしばらく黙っていた。最終的に決心を固め、彼に向き直り、真剣に言いった。「蕊哥儿、あなたを手元に引き留めることのできる票友は、ほとんどが富裕な人たちだ。あなたは私たちの中で成功していると言えるでしょう。あなたは、私たちの一団の少爷たちをよく知ってますよね。彼らは自由奔放で、時には無駄に浪費し、遊びたいときは遊ぶ。でも家庭を持つ者は非常に現実的で実利的。総じて、感情に走るタイプではないんです。」商细蕊はうなずき同意を示した。この一団の裕福な若者たちは、外では派手な生活を楽しむ一方、内面には問題があることがある。もし親が彼らに対する教育を緩めてしまうと、状況はさらに深刻になり、一般人の倫理観では彼らを制御することはできないだろう。彼らの秘密の行為は汚点が多く、誰にでも信じられるとは限らず、歌手のような職業の人たちの方がまだ清廉であると言える。「私と姐夫と...」と范涟は言おうとしたが、言葉が途切れた。「数人の親しい友達は、心の優しい人たちと言える。私も現実的で、兄弟や年配の人たちの世話を良くするけど、これが最も重要なことだ。もし女性が家事を管理できず、大家族の人間関係を調和させることができないなら、私はどれだけ好きでも彼女を娶らない– いや、娶ってはいけない。」商细蕊は范涟が例の踊り子の女について語っていると思ったので、あいまいな理解で頷いた。「私は27歳まで生きてきて、この社会階級の中で真実の愛に遭遇したのは、当時平陽であなたを殴りかけた男だけです。彼について言えば、母親は早くに亡くなり、父兄とはあまり親しい関係がなく、妻とは仲が良くなかった。たとえ萍嫂子(蒋梦萍)がいなかったとしても、彼の父親が亡くなった後、彼は早晩最初の妻と離婚しただろう。彼女は彼の打つ手をなくさせ窮地に追い込んだ。しかし、別の状況を考えてみると、もし常家が和睦し、父親が子供たちに愛情を示し、彼女ともっと交流する機会があったら、それはどうなっていたか。」范涟は商细蕊の表情に注意を払い、常之新について話し、彼が怒り出す様子もないことを確認し、軽快な調子で続けた。「そして、一部の人々は品が良く、友達としては信義があるし、ビジネスでも裏切ることはない。でも本気で交際し、恋人になることは得策じゃない。」「これはあなた自身について話しているんじゃないですか?」商细蕊は知らぬ顔をした。「私も含めてね!」范涟は乾いた笑顔で太ももを軽くたたきました。「もちろん、姐夫も含まれています。」ついに話を本題に戻したか。商细蕊は范涟と長い付き合いで、彼の遠回しに話す癖にはうんざりしていた。程凤台はいつも要点をはっきりさせ、明快だ。范涟のような人物は、商细蕊が怒ると手に負えないことがあった。商细蕊は確信をもって言う。「私は二爷はいい人だと思います!」范涟は笑顔で返す。「君たちは今暇なときに一緒にいるだけだ、もちろん彼はいい人だと思ってるだろう。人を楽しませることが得意だからね」「それで十分じゃないですか!」商细蕊は不思議そうに言った。「私は彼と結婚したり、彼を嫁に迎えるつもりはありません。なぜそんなことを私に言うのですか?」范涟は優しく助言する。「蕊哥儿、私は君に伝えたいのは、私たちのグループの人々の考え方や懸念は大差ないということなんだ。結局のところ、状況はそこにある。君が家庭と事業に真剣に取り組むなら、最終的には水を汲んでくる籠が空になってしまいます。私は君と萍嫂子が仲違いして君が苦しむの見て、心から心配しているんです!」范涟は嘘をついた。当時の出来事に関しては、彼は明らかに常蒋夫妻を支持しており、商细蕊のその奇怪な熱情に非常に頭を悩ませていた。もし商细蕊が誰もが認める実力派の役者ではなく純粋な一面を持っていなければ、范涟は今でも彼に注意を払う事はないだろう。彼は商细蕊に十分にやわらかいアプローチで苦言を呈したが彼にとっては理解できないものであった。范涟は彼に程凤台が裕福な家庭の子息全般に共通する悪癖を持っていることを直接伝える勇気がなかった。程凤台は自由で楽しい生活を望み、家庭にはあまり注意を払わない。彼が二奶奶と結婚して間もない時はいろいろと問題が起こった。二奶奶を馬に乗せて外出し、落馬して負傷させた。また、他の女を妾にしたがっていると噂が広まり二奶奶が非常に怒ったということも。程凤台はおとなになって彼女の耳に入れないように収めることができた。しかし彼の悪癖は完全には修正されてはいなかった。また、商细蕊自身も損をすることを嫌い、知恵のある性格ではないしどこか愚かな面があり、頭の回転も鈍い。蒋梦萍に対する感情が深いにもかかわらず、対立が生じた場合、融通が利かず、愛するときはただ愛し、それが続かなくなるとただ恨むだけ。范涟から見れば、これらの二人は一方は渾然とし、もう一方は狂気じみていて、一緒にいることは将来性がないだけでなく、衝突が生じるとすぐに敵対し破局する可能性が高いと思われた。まるでかつての平阳のように。「僕のことは君には理解できないよ」二人は長い間口論した後、商细蕊はゆっくりと頭を振りながら言った。「僕たちの気持ちなんてあなたには理解できないさ」范涟は心の中で思った、そうだ、本当にわからない、君たち二人のおかしな神経を理解するのは難しい。商细蕊の目には二つのささやかな炎が燃え、虚無の向こうに焦点を合わせ懸命に語った。「僕たちが一緒にいるのは、愛を語り合うためじゃない。」范涟はもともと軽く冗談を言おうと思っていた「そう?君たちは同棲するために一緒にいるのではなく、世の革命のためにいるとでもいうのかな?」と。しかし、商细蕊の表情とその目に宿る執念に気付きしばらく呆然として、次第に頭皮から背中にかけて寒気がはしり落ち着かなくなった。范涟は直感した。商细蕊は、通常の人々にはある何かが欠けていて、異なる何かを持っている。それは彼に生と死の境界をさまよわせているようだ。会話はもの別れに終わった。范涟は人をうまく諭す名人でことばを選んでいるが商细蕊の耳には届かない。彼は愚かでもう何を言っても聞く耳を持たないと気付き、师姐との関係がこのような状況に陥った理由も納得できた。商细蕊のほうも范涟がくどくどと話すのを理解できないし、なぜ束縛されなくてはいけないのかと同治光绪帝時代にいるように思えた。門の入口で数人が笑い声を上げて騒いでいた。薛千山が到着したのだ。范涟はこの機会に会話を終了し、立ち上がって商细蕊に微笑んだ。「蕊哥儿、自分で居場所を見つけておくれ。2階の右手、3番目の部屋が休憩室で、中にはレコードがある。食事の準備ができたら、私が呼びにいくとしよう。」そして、商细蕊の耳元でささやいた。「今日来た人の中には、あなたのファンも何人かいます。彼らに囲まれたら、暇がなくなりますよ。」商细蕊は急に恐れをなし食事や程凤台を待つこともなく人目を避けて2階に駆け上がった。范涟はその様子を見て兎みたいだなと思った。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*章の初めの春のシーンいいですね。ときどき冬以外の設定がでてくるのが好き。花吹雪の中の商老板の剣舞、見たかったなあ~二爷も見惚れるシーンは妄想で。*二爷が差し入れした黒松(ヘイソン)ソーダ、台湾のメーカーさんで日本でも手に入り、Amazon等通販でも販売してます。かなり癖のある味のようですが(笑)、当時はかなりハイカラ(!)な飲み物だったかもしれませんね。二爷はみんなには優しいお菓子バラマキおじさん。*光緒帝は清朝十一番目の皇帝で西太后の傀儡皇帝。のちに百日改革を起こすも制圧され37歳で亡くなるまで自宅軟禁されるという不遇な一生を終えた人物。*原作での范涟はドラマよりも深く描かれていますね。若いのに大所帯の大黒柱になってしまったプレッシャーがある。それだけに細かい配慮や、世の中を俯瞰的にみる思慮深さを感じます。少しは大目に見てあげたい気分になります。清朝末期の皇帝たちのようであり、それを嫌っているのに自分でも逆に干渉したくなり。商老板のことは名優であると認めるがゆえ、平陽時代からずっと気にかけているのに、なぜかないがしろにされやすい...(^^;)]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 56-2
http://musicbirds.exblog.jp/33327880/
2023-08-15T10:57:00+09:00
2023-08-15T10:58:13+09:00
2023-08-15T10:40:28+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
「霊堂には何人か顔馴染みがいるが、侯玉魁が亡くなった今、周りにいるのはなぜか全てあなたたち役者だけ。彼の息子たちはどこにいるの?」実はある逸話がある。侯玉魁には元々四人の息子がいたが、後に彼は『赵氏孤儿』という芝居で、実の子を身代わりに殺してしまう程婴の役を演じるたびに、息子が一人ずつ不慮の死を遂げると言われていた。三度目の予言が現実となった後、四度目になっても侯玉魁は未だに迷信を信じなかったが、この不可思議な事態はまたもや現実となってしまった。侯夫人は怒りの中で亡くなり、死の間際まで侯玉魁を憎んでいたと言う。侯玉魁は元々堅物だったが、その後ますます奇怪な性格になり、家族にも近づかなくなり、常にアヘンと共に過ごしていた。商细蕊自身も「戏谶」(舞台の出来事から未来を予知すること)を信じており、程凤台に自分が蒋梦萍と一緒に演じた『白蛇传』の話をした。最初の公演では、舞台下には常之新が座っていた。二度目に常蒋二人はねんごろになった。そして三度目になると、常之新が演じる许仙が白娘子(白蛇)を誘惑して逃げ去った。小青(青蛇、白蛇とは姉妹同然)は納得せず絶望的な状況に追い込まれる。白娘子は水神の怒りで金山寺が水没するのも厭わず、许仙との恋を成就させようとした。程凤台は首を振りながら、「それならば君は小青になる必要はない、小青はそんなことはないだろう。君は法海和尚の役がふさわしいよ」と言った。侯玉魁の死の知らせは翌日には広まり、弔問に訪れる人数は後を絶たなかった。商细蕊は一晩徹夜で頑張り、昼間に機会を見つけて侯家の小さな部屋で寝ていたが、一時間も経たないうちに、钮白文が叫びながら彼を呼び起こし、水雲楼で何か事件が起きたと伝えにきた。商细蕊はゆっくりと起き上がり靴を履いた。水云楼の一味は、彼が不在の隙に些細な問題を起こすことは珍しくない。喧嘩や、口座の金の横領が発覚することもあるが、商细蕊は面倒くさくてそれには関心を持たない。钮白文は商细蕊を支え、もう一つの靴を履かせてあげた。「先ほど一人の老人がやって来て、灵堂に入って『老侯よ!』と叫んだ直後、白目をむいて気絶したようだよ。知り合いの人によれば、胡琴の黎伯だと言うんだが、早く行って確かめてみたら?」商细蕊はそれを聞いて動揺した。钮白文をそこに置き去りにし灵堂に飛んで行った。そこには確かに黎伯が倒れていた。数人の戏子の家族が彼の周りに集まり、脈を確かめたり涼茶を飲ませたりしていたが、黎伯はただ歯をかみ締めるだけだった。侯玉魁の娘婿が迷って言う「もしかして、脳卒中かも?」そう言われると、皆が症状がよく似ていると感じ急いで医者を呼んだ。商细蕊はかなりせっかちな性格であり、この状況を見ているだけで焦ってしまった。人々をかき分け、黎伯を背中に抱え上げると「いつまで医者を待てって言うんだ!私が彼を背負って走ればいいだろう!」と言った。人々は驚愕の声を上げ、あわてて商细蕊から黎伯を引き剥がした。「商老板、無茶をするな!この病気は絶対揺さぶってはいけないよ!」商细蕊は焦りで心中怒りを爆発させ、黎伯の周りをグルグル回りながら、拳を握りしめて反対の手のひらをバンバンと打ちつけた。まるで怒り狂った花火のようで、誰も彼に近づく勇気はなかった。近づいたら彼に吹き飛ばされるか、もしくは彼自身が吹き飛んでしまうかもしれない、と恐れた。長い時間が経ち、ようやく医者が来、脈を診て本当に脳卒中だと確認した。侯玉魁は西洋医学を信じずに亡くなったため、侯家では中医が独占的な立場ではなくなっていた。侯玉魁の大弟子が主導権を握り、すぐにイギリス人医師を呼び注射を打たせた。しかし、この急性の状態は一回の注射では解消されなかった。黎伯は数日間の入院治療の後一命を取り留めたが、目が覚めると半身が不自由になってしまった。もう楽器を弾くこともできず、飲食や排泄も人の世話が必要になってしまった。彼と侯玉魁との交友関係や家族の状況について尋ねると、黎伯はくすんだ目をパチパチとさせながら口を開き、唾液が口の端から流れ落ちるばかりで、まともに言葉を発することができなかった。商细蕊は実に大変であった。侯玉魁の葬儀を手伝うだけで十分に疲れているのに、黎伯の見舞いにも頻繁に通わなければならなかった。実際には、小来が病院に残り世話をしてくれているおかげで商细蕊が手助けする必要は特にない。しかし商细蕊は諦めることができず、毎日黎伯の様子を確認しに行く。程凤台は自ら志願して商细蕊の運転手を務め、侯家と病院の間を行き来して彼を送迎した。わずか3、4日の間に、商细蕊はやつれて痩せ細り目は殺気立っていた。水云楼の戏子たちがこの時期に些細なことでトラブルを起こそうものなら、彼は誰が悪くても怒鳴りつけて追い返すであろう。ある日、水云楼で演技の順番について争いが起き、商细蕊の短気が爆発し、袖を振りながら人を殴りかかりそうになり、訴えてきた先輩の戏子を怖がらせて何歩か退かせてしまった。車の中で程凤台が笑って言いった。「商老板、一つ提案があるんだが」商细蕊は彼の言葉をさえぎり怒号を飛ばした。「余計なことを言うな!ちゃんと車を運転しろ!もううんざりだ!」程凤台は軽蔑のまなざしで商细蕊を一瞥し、多くを語らなかった。彼が自分を頼って身を寄せたと人が言うが、長く一緒にいると、この犬のような気性が露呈してくる。誰がこんなことに耐えられる?誰が大金を出して、自分が卑下される身の上になりたがるだろう?程凤台は誠実で一途であり滅多にこうして突き放されることはないが、やはり気持ちがいいものではなかった。二人は静かに路を進んだ。商细蕊は程凤台に八つ当たりするたびに少し後悔と不安を感じたが、程凤台の前では怒りを抑えることができなかった。もちろんどんなに後悔しても彼は自ら謝ることはなく、頑固に首を振って病院に着くと、車のドアを力強く閉めて振り返りもしない。程凤台は彼を呼び止め、手で彼に合図を送った。商细蕊は冷たい表情で歩いて近づき、彼がなにか慰めようとしていると思い「何?」と尋ねた。程凤台は彼の顔を見て、タバコを取りわざとゆっくり二口吸って商细蕊をじらした。そして薄目で言った。「今日、君が養っているあの暇な団員たちを交代で病院に行かせたらどうだい。小来の手間を交代で助けるようにさ。一人で女の子がどれだけ頑張れると思う?それに毎日侯家に行って黎伯の状況を報告する手間も省けるし。」商细蕊はこの提案を心に留め、これは実にいい方法だと気づいた。団員たちが暇でトラブルを起こすのを防ぐことができるし、なぜ自分がこれを早く思いつかなかったのか。程凤台は彼を見下し、嫌悪感を感じさせるような口調で言った。「俺だけにかんしゃく起こすのはやめてくれ。分かった?俺は君を孫みたいに甘やかしすぎたよ。君が僕をどうこうできる立場か?他の人には優しく礼儀正しく振る舞えるのに、なぜ俺だけにはそれができないんだ?」商细蕊は何かぶつぶつつぶやいたが、程凤台は彼がまた自分を非難していると思い「何て言った?もっと大声で言って!」と言った。商细蕊は大声で言い放った「言ったのは、あなたはもう他人じゃないってことだよ!」程凤台は一瞬びっくりし、しばらくしてようやく笑みをこらえて、嫌悪と不快の表情を保とうとし商细蕊に手を振りながら言った。「さっさと行け!」商细蕊は恥ずかしくなり素早く病院に駆け込んだ。程凤台は自分は甘いなと思う。他人じゃないといわれただけで他の誰がこんな我慢を甘んじて受けられるというのだろう。天候でさえ出棺はとめられない。七日が経ち侯玉魁の大葬が行われた。北京と天津の役者たちは、有名無名、現役も引退した者も、街全体、前門大街をほぼ詰まらせるほど、共に棺を運ぶために駆けつけた。遠方から来た役者たちや数千人の観客たちも含め、参列者たちは侯玉魁を慕っていたが、侯家はそんなに多くの喪服を用意していなかったため、急遽白い布を切って腰に巻く帯を配った。一人、年配の来歴不明の役者がおり、彼は芝居上の寡婦の衣装を身にまとい同時に濃い化粧を施し、棺の後ろについて涙ながらに歩き、まるで亡夫に置き去りにされた小さな寡婦のようだった。この葬儀は非常に厳粛で政府筋も驚いており、葬列の通る必要がある場所に弔いのための祭棚が建てられ、文化関連の役人が派遣されて慰問した。喪委員会のメンバーは、以前の科挙の状元から今の名優、文豪、巨富まで名を連ね、侯玉魁の弔いは実に盛大となった。春の終わりの日差しは明るく輝き、数台の人力車には親戚筋の女性たちや女優、そして先輩たちが乗っていたが、他の芝居関係者は徒歩で十数キロメートル歩いて、郊外の墓地に到着した。商繊蕊は陽に当たって全身が汗みずくになり、加えて最近のイライラと疲労が心の中の火を勢いづけた。弔いの声は耳元で響き渡り、商細蕊は鼻孔から熱いものが湧き上がってくるのを感じた。鼻を力強くすすり、喉に詰まったように苦しくなる。急いで袖で口を覆い、顔を真っ赤にして咳き込んだ。すると、钮白文が悲痛な叫び声を上げた。「商老板!まったく、どうしてこんな苦労をするんですか!」その場にいた心底嘆き悲しんでいた友や人々は一斉にふりかえり、商細蕊が赤い血を何度も白い喪服に吐き、片方の袖までも濡らし、目を真っ赤にはらしているのを見た。彼らは驚きそして気づいたのだ。この黙りこくった人気役者は、実は彼らよりも侯玉魁との間に深い感情を持っていることに。葬儀前の日々では彼が涙を流すことはなかったが、葬儀の日に血を吐くなど想像もできなかった。その誠実で深い情義に、侯家の親戚や孫たちは自ら恥じ入り、侯玉魁の弟子たちは商細蕊が彼らのお役目を奪ったことにさらに屈辱に感じ、墓前で天を衝くように泣き叫んだ。侯家の人々と钮白文は感動し、商細蕊にもう苦労をかけさせることはできないと、彼に輿に座って休憩するように頼んだ。商細蕊は咳き込み息も絶え絶えで、両腿を支え背筋を伸ばし、鼻血の逆流の原理を説明しようとした。侯家の大姑奶奶は、この虚弱で頑固で情に厚い少年を見て、心から気の毒に思い、涙で濡れた手ぬぐいで彼の口を押さえながら涙声で言った「商老板、もう何も言わなくていいわ。私たち侯家はあなたの気持ちは痛いほどわかりましたから」钮白文も眉をよせ悲しんで言った「商老板、早く休んでください!私たち梨園仲間がまた一人失われることにならないように!」商細蕊が何か言う前に、彼は水云楼から二人の若手を呼んできて「早く輿に商細蕊を乗せて!」と命じた。こうして商細蕊は心置きなく輿に座り居眠りをした。午後には大きな芝居が開催された。しかし侯家は彼に無理はさせられない。彼はこれまた心置きなく大姑奶奶の傍らに座って素晴らしい舞台をいくつか見て、たくさんお菓子を食べることができた。钮白文はバタバタと忙しく出入りしていたが、商細蕊は隙を見て彼を呼び止めて言った「钮爺、侯玉魁の一番弟子と『武家坡』を一緒に演じたいんだが」これは当時、安王府で行われた、彼と侯玉魁が共演のした初の演目である。钮白文は感動し「あなたが体調が良いと感じるなら、一場面だけ。一場面だけですよ!」と言った。侯玉魁の大弟子は役に扮した。師匠とは三割似ているところがあった。商细蕊が王宝钏としてゆっくりと舞台に上がり、侯の大弟子と目を合わせた。一人は「これが師匠が絶賛していた人物か」と考え、もう一人は「これが老侯の真の後継者か」と考える。二人とも異なる思いを抱えていたが、同じような傷心を抱えており、涙が溢れんばかりとなった。一芝居終えると商细蕊は楽屋に戻って化粧を落とすこともなく、また他の舞台を観ることもなく、テーブルのそばに座って茫然としていた。侯家の孫が碗を持って入ってきて、商细蕊の前に置いた「商老板、おばあちゃんがあなたの演技が本当に素晴らしいと言っています。お疲れさまでした。体を労わるためにこれを食べてください」子供は彼の反応を見て、ふふっと笑って背を向けようとした。商细蕊は彼を即座につかみ引きよせると全身を上下につまみあげた。子供は逃げようと体をよじり騒ぎたてた。商细蕊は眉をひそめながら、子供の顔を包み込み「さあ、私に声をもうちょっとだけ聞かせてみて」子供は彼の目に熱狂と執着心を見て怖がり、商细蕊の手を払いのけ外へ駆け出し、恐れおののきながら大声で叫んだ。「お母さん!お母さん!ここに変な人がいるよ!」子供の声を聞いた商细蕊の目は急速に色をなくしテーブルに寄りかかってぼんやりとした。碗の中の料理は冷えてしまい、外の舞台もすぐに冷えてしまうだろう。壁には侯玉魁が使っていた剣と髭がかかっていた。侯玉魁は亡くなり、彼の大弟子は彼の足元にも及ばず、彼の孫も役者としては向いていないようだ…侯玉魁の孫が祖父の教えを受けずに育つなんて!商细蕊は侯玉魁の死を思い出し、涙もでないほどの途方もない悲しみを感じた。さらに黎伯のことを思い出すと、その心をえぐられるような痛みに、まったくなすすべがなかった。そこへ程凤台が一陣の風のように外から入ってきて、商细蕊の前に膝を立てて座り彼の後頭部を撫でながら心配そうに見上げた「商老板が血を吐いたと聞いたよ、そこまでしてなぜまだ舞台で歌うんだ?」商细蕊は彼の胸もとに顔をうずめながら泣いた。
*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*『赵氏孤儿』は「天命の子~趙氏孤児」としてドラマ化もされた(日本語字幕あり)有名なお話。あらすじを見ると壮大な復讐劇です。「白蛇伝」もちゃんと筋を追って見てみたくなりますね。しかし4人もいた息子たちが次々に亡くなるとは、なにかあると感じずにはいられません。奥様確かにお気の毒。頑固な夫を持つと苦労が絶えない。*侯玉魁の葬儀に来た来歴不明の人物って?黎伯との関係も気になりますね。商老板の上世代の物語も知りたくなる!そして侯玉魁は商老板にとって大きな存在だったんですね。ともに舞台に立って信頼関係を築いていた黎伯までも病に倒れ、心の支えを失い今後の梨園の行く末までも案じてちょっとパニックになってしまった様子(ただでさえ変人なのに)。二爷に対して、すでに他人ではなく最も近い存在、となかなか口に出して直に言えない商老板がいじらしい。何とかお菓子と好きな芝居で持ちこたえたものの…暴言吐かれて冷たくされても絶妙なタイミングで現れる二爷はさすが大人の貫禄、ここは、しっかり支えてあげて欲しい!]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 56-1
http://musicbirds.exblog.jp/33244116/
2023-07-18T10:44:00+09:00
2023-07-18T10:45:56+09:00
2023-07-14T17:49:04+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
侯玉魁は半生をアヘンに費やし、何か病気にかかると治りにくい特徴があった。最初は蹄髈の煮込みを多く食べたために下痢が少し出ただけであったが、次第に喘息に発展した。商细蕊らに病状が伝わった時には、老人は既に長く病に苦しんでいた。杜七はおじの杜明蓊と一緒に西洋医師を連れて病院を訪れた。杜明蓊と侯玉魁はかつて紫禁城での関係があり、親しい友ではなかったが、この老舞台俳優を貴重な遺物のように大切に思っていた。連れて行った医師は抗菌薬を一本注射したが、もちろん効果はなかった。杜七は帰ってきて商细蕊にため息交じりに言った。「侯玉魁はいよいよのところまできている。もう人を認識できないほどになってしまった」そう言いながら目がしらを赤くし悲しんだ。商细蕊も非常に心を痛め程凤台との楽しい時間も上の空になってしまい、急いで侯玉魁を見舞いに行った。侯玉魁のそばで徒子徒孫たちが世話をしていたが、彼らは不安からか責任を負うことを恐れていたのか、商细蕊に、侯玉魁が中医学を信じ西洋医学の方法を受け付けず、薬を飲むことを拒んだことを話し続けた。商细蕊はこれらの話を聞くのにうんざりしていたが、侯玉魁の顔色を見ると、彼が本当に死ぬことになるのだろうと予感した。侯玉魁に新年の挨拶をした際、彼のためにふたつの大量のアヘンを用意し、侯玉魁はアヘンに助けられながらずっと梨園のエピソードについて話した。昆曲の衰退に至るまでの道理や、新劇がいかにつくられるか、弟子の指導方法などについてまで語り、ついでに今の優れた役者たちについても数名挙げた。今日思い返すと、まるで遺言のようなものを伝えていたように感じられる。商细蕊は思わず熱い涙が湧き上がり、床の前に座って侯玉魁の手を引いて言った「爷爷!あなたは逝ってはいけません!私たち兄弟はまだ十分楽しんでいないのに...」数人の弟子たちは困惑した表情を浮かべ、この役者と彼らの師匠が実際にどのような関係にあるのか理解できなかった。侯玉魁は点滴を受けながらしばらく必死に生きながらえていたが、柘榴の花が咲く前に旅立ってしまった。商细蕊はこの知らせを受けた時、頬の傷も既に癒え、楽屋で程凤台の笑い話を楽しみながら化粧を落としていた。琴言社のリーダーである钮白文が悲しみの表情でこの訃報を伝えに来た。楽屋は一瞬静けさに包まれ、そして嘆息の声が広がった。商细蕊はゆっくりと立ち上がり「ああ!」と声を上げ、またゆっくりと座った。钮白文は侯玉魁と商细蕊の年齢差関係のない友情を目のあたりにしていたので商细蕊に誠実な慰めの言葉をかけた。「老侯はあのご年齢であったし、上は太后や仏爺と言い争いをしたこともあり、下は庶民たちに愛されたこともあり、価値のある人生だったと言えるでしょう!私たちはあまり悲しむことなく、彼の後事を盛大に執り行うことが最も重要ですよ」そして続けて言った。「商老板、侯家の孫たちは力不足で、最年長の孫も今年でまだ十歳です。侯家には主事の人すらいません!私の力の及ぶ限り全力を尽くします、辞退する余地はありません!商老板は北平梨园行の中で一番の人物ですから、重要な役割を引き受ける必要がありますよ!」商细蕊はぼんやりと頷きながら「そうですね」しかし少し考えて「私はまだ若すぎます、資格が足りません!まだ他に何人か先生方がいらっしゃいますから!」と言った。钮白文は謙虚な態度で笑って言った。「年が若いのを心配する必要がありますか!あなたの名声は軽くありませんよ!」彼は立ち上がり、礼をして「ここで失礼、舞台を誤ることのないように。私は他の役者たちにも訃報を知らせなければなりませんのでね」と退席した。商细蕊は憂鬱な気持ちで一晩を過ごした。翌日、彼は全ての舞台を中止し、喪服を着て侯玉魁の弟子や家族、そして他の役者たちと共に弔いをした。彼は誠実な孝心を持っていたが、前の晩からつまらなさを感じており、ろうそくを見つめながら、紙幣を盆に納めた。夜は静寂で少し寒々しい雰囲気があり、周りは白い幕と帳で覆われていた。商细蕊は一場面を演じようと考え、侯玉魁の名作「奇冤报」の曲を静かに歌った。それは亡霊が復讐する物語である。彼は侯派の真髄を深く理解しており、弟子たちは寒気がするほど聞き入って、商细蕊に懇願した。「商老板、素晴らしいです!葬儀の時、師父に歌声を大いに聴かせてください!ただし、今は私たちを驚かせないでください!」商细蕊は言った「私がどうしてあなた方を驚かせたのでしょうか?師父の名場面を聴くと、きっと親しみを感じるはずです。何が怖いことがあるのでしょう。」下座にいた一人の幼い孫娘は徹夜に耐えられず、ちょうど昼寝をしていたところ、商细蕊の幽玄な朗々とした歌声によって目を覚ました。目を開けても夢かどうかはっきりとわからず、怖くて抑えられないほど泣きじゃくった。彼女はおじいちゃんが舞台で歌っていると言いはり、その様子に嫁もびっくりし子供をなだめると言って連れ去り二度と戻って来なかった。商细蕊は唇を尖らせ、不本意ながらも黙りこくった。深夜までなんとか起きていた商细蕊も眠気が襲ってきたて頭を支えながら居眠りをしていると、誰かが彼の耳をつまんだような感覚がある。驚いて目を覚ますと、なんと程凤台だった。程凤台は麻雀を十六局打ち終え、夜の活動が終わった後、商细蕊のことが気になって弔いを利用して彼を探しに来たのだ。商细蕊が目を覚ましても耳をつまんだりこすったりし続けているのを見て、ばかばかしくなって公衆の面前で彼に向かって笑い出した。ここでは水雲楼の楽屋とは違い、彼らがいちゃつく場ではない。ここはどれだけ多くの目が注がれていることか!商细蕊は警戒しながら周囲を見回し、数名の有名役者たちはすかさず目をそらした。侯玉魁の大弟子が助け船を出し、笑って言った「程二爷はお優しいですね。こんな時間にまだ師父のためにお参りしに来てくださるなんて、師父が亡くなる前にもよく話していましたよ。」程凤台は重々しく言った「私とあなたたちの師父が安王府で出会った時、私たちは話し込んで実に良い友情を築きました。私は演劇が大好きで、侯玉魁も私に演劇のことをよく話してくれましたよ。彼は本当に誠実な方でした。当時、私は彼に少しアヘンを控えるように勧めましたが、彼は怖くないと言ってね。武生の基礎があって体も丈夫だから問題ないと。私は紫玉のパイプを彼に贈ることも約束しました。誰が予想したでしょう、ああ...この2日間は忙しくて時間が取れませんでしたが、明日の昼間に正式に弔問にきます」商细蕊は程凤台の話を聞いて本当に恥ずかしくなった!まあこんな恥知らずな人がいるのか、亡くなった人の前で嘘ばっかり並べて!安王府での会合の時、彼は一度でも侯玉魁と話したことがあっただろうか!侯玉魁の大弟子は頻繁に頷きながら、話の流れに沿って言った「そうです、師父は生前、私にもいつも言っていました。程二爷は西洋風のスタイルを持っているが彼の戯曲の知識は私たちよりも劣らない。学ぶべきだと!」程凤台は微かに眉をひそめ、遺憾そうにため息をついた。「侯玉魁は私のことを知っていました。私は彼とそして商老板とだけそのような話ができた。侯玉魁が亡くなった今、私には商老板だけが残りました」商细蕊はもう聞いてられなくなり一気に立ち上がった。大弟子は早くから彼らには何かあると気づいていた。深夜の弔いというのも見たことはないし、商细蕊に対してそんなお戯け行動をしているのも真の狙いは別のところにあるのだろうと思った。大弟子は程凤台を後ろの堂に案内し、夜食を用意して商细蕊に同伴を頼んだ。彼らが出て行くと、葬儀会場で数人の役者たちは耳元でささやき始めた。商细蕊は顔をしかめながら入り口に立ち「人はこういうことはしてはいけません!」と言った。程凤台は彼が自分の行動を軽蔑していると思ったのか、座って笑って言った「ああ、商老板は俺たちのことを知られたくないと思っているのかな?」商细蕊は驚いたように一瞬間呆然とし、やっと反応して言った「それは怖いことじゃないよ、彼らには好きに知ってもらえばいいんだ」程凤台は手を振って彼に呼びかけ、商细蕊は彼の膝に引っ張られて座った。二人が寄り添うと、商细蕊の不満もほぼ消え去り、彼は無意識に程凤台の首を抱きかかえて言った「どうしてそんなに嘘をつけるの!たいしたごろつきだこと!」程凤台は無実だといわんばかりに「本当はそんな風に言うつもりはなかったんだよ、彼が侯玉魁が最期に俺のことを口に出したと言ったから、仕方なく受け流したんだ」商细蕊は考えてみてそれもそうかと思い、追及するのをやめ、緑豆糕を一つ手に取って口に入れて食べた。三つ目を食べ終わると、程凤台に大腿から追い出された「見た目は痩せてるのに、なんでこんなに重いの?骨に鉛が詰まってるみたいだな」実のところ彼は軽やかな女性が大腿に座るのに慣れてしまっているのだ。「若要俏,一身孝(白を着ると綺麗にみられる)というじゃないか。商老板、麻袋の服装もなかなか似合ってるよ」商细蕊はふんふんと皿を片付けながら食べた。程凤台は暇を持て余して尋ねた「さっき入ってきた時、四喜儿が俺に媚びた目つきをしてきたよ。今回一緒にいるのは小周子じゃないみたいだけど。小周子が彼に殺されてなきゃいいけど」商细蕊は手を振って言った「ありえない!侯爷爷の葬儀が終わったら、僕が小周子のことをなんとかするよ」口調が急に変わり程凤台に甘く笑いかけ、ちょっと媚びた態度で「二爷、僕の代わりに人を手配できるかなあ?」程凤台は嫌がった。「俺は梨園の人達とは関係がないよ。范涟の方が頼りになるだろう」「じゃあ、范涟に頼もう。とにかく僕は行けない。四喜儿が僕のことを憎んでいるから、僕が小周子をくれといったら本当に小周子を殺しかねないから」「君の人脈を見ろよ!」商细蕊は反論した「僕の人脈はとてもいいよ!四喜儿以外はね!」程凤台は一口お茶を飲んで頷いた。「そうだよ、君はお金まき散らし童子だもん。人気がないわけがないだろう」彼は未払いの借り手についても心を痛めていた。「四喜と関わりたくないんだよ。まるで皮膏薬のような奴だからさ!俺に色仕掛けしようとしてるんじゃないのか?後で自分で范涟と話し合ってくれ」。商细蕊は彼のティーカップを奪い、大口でお茶を飲み頬をふくらませて彼の顔に吹きかけようとした。程凤台は彼が吹き出すのを抑えようとその口を手で覆った。「もういい、約束する。やるから、早く飲み込んでくれ!」商细蕊は、彼の顔に吹きかけることができなかったことを残念に思っているような様子だ。程凤台は彼を見つめ再びため息をつき「最初に君を知ったとき、君はとても上品でおとなしかったよね。女形そのもののようだった。今とは全然違う!」と言った。「今はどうなの?」と商细蕊が尋ねる。「今はまるで猿のお芝居を演じているようなものさ。耳をかきむしったり、上下に跳ね回って、昔のイメージとは別人だよ」と程凤台は彼の顎をつまんで言った。「でも、外ではうまく装っているな。霊堂であんな風に先頭に立って一礼する姿を見ると、りっぱな仕切り役のようだ。本番はどうなるかはわからないけどね」商细蕊は自分が褒められたと感じ、衣装をさっとはたき颯爽と椅子に片足を組んで座った。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*名優侯玉魁の死。ドラマ37,38話では日本軍がらみの辛い別れでした。原作では長年のアヘン服毒による寿命と知る。確認しましたがドラマ葬儀場面では麻袋の衣装ではなく(韓国ドラマではよく見かけるあれですね?)、黒に白い腰ひも姿の商老板でした。麻袋を着ていても二爷には素敵に見えるんですね。もはや猿であろうとなんだろうとかまわない域に達したのかも。]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 55
http://musicbirds.exblog.jp/33218965/
2023-07-03T17:43:00+09:00
2023-07-03T17:43:32+09:00
2023-07-03T17:07:41+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商细蕊の命令により、水云楼の団員たちは俞青と原小荻の噂話を広めることを禁止されていたが、彼らの口を誰が止められようか。そのゴシップはすぐに広まり、やがてスキャンダルとして新聞に掲載され、北平の人々によく知られた秘密となった。しかしゴシップというものは常に真偽不明であり、複数のバージョンが相互に矛盾し、それぞれが合理的に聞こえることもある。記事が掲載されてから数日も経たないうちに、情報通たちの中から俞青と原小荻が清廉であると証言する派が現れた。なぜなら俞青と商细蕊は互いに愛し合っているから。だから俞青が商细蕊を支え、新しい演目を共演し、一緒に舞台をつくるのは当然のことだ。北平に公演に来る役者は、順番から行って宁九郎が創設した琴言社にまず顔を見せるべきだったのに、なぜ水云楼がこの利を手に入れたのか?もしも二人に初めから恋心がなかったとしても、このようにお互いに親密な関係で歌っていたら、やがて本物の愛情に変わるだろう。商细蕊は俞青に対して非常に親しいし、俞青も商细蕊に対して優しい。梨園の仲間たちはこれをよく目撃している。俞青が商细蕊に食べ物を取ってあげることから、商细蕊が俞青に傘を差し出すことまで、曖昧な細部は数え切れないほどある。男女が一緒にいる限り恋愛関係以外に他の情はありえない!最終的に、第三者が前述の二つのゴシップを組み合わせ、原小荻と商细蕊が嫉妬し俞青の心を奪い合うという結論を導き出した。このバージョンは、三人の有名な役者の要素を組み合わせてあって最も盛り上がり、最もドラマチックで、信じる人も最も多いものとなった。それぞれの人物がそれぞれの言い分を持ち、事前と事後の経緯をも納得できるようにまとめられていた。このゴシップの一連の出来事が商细蕊の耳に入った時、商细蕊は反論する言葉もなく、ただ「ばかばかしい」と一言返した。その「ばかばかしい」は水云楼の裏方からゴシップの一般大衆に伝わり、彼らの都合の良いように解釈された。噂というものは当事者が懸命に釈明しようとしても、それは逆に目立ってしまうだけで無視されるものであり、激しい反論は怒りの表れとなり、そのことは商细蕊もよく知っている。他人がどのように彼について話そうと、それは「三人、市虎を成す」、大勢がそう話せばやがて信じられてしまうことであり、彼自身がどう弁明しようと人々には受け入れられないのだ。彼と俞青の噂は最終的に非常に現実味を帯びたものとして広まってしまった。噂が既に広まり、双方の面目も失われてしまったが、程凤台はなぜあえて商细蕊に泣き寝入りをさせるようなことをさせたのか。彼は復讐心のある君子であり、何年たっても報復することを躊躇しない腹黒い性格である。彼はこの噂が誰かが気をきかせて原小荻の耳に届かないようになるのをただ恐れた。そこで、程凤台は食事の席で酌をする女に頼み、わざと三姨奶奶の例の噂を生き生きと描写させた。原小荻はそれを聞き驚愕し机を叩いて立ち上がった。彼は学問を重んじ振る舞いが上品であるが、俞青を心配し面子をも失ったため、今回ばかりは真に怒りを覚えた。程凤台が予想した通り、彼は家に帰るとすぐに三姨奶奶の子供を大奶奶に預けた。後に三姨奶奶は二少爷(2番目の男の子)を出産したが、まだ月日が経たないうちに赤ん坊は二姨奶奶に連れていかれ育てられた。三姨奶奶は泣き叫んだり首を吊ろうと縄まで探したが、原小荻は断固とした態度をたもった。彼は三姨奶奶と結婚したのは子孫を残すためで彼女が若くて体力があるからであり、愛情はほとんどなかったのだ。他の二人の夫人はそれぞれ少爷を手に入れ、三姨奶奶のために取りなしをするどころか、原小荻に彼女に金を渡して離婚するように勧めた。彼女らは将来少爷たちの生母の立場を利用され、何か問題を引き起こすことで家風を損なうことを避けようとした。原小荻は戏子の評判を払拭しようと努力し士人の道を歩むことを望んでおり、下品で陰湿な母親が子供たちの品行を損なうことを恐れ、二人の夫人の提案について真剣に考えた。要するに三姨奶奶は原家で完全に地位を失ったわけである。後日のおまけ話。商细蕊は原三奶奶に美しい顔を引っかかれ、傷口に粉をつけて覆い隠すことを心配し数日間も舞台に出ることができなかった。ある日程凤台が商细蕊を訪ねると、小来が物を捜し回っているのが見え、床には紙切れが一面に散乱していた。商细蕊は地面にしゃがんで一枚一枚を選び拾っていた。程凤台は笑って言った「商老板はお金持ちだねえ。この数日間暇だからお札をカビないようにお日様にでもあてるつもりかい?」彼は商细蕊の隣にしゃがんで彼を見た。実はそれらは商细蕊の昔のものだった。彼と兄や親友との手紙、証明書、預金の明細書、名優たちとの写真、団員仲間たちとの写真、文豪や学者から贈られた書画や詩詞、政府から授与された感謝状などが散乱していた。程凤台が特に驚いたのは、一束の赤い糸で縛られた多数の借用書があったことだ。開けてみると、それは梨园の同僚たちとの間で行われた多額の貸借で、上面には数百という数字が書かれており、借り手の多くは名の知れない人々だった。商细蕊は食事や演劇にはお金を使うが他の面では節約家で、こんな大盤振る舞いをしているとは思いもよらぬことだった。程凤台は借用書を指さし驚いて言った「おやおや、商老板は本当に気前がいいなあ!これらをまとめたら、北平で何軒の庭園が買えるかねえ!それとも高利貸しなのかな?」商细蕊はなんの釈明もせず笑顔で彼を見つめた。程凤台は一枚を手に取った「この人は六百五十元を借りていて、五年が経過している。どのように回収するつもりかい?」商细蕊は首を傾げて言った「この人は二年前に死にました。どうしたら回収できるの?」「家族はいないの?父の借金は子が返すものだ。息子に連絡して返済を求めよう」まさに非情な商人のやり口である。商细蕊は言う「彼は子供を授かる前に死んじゃったよ」 程凤台は彼を一瞥し、別の一枚を取り出した。「では、これはどうなの?この期限は近いね」「期限は近いけれど、人は近くにいないよ。班主は劇団を連れて武漢に行った。それともわざわざ武漢まで彼を探しに行くとでも?」「この借用書、見てごらんよ。なんと二千元だ!」商细蕊は手を叩いてそれを奪い取り、得意そうに言った「おお!この花面(隈取をした荒々しい演技の役)は本当にいい役者だ!彼の『探阴山』は絶対に見るべき!美しくてたまらない!」と言いながら、「包龙图阴山来查看,油流鬼抱打不平吐实言」と歌い始めた。程凤台は咳払いをした。「どうして歌い始めるわけ?俺は芝居について話してたかい?俺はお金のことを話しているんだよ!」商细蕊は共感を得られず歌を止めて腹を立て、借用書を束ね直し、程凤台に見せずに言った「お金、お金、お金ばっかり!お金がなんだって言うのさ!なんて低俗なんだろう!」小来は忙しく動き回り、その時に棚から一つの籐の小箱をおろし、口を挟んだ「彼にお金の話をしないほうがいいわよ!水云楼はもう底なし穴なんだから。役者であろうと部外者であろうと頼まれたら彼は断らないの!そのいい役者なんてどうよ、お金を借りて大麻を吸い娼婦に浪費しまくって、もう歌なんか歌わない…ここ何年かどれだけの詐欺師たちに騙されたか尋ねてみてくれないかしら?彼自身のためにいくら貯めたかとか」小来は商细蕊の経済観念に対して長い間不満を抱いていたに違いない。程凤台の言葉に呼応するほど憤慨していた。程凤台は驚きながらも笑顔で商细蕊を見つめた。しかし商细蕊はもううんざりしていた。「もう言わないで!僕が稼いだお金は僕のもので、どう使おうが僕の勝手だよ!あなたたちには関係ない!」小来は藤の箱を彼の手に押し付け「あなたのことを心配して言ってる人間がどれほどいると思ってるのよ!早くしっかりものの嫁を見つけてあなたを躾けてもらうわ!服従するかどうか見せてもらうから!」小来は背を向けると程凤台はすぐに商细蕊の耳にそっと声をかけた。「聞こえたか?『躾ける』だって!」商细蕊は彼を斜めに見つめ、同じく声をかけ返した。「聞こえたよ!お嫁さん!」まあそういわれても損はしないか!と程凤台は笑いながら商细蕊の後頭部を力強く撫でた。商细蕊が寛大な行動をすることに非難はできない。なぜなら彼なりの原則があるからである。例えば、同じ役者でも貧乏そうにしている者と歌が上手な者では値段が違う。生活のために使うお金と結婚や子育てのために使うお金もまた違う。歌が下手な役者が彼にお金を借り結婚や子供の養育に使おうとしても、せいぜい数十块しか助けない。しかし歌が上手な役者が休むためにお金を求めるなら、彼は親戚でもないのに喜んで養ってあげるのだ。彼は孟尝君風を吹かせているのか、それとも純粋に気前が良いだけなのか、はっきりとは言えない。商细蕊は藤の箱から何かを取り出して見ているので程凤台はようやく思い出して尋ねた。「初めて小来に手伝ってもらって部屋を整理するのを見たけど、何を探しているの?」「新聞に僕の個人写真が載る予定なんだ。僕の顔にいま傷があってどう撮ればいいのか分からないから、彼らに渡す写真を探しているんだ」と商细蕊は答えた。商细蕊はかなり自意識過剰な人物だが写真を撮ることは好きではない。ほとんどの写真は他人との記念写真であり、顔は小さな爪の先ほどしか写っていない。新聞に載せたらさらに見えなくなる。その中で、庭園で盗撮された2枚の写真があった。1枚は小来も写っていて、もう1枚は髪が木の枝で遮られている。さらに下をさぐっていくと、商细蕊と程凤台は一枚の写真に二人してびっくりして固まってしまった。写真の商细蕊は現在よりも少し太っており、髪は短くとても天真爛漫に笑い、静かに少女の蒋梦萍に寄り添って座っている。蒋梦萍も当時、現在よりもぽっちゃりしていたが、優しい卵型の顔で眉目が柔らかく水のように涼し気だ。それは冬で、2人は淡い色の长衫と旗袍を着ており、一切臆することなく笑顔もそっくりで、実の姐弟と言っても信じてしまうほどだ。それはとても幸せそうに見えた。程凤台は商细蕊が残酷にも写真を切り裂くことを恐れ、あわてて写真を引き抜き大声で褒め称えた。「商老板、本当にハンサムだなあ!」商细蕊は真顔で「当然だ」とだけ言った。裏面には「蒋梦萍商细蕊ヘ贈る。民国十八年正月八日、平陽泰和楼にて撮影」と書かれてある。レストランで撮影されたものだ。商细蕊は顔をしかめて写真を再び取り上げた。程凤台と一緒になってからは、この人やこれらのことについて考えることがどんどん少なくなっていったが、関連するものを見ると、内にある心の憎しみが沸きあがってくる。程凤台は商细蕊が指先まで白くなるほどの力を込めて写真を握りつぶそうとしているのを見た。怒りのせいで黒い瞳が特に輝いている。彼の歯ぎしりの音が聞こえるくらい、商细蕊が写真の中の蒋梦萍を引きずり出して飲み込もうとしているようにも思えた。商细蕊は怒りのあまり叫んだ「小来!はさみを持って来て!」しばらくして、小来がはさみを持って入ってきた。彼女はこの写真を見ると商细蕊が何をしようとしているのかを理解した。程凤台も彼が写真を切り刻もうとしていると思っていたが、予想外にも彼は二人の間を容赦なく切り放した。蒋梦萍の部分は地面に落ち、商细蕊は自分の写った半分を小来に手渡した。「取っておいて、もし記者がまた僕を訪ねてきたら、この写真を彼に渡してくれ」商细蕊が話している間に、程凤台は蒋梦萍の写真を拾い上げ塵を吹いてはらった。商细蕊が振り返った時その光景に遭遇し、怒りのあまり眉毛を逆立てた。程凤台は顔色を変えず写真を振り回し、首を振りながら言った「この丸い顔を見てみなよ!商老板と比べてこんなに醜いし!常之新が戻ってきたら、この写真を見せて、お前はどんな眼力だって笑いものにしてやるさ!」と写真を小切手帳にしっかりと挟み込んだ。商细蕊は満足そうに頷いて言った「その通りさ!」そしてそれ以上問い詰めることはなかった。その後、商细蕊は程凤台に自らこの写真の経緯について話し始めた。その年は蒋商姐弟が平阳で人気絶頂の時期であり、仲間たちは泰和楼で烤鴨のご馳走を楽しんでいた。常之新もやってきた。彼は来るなり蒋梦萍と目を合わせて微笑み、こっそり手を繋いだ。水云楼の面々は商细蕊の執念をよく知っているので、それを隠すために一生懸命、商细蕊が疑いを抱かないように気を使った。商细蕊は実際にその場面を見ていたが、特に気にも留めなかった。彼は幼い頃から鈍感で他の人よりも理解力が追い付かなかったため、むしろ喜んでいた。師姐と常三少爷の関係が本当に素晴らしいと感じ、常三少爷が師姐を支えている姿に感動した。師姐が有名になって嬉しい、と思ったのだ。ここまで話すと商细蕊は胸を打ち足を踏みならし、当初気が付かなかったことを後悔し、時間を巻き戻して面饼鸭皮(北京ダックを食べる時に包む春巻きの皮のようなもの)を常之新の顔に投げつけてやりたくなった。「僕は馬鹿だ、本当に僕は馬鹿だった!あの二人が公然といちゃついていたのに、沅兰たちは私が気づかせないように必死に隠したんだ。たくさんの鴨肉を僕に食べさせて!その日は二羽の大きな烤鸭を食べたさ!もう死ぬほど食べたんだよ!」この出来事は確かに馬鹿げていたが、商细蕊は自分の愚かさについて非常に深く理解していたので程凤台もからかうことは気が引けた。彼は同情しながらも黙って商细蕊の肩を叩いた。はたから見ると笑える話かもしれないが、商细蕊はそのことを思い出すとかなり落ち込んでしまった。程凤台は商细蕊を楽しませるために彼に文字を教えることにした。彼の手を握り自分の名前の中の「鳳」の字を書きながら「大きな帆(マント)に包まれている一匹の大きな鳥だよ」と教えた。商细蕊は人を嫌がらせることにかけては天才的で程凤台が鳥の名前を選んでいることをからかい、程凤台に抱き上げられて寝床に連れていかれてくすぐられ、息が切れるほど笑いながら転げ回った。二人は夕方までじゃれて遊び、商细蕊はやっと気分が楽しくなったと感じた。程凤台はおおげさに時計を見ながら、本日のメインイベントに入ったとばかりに「さてさて今日は特別に美味しい場所に商老板を連れて行きましょうか」と言った。商细蕊の目が輝き、すぐに服を着替えた。「どこが特別に美味しいの?四九城でまだ食べていないものがあるの?」程凤台は彼のお腹を触りながら言った。「大きな口は叩くけど!実際お腹はそんな大きいのかね?」「あるさ!」 商细蕊は笑って言った。「あなたは知らないかもしれないけど私たち梨園には女を買ったり賭け事や大量のタバコが嫌いな人がいるのに食べることが嫌いな人はいないんです。どこか美味しいレストランがあったら、三日も経たないうちに誰かが私を招待してくれますから!」程凤台は言った「商老板は人望があるもんね。今日のそのレストランは新メニューを出したんだが、原小荻の誘いなんだ」商细蕊はボタンを留める手を止めて言った。「原小荻が招待してくれるの?」「そう、彼の姨太太に代わって謝罪の言葉を伝えたいそうだ」商细蕊はそれを聞いて怒り出し、行く気がなくなった。程凤台はとっくにそうくることを予想していた。俞青は辱めを受けた後、誰にも話さずに次の日には去ってしまい、二つの公演の報酬も要求しなかった。商细蕊に手紙を残して上海に向かったのだ。商细蕊は彼女と《牡丹亭》や《玉簪记》、京劇の《梅龙镇》や《四郎探母》を一緒に歌う準備をしていたのに、今回全てが水の泡となってしまった。突然良きパートナー、良き友人を失い、商细蕊は恨みを忘れることはない。程凤台は残りの2つのボタンを留めてあげ、笑いながら言った「商老板も世間を渡り歩く人間なんだから、この程度の情は大切にしなくちゃ。ちゃんと考えた方がいいよ」商细蕊はイライラして言った「いいよ!彼には僕と一緒に二つ演目を歌わせて、上手く歌えたら許してあげる」程凤台は商细蕊の額を軽くはじいてからからかった「すごい口ぶりだね。一緒に舞台に上がって芝居をするというより一緒に寝るだろうな。金持ちの悪い爺が若い娘が気に入ってるみたいにさ」商细蕊は彼をにらみつけた。程凤台は笑って続けた「俺は原小荻は君と二つ歌を歌うよりも、二回寝ることを選ぶと思うよ。彼の心情がわからないの?彼を役者と扱うのは彼を侮辱するのと同じだからだよ」商细蕊は眉をひそめて手を振りました。「それなら、なんで彼は僕に謝罪する必要があるの?」「商老板は名優であり、多くの大物と交流しているだろう。そう簡単に恨みをかうことはできないよ。君にひそかに裏をかかれることを心配しているんじゃないの?」程凤台は彼のお尻をポンポンとたたいた「もしかしたら俺の顔を立てているのかも。彼は俺ら二人を知っている... 犬を叩きたかったらまずご主人さまを見てから、っていうじゃない?」「あなたこそが犬だ!下劣な犬だ!」 商细蕊は恨みを込めて言った「原小荻を殺しにいくぞ!」商细蕊はこのような大志を抱きながらも実際にレストランに着いたらおとなしく黙り、すっかりいい子のように振る舞った。ただし顔色はすぐれず、以前原小荻に会った時の恥じらいはなく、顔には怒りの念が漂い「还我俞青(俞青を返せ)!」という四文字が浮かんでいる。程凤台は商细蕊の背中をたたき、耳元で言った「さあ、彼を殺すか?」商细蕊は彼を横目で見て黙っていた。商细蕊の態度に原小荻はもちろん気づいていた。彼はとても熱心に二人をもてなし料理を出した。商细蕊は黙り込み、程凤台が原小荻と世間話をしていた。原小荻はまず杯を上げ、商细蕊に向かって言った「すべてはこの原の管理不行き届きです。自分の面子をも失い、商老板にこんな多大なご迷惑をおかけし、本当に心苦しいかぎりです」商细蕊は冷淡な態度で杯を上げ、冷淡な声で「おお」と答えた。商细蕊は嫌いな人物の前でも臆することなく、頬一杯に大肉をほおばり脂が口からたれるほど食べた。原小荻は程凤台と話している途中でも何度か商细蕊に注意を払い、彼がまだ怒っていることに気づいていた。しかし、怒りを鎮めるためにパンクするまで食べる必要はないだろう。もしかして、自分にお金を浪費させてうっぷん晴らしをしようとしているのかな?やっぱり子供っぽいな!そう思い、笑みを浮かべながらいくつか最も贅沢な山の幸と海の幸の料理を追加し商细蕊はそれらをお腹いっぱい詰め込んだ。原小荻は商细蕊が以前はわざと礼儀や上品さを装っていて、しかも今日の食べっぷりは通常の彼の食欲であるという事はつゆしらずであった。一定の程度まで食べ終えたところで、原小荻は商细蕊が耳が赤くなり、衿のボタンを一つはずして笑みを浮かべているのを見て、今がチャンスとばかり優しく彼に俞青の行方について尋ねた。商细蕊は箸を置き、悲しげな表情を浮かべた。程凤台は原小荻を一瞥し笑みを浮かべ、心の中でひそかに思った。これが彼の今晩の本題だったのか。「俞青は何の連絡もなく姿を消しました。南に行ったのかもしれません。彼女はあなたの家族の暴力によって傷だらけです。無事に到着できるかどうかもわかりません。それに容貌も損なわれてしまい、もしかしたら舞台で歌えなくなるかもしれません」商细蕊は大げさに語り、人を騙すことに本気で取り組んでいた。原小荻は気が遠くなり、しばらく立ち直れなかった。商细蕊は再びこの昔の名優を見つめ直した。もう五十歳になる彼は、顔色がくすんで輝きを失い、暗く疲れ果てていた。社会的な評判によって追い詰められ、前半生の歴史を消し去ることに努力してきたのだ。自らを琴棋書画の愛好家と語るが、実際は汚い金儲け商売に日々勤しんでいる。十年以上も苦労して稼ぎ、やっと少しのお金を手に入れ、儒商の風格を手に入れた。家庭はめちゃくちゃで、跡継ぎ問題で女たちが勝手気ままに争っている。原小荻は上品な仮面を被った大した俗物だ!商细蕊は俞青が彼のどこに惹かれたのか理解できず、彼女は目がくらんだのではないかと思った。彼には昆曲以外の取り柄は何もない。商细蕊は彼の二爷を見つめた。彼は飲食や娼婦、賭博にのめり込んだ俗物であり、彼が女性や金、快楽を好むことを誰もが知っているが、今までそれをひとつも隠すことはなかった。彼のあくどさがあからさまなだけに、かえって愛らしく映るのだ。商细蕊は自分の目が確かであることを感じ、喜びの中で原小荻に追い討ちをかけた。「俞青は孤独で傷つき、もう生きていけないでしょう」原小荻は呆然と商细蕊を見つめ、目をそらし、実際に涙をこぼした。程凤台は非常に気まずくなり、わずかに慰めの言葉をかけたが、この非婚関係については深くほりさげることはできなかった。商细蕊は興味津々で、奇妙な表情を浮かべながら原小荻をじっと見つめ続けた。彼は大のおとなの男が公の場で涙を流すことがどれほど恥ずかしいことで、抑えられない感情であるかを理解できないだろう。程凤台は急いで商细蕊の腕をつかみ、彼を連れて急いで別れを告げ立ち去った。原小荻は悲しみに満ちたまま彼らを引き留める余裕もなかった。外に出ると、程凤台は商细蕊の鼻をつまんで言った「商老板、この悪いやつめ、本当に原小荻を泣かせちゃったじゃないか」商细蕊はため息をついた「彼は本当に僕を窮地に追いこんだんだから!今さら泣いて何の意味がある?もっと早く何とかすればよかった!」そして喜んで言った「僕は俞青のために復讐してやったぞ!」「原小荻は俞青にまだ愛情を抱いているようだね」「じゃあなんで彼は彼女と結婚しないの?」程凤台は迫られたような複雑な状況の説明をしようとしたが、商细蕊は手を振って彼を止めた。「結婚できないなら何も言わないでいいよ。原小荻は肠子腥(常之新)より責任感がない!」二人は車に乗り込み、程凤台は無意識に商细蕊の手を握り彼が風邪をひいていないか確認しながら言った「俺だって君を家に入れることはできるよね?」商细蕊は意味が分からず言った「なんでいつも僕達を他の男女と比較するの?僕は女ではないし、ただ毎日あなたと遊んでいるだけで十分だよ。男女の関係は結婚しなければならないものであり、一緒にいるなら早く巣作りして、次の世代の卵(蛋)を産まなくちゃ!」程凤台は商细蕊の比喩に笑って彼の顔を軽く叩いた「ひどいなあ!君は誰が産み落とした小王八蛋(可愛いおバカさん)かな?」商细蕊は褒められたような気持ちになり、頭を揺らして喜んだ。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*見事に復讐をはたした二人、お見事でした。程凤台はほんと、商老板のご機嫌を取ることにかけては世界一!そしてご機嫌を損ねないようにふるまうのも実にお上手。「鳳」の字、いわれてみると暖かく大きく包み込む帆にくるまれる羽ばたく鳥、これは二人の関係性にも似ていますね。そして過去水运楼のメンバーが商老板を見事に食べ物でつって蒋梦萍と常之新への目線をそらしたのも作戦成功。つまりが商老板は単純でわかりやすい性格。子供だましが効くという事を周りみんなが知っている。*借金について気前が良すぎる商老板。たとえられた「孟尝君」とは戦国時代後期(紀元前221年)の斉州の高官で、富があり3千人の子供を支え養父になったとの事。どんだけ世話するねん!というたとえ話のようです。]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 54
http://musicbirds.exblog.jp/33171672/
2023-06-15T15:04:00+09:00
2023-06-16T10:34:58+09:00
2023-06-14T17:38:40+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商细蕊はゆっくりと話し柔和な雰囲気を漂わせているが、動作の効率は驚くほどいい。しかし程凤台と一緒にいるようになってからは全体的に緩慢になってしまった。もともと彼は舞台裏の監督業務に積極的ではなかったが、今ではますます三日坊主で自分が好きな舞台だけを監督している。幸いなことに『怜香伴』に必要な役者は多くはなく、もう全員揃っており、俞青はすでに眉を描いている。程凤台が通例通り舞台裏でしばらく座っていると、彼らの舞台のセットが特別であることに気付く。衣装や髪飾りは古代の絵画を模しユニークで写実的であり、通常の演劇の時とは異なり、まばゆい華麗な衣装ではない。商细蕊は素早く化粧をほどこし自慢げに箱から一着の衣装を取り出して程凤台に見せた。その深紅の乔其纱(ジョーゼット)は金糸が織り交ぜられており、おそらく光が当たるとまるで太陽が波紋を描くかのように輝き、見事な光景となることだろう。程凤台は繊維工場を経営しているので高級品は見慣れているが、この衣装には大いに驚かされた。もう一つは湖の青色の同じデザインの衣装で、銀糸が織り混ぜられている。この二つの衣装はセットであり、劇中の鴛鴦のカップルが着用するのだ。「これはかなり高価だね」程凤台は首を振って嘆息した。「この衣装はどこで作ったものなの?教えを乞いに行きたいね」俞青は笑って言った。「これは七公子がフランスから持ち帰った生地で、仕立屋に頼んで作ったものよ。程二爷は見なかったかしら?不満に思って七公子はその場でハサミで切り裂いてしまったのよ。たくさんのものが台無しになったわ!私は彼らの水云楼はあまりにも贅沢だと言いたいわ。こんなに手間暇かけて作られた衣装は、この演目以外では使われないでしょう」商细蕊は衣装をソファに広げて楽しんでいた。「この一芝居のためだけでも価値がある。いやたとえ一回しか歌わなくても価値がある」と。舞台に上がるものは美しくなければならない。代価を惜しまない美しさ、目を奪う美しさ、じっくり鑑賞することができる美しさが必要である。商细蕊と杜七はこの観点に置いて非常に一致している。商细蕊は有名役者でありお金は簡単に手に入り、さらに杜七は先祖代々の財産家出身であり、二人ともこのためにお金を使うことはいとわなかった。ただし商细蕊がこの言葉が現実になることを知っていたら、後悔したであろう。『怜香伴』は優雅な芝居なので通常よりもチケット価格が高い。しかし、商细蕊の名前を掲げているだけで、満員にならない公演はない。ましてや俞青がサポートしているのだ。以前は大声で喝采を贈っていた労働者たちは今日はもちろん来ない。座席には見知らぬ上品そうな人々が静かに座り、ささやき声が聞こえる。程凤台が包厢に座って間もなく、大幕がゆっくりとあがった。程凤台はこの公演に合わせて、幕布が特別にシフォン素材に変わり、照明も温かみのある暖色系で、舞台全体が優雅で心地よい雰囲気だと気づいた。商细蕊は今回再び旦角を演じるが、相手役は女性だ。いつものように背筋を伸ばして歌うことはできない。二人の女性が一緒に舞台に立つのに身長差がありすぎて奇妙になる。彼はとっくに対策を考えていた。水滸伝の丑角のように衣装の中で膝を微かに曲げ、優雅に歩きながらスカートを揺らし、それがまったく分からないようにするのだ。新聞がこぞって商细蕊と俞青のスキャンダルをでっち上げるのも不思議ではない。彼らは一世一代の美男美女であり、商细蕊は花旦、俞青は青衣として共に舞台に立ち、まさに世に求められる美しい人間の組み合わせだ。商细蕊の麗しい美しさ、そして俞青の清雅さ高潔さが互いに映え、互いを引き立てる。彼らはまるで一対の女性のように演じられる。恋人というわけではなく、美の対象としての対をなし、二面に咲く花のような組み合わせなのだ。それに比べて、巾生(書生役)は余計に下品に感じられる。二人の魅力と比較されると、ただの小道具のように見えてしまう。程凤台は眺めているうちに、上海において隣人で幼馴染である赵元贞を思い出した。彼女も同様に怜香を彷彿とさせる兆候があったように思えた。商细蕊を知る前は、それは家で寂しさからただ遊んでいただけだと思っていたが、商细蕊と知り合ってから、再度思い返さずにはいられなかった。舞台が終わると、杜七が自ら花束を持って上がり、商细蕊は俞青に持つように促した。一群の人々が集まり、写真を撮ったりカーテンコールに答えたりし、しばらく賑やかになったのちお開きとなった。程凤台は劇を見に来た友人に出会い、少し話をしてからゆっくりと舞台裏に向かった。楽屋では、数人の役者たちが噂話をしていた。二人の女学生が劇を見ている間ずっと手を握り合っていて、さらにいえば二人は指先を絡めていたと。おそらく恋人同士が共感を求めて見に来たのだろう。商细蕊は彼が歌っている間は舞台下をあまり気にしないし、おまけに照明が暗かったため何も見ていなかったと言った。崔笺云と曹语花が天地に礼をするシーンでは、舞台下でこの二人は深く視線を交わしていたそうだ。俞青も話に加わったが、彼女もよく見えておらず思い出せなかった。商细蕊は程凤台に会うと軽く微笑んだ。程凤台は機を逃さず彼のそばにそっと立った。商细蕊は彼に向かって鼻をしわくちゃにし、程凤台は彼の手首を握った。この時、杜七がたばこを吸いながらさりげなく「えっと、あの二人の娘たちのことだけど、僕は会ったよ。なんで僕に聞かないんだ?」というと、みんなが一斉に彼に、それはどこの娘か、美しかったかどうかを尋ねた。男性の花旦が旦那連れという事はよくあるが、夫婦同然の二人の娘は本当に珍しい。彼らの話はエスカレートしていき次第に女性たちの床寝の方法について議論し始めた。男優たちは普段からこのことに興味を持っており、何人かの女優を連れていった深窓の令嬢やお金持ちの太太はいったいどうだったんだと尋ねた。水云楼の女優たちはどんなに大胆でもこう聞かれたら赤面しながらこう言い返した。「ああ、もう黙って頂戴!まずあなた達男だって男同志のあれで気持ちよかったことがあるの?」杜七は低俗な文人で、下世話な話程楽しくなり、彼はタバコをくわえて大笑い。俞青は咎めるように笑みを浮かべつつ口をつぐみ涼しげに一杯のお茶を吹いて飲んでいる。商细蕊はここ数年淫らな状態にあるが、まだこのような話題に慣れておらず、どう止めてよいやらわからない。ただ「おやみんな!何の話をしてるの!もう十分でしょう!」と言った。ここは楽しい賑やかさであふれていたが、その時顧マネージャーは、美しい装飾品を身につけた細面で大きな目の旗袍を着た女性を案内しているところだった。彼女には二人の女中がつきそい、左右で彼女を支えている。芝居を聞いてもまだ満足しないで、舞台裏に来て褒美をあげたい豪華なお客のように思えた。「商老板、 俞老板、お二人ともお疲れさまです!こちらは原小荻の三姨奶奶(三番目の奥様)です。」俞青は原小荻という名前を聞いた瞬間、顔がこわばりじっと三姨奶奶を見つめた後すぐに目をそらした。彼女は口紅を拭き取りながらお茶を飲み衣装も着たままだったが、逆にこれは装う効果があるように感じられた。ただ心が慌てふためき自己嫌悪感を抱き、説明できない不快感があった。商细蕊と程凤台は内情を知っており、俞青にこっそりと目線を送った。商细蕊は自分勝手に良い方向に考え「彼らはただ舞台を称えに来たに違いない。ちょっと適当に言葉をかけて追い払えばいい」と心の中で思い一歩前に出て話しかけようとした。しかし三姨奶奶は楽屋を一周し、視線が俞青に向けられてまず一言口を開いた。「俞青、あなたが俞老板かしら?」俞青は名前を呼ばれたので困惑したまま立ち上がり微笑んで言った「三奶奶...」三姨奶奶は手を上げて彼女を指差した。「殴ってやれ!」二人の女中の一人が突進し、袖を上げて彼女を地面に叩きつけ、一人が彼女の体に馬乗りになり、衣装を引き裂き平手打ちをした。もう一人は他の人が邪魔をしないように立ちふさがった。狼と虎のような恐ろしい二人の前で、俞青は何も反撃ができず弱い柳のようにもろく、痛みと恐怖で何度も叫び声をあげた。水雲楼の団員たちはすぐに駆け寄って止めに入ろうとした。先頭に立った小来は女中の一人にお腹を蹴られ、痛みで顔が青白くなった。 三姨奶奶は小来を押しのけ、腰をかがめて立ち止まり大声で言い放った。「誰か私に触れる勇気があるかしら?私はお腹に大切なものを抱えているのよ!」この状況に劇団員たちもびびってしまった。彼らは手を出していいか確信が持てず、もし手を出してしまったら妊婦に怪我をさせる可能性も考えると、どうしてよいのやらわからない。彼らは冷静になり、俞青の命を危険にさらすことはできないので、ただ顧経理に人を呼ぶように指示した。顧経理は状況を見て、劇団員たちと同じ考えを抱いていた。彼は返事をしただけでその機会を利用して逃げ出した。三姨奶奶は俞青を指差し、歯を食いしばりながら怒鳴った「年末年始になんでうちの門前で泣き叫ぶの?ごりっぱな家柄が呆れるわ!知識階級の家柄でこんな男を誘惑する妖狐とはね!趙将軍に遊ばれて捨てられた残り物じゃない!よくも他人の男を誘惑する度胸があるもんだわね!そりゃあ父親は姓を使わせないはずよ!こんな恥ずかしい事を!他の人ならすぐにでも命を絶つだろうに、なんであんたは恥知らずなの?」二人の女中は殴りながら、汚い罵り言葉を浴びせ続けた。誰もがこんな凶悍な妊婦を見たことがない。杜七と程凤台は到底認めないが、結局手を出すことはできず、ただ左右に手を振り回して引っ張り合うしかなく、二人の手は三姨奶奶によって叩かれ、数本の爪痕ができてしまった。商细蕊は我慢できず怒りで震えながら突進した。程凤台が彼を引き止めた。「彼女のお腹には赤ん坊がいるんだ!殴っちゃだめだ!」商细蕊は彼を振り払い三姨奶奶に近づき、彼女をしっかりと抱きかかえると数歩離れたところまで動かした。三姨奶奶はこの侮辱に驚いて叫び、手足を両方使って彼を殴り蹴りした。商细蕊はいくつかの蹴りを受け、振り返って怒って叫んだ。「早く助けてあげて!」皆が一斉に手を伸ばして人々を引き離しにかかった。俞青の舞台衣装は引き裂かれ、全身が震えていた。顔は傷だらけ、唇には血が滲み、小来に支えられて座り込み息も絶え絶えだ。彼女は目を閉じ涙が滝のようにあふれた。小来はハンカチを取り出して彼女の顔を拭いたがハンカチは一瞬で涙でびしょ濡れになった。杜七はこの様子を見て心底腹が立った。彼はいつも人をやり込める側で、いじめられる側ではない。これらの役者たちは彼の親しく愛しい人々である。役者たちを侮辱することは彼自身を侮辱することでもある。彼は罵声を上げながら、足で二人の女中を床に蹴り倒し、大きな平手打ちを浴びせた。「原小荻に伝えてやれ!この杜七がお前らの二人の女中どもをぶん殴ったってな!こいつの腹ん中に赤ん坊がいなければ一緒に殴ってるところだ!あいつが一体どんな真っ当な人間かっていうんだ、彼自身に聞いてみろ!ただ身を売って芸を売る戏子さ!金をためて足を洗ったらもう自分は戏子ではないとでも思っているのか!明日、僕は人を連れて胡同の入り口であいつを待ってやる!」杜七は冷酷に手を出し、まもなくこの二人の顔に傷を負わせたが、彼女らは杜七には手を出さず、ただ不平を言うにとどまった。その時、ドアの外で物音を聞いていた顧マネージャーが人を連れて入ってきて2人の女中を引きずりだし、双方の名士の面目を失うことを恐れて、警察には届けずに穏便に済ませた。商細蕊はまだ三姨奶奶を抱きかかえていたが、程凤台が前に出て商細蕊の肩をたたいた。「もういいよ、離しても。君は抱き癖がついちまったのか?」商細蕊が少し力を緩めると、三姨奶奶は彼の顔に平手打ちをくらわせた。女性は爪が長く、彼の顔に数本の引っ搔き傷がついた。程凤台は怒りの形相でとっさに三姨奶奶の手首を掴んで後ろ手に捻った。商細蕊は自分の顔に触れ、手のひらに残った数本の血痕を見、役者がどれだけ顔を大事にしているかを思い知らされ、悔しさで歯を食いしばった。三姨奶奶は手首が痛くてたまらず「商細蕊!自分で始末するわ!このことは水运楼とは関係ない!あなたは余計なことに口出ししないで!」と言った。商細蕊は妊婦に対して慈悲深い心は持っていなかった。この時は本当に平手打ちを返してやりたかったが、何とかおしとどまり重い口調で言った。「水运楼とは関係ないと言うなら、なぜあなたは水运楼の楽屋で騒ぎを起こすんですか?俞老板は私が招いた客です!楽屋を一歩でたならあなた達のことはどうでもいい、でもここではだめだ!」この言葉は理にかなっていたので、三姨奶奶は重く荒い息を数回ついて声を荒げることはもうしなかった。程凤台は彼女を振り払い、顔の片側が真っ赤になり三本の血痕がついた商細蕊の顔を見て心を痛めた。憎しみを感じながら、幽かに嫌悪の念を込めて言った。「三姨奶奶、このへんでやめておきましょう。早く帰りなさい!最も風雅であるあなたの夫の性格を知っていますよね。このような醜いごたごたには耐えられないでしょう。後のちあなたの振る舞いがひどいと思われたら、面子を損ねることになりますよ。彼が怒ったら、あなたの息子を他の人に育てさせるかもしれないですしね」三姨奶奶は程凤台をよく知っていた。彼女の息子が一歳の誕生日を迎えた時、程凤台が自ら贈り物を持ってきてくれたことを覚えている。彼はとても影響力のある商人だ。今日の騒ぎは、原小荻は明らかに知らない事であり、彼女は大奶奶の密かな指示で行動を起こした。彼女は唯一の息子がいることを手玉に取り、好き放題、何も恐れてはいなかった。しかし程凤台の言葉を聞いて、三姨奶奶は少々不安になった。何となくだが、これはすべて大奶奶が自分を追い出す陰謀なのかもしれないと感じた。口では厳しく俞青にこれ以上誘惑しないよう警告した後、彼女は撤退する準備をした。杜七は彼女がまだ高慢ぶっていることに気付き、彼女に向かって手を上げて襲いかかろうとしたが、三姨奶奶はまた叩かれることを恐れ、そそくさと去っていった。水运楼の女優たちはこの時気が大きくなり興奮していた。後を追いかけ、彼女の後ろ姿を指差して罵倒した。「あんたはたかが原小荻の三番目の妾でしょ!妾になったからって、えらそうに、自分が何者かお忘れ?あんたのような悪女だからこそ男が誘惑できるの。自分の顔をよく鏡に映してみてみなさいよ、自分がどういう女かわかるからね!天橋で芝居をする馬鹿女!半日唱って五毛だなんて娼婦と同じ値段だ!人に触られておっぱい撫でられて尻をたたかれる商品さ!今日劇場に初めて入ったんじゃないかしら?ねぇ、三奶奶、行かないでよ!せっかくだからちゃんと見学していったらどうなの!」この騒ぎで、通行人たちは三姨奶奶に注目し、水运楼のメンバーは愉快な気分になった。商細蕊は以前の態度とは正反対に、手を打ちながら賞賛した。「いいぞ!いいぞ!そうやって罵ってやれ!」しかし、俞青は彼らと一緒にうさ晴らしする気分ではなかった。彼女は詩書を読み規律を守って十八歳まで生きてきた。原小荻を追って芝居を演じることになったが、彼女は戯曲界の負の部分をも我慢してきた。赵将軍にせまられても彼女は少しも動揺しなかったし、今でも清廉な身を守っている。真の学び手、真の淑女は、このような公然での侮辱に耐えることはできず、まるで生きる心を奪われてしまったかのようだ。俞青は顔を覆って更衣室に入り、私が彼に結婚を迫ったわけじゃない、北平に来たのは彼を見たいがためで、何も非常識なことはしていないのに…と心の中でつぶやいた。小来は心配そうに彼女の後をついて入っていき、しばらく出てこなかった。劇団員たちは次第に散っていき、杜七も長居したので別れを告げることにした。彼は悲哀を込めて商细蕊に俞青をしっかり慰めるようにと念を押し、必ず家まで送り届けるようにと言った。商细蕊は口では返事をしつつも、振り返ると衣装を抱えてため息をつき、今にも泣き出しそうで、俞青の事はあまり心配していないようである。程凤台は商细蕊のお尻を軽く蹴り「商老板、そんな無慈悲な態度はおやめ。俞老板が出てきたら、そのボロの衣装を前に悲しそうな顔をするなよ」商细蕊はそれを聞いて怒り「なぜこれらの衣装がボロだなんて言われなきゃいけないの!」しかし、確かに今はボロボロになっていた。「最初はきれいだったのに!」確かにこの出来事は人を爆発させることができるかもしれないが、彼は俞青がどれほど悲しんでいるのか理解することができず、杜七が彼女のために報復しただけで十分だと思っている。もしまだ満足できないなら、月明かりのない風のない日に、原家の玄関に大きな糞を二桶かけてやり、二度と関わらないようにすればいいと考えている。「本当に原小荻の目は節穴だよ。どうしてあんな女を娶ってしまったのか」と商细蕊は殴られた部分に触れた。「僕だって彼女を殴りたいくらいだ!二爷、早くここやさしく揉んでよ!」程凤台は商细蕊の少し青あざになっている肩と腕を揉みながら言った「原小荻は望みは高いが運は薄いよ!この出自では、知識と理性のある上等な娘が彼に嫁ぐわけがない」商细蕊は尋ねた。「俞青もそうではないの?」程凤台は声を潜めて言った「彼の三人の妻は一人もよくない。今日の女を見ただろう?気が強いし口は悪いし、どうしてもう一人、家に入れることができるんだ?もう地獄だよ!」程凤台は、彼に男女の結婚の複雑さを説明することなど到底面倒くさくてする気はなかった。程凤台は一心に彼の痛みを和らげようと揉んでいたが、痩せているため強く押さえすぎて逆に痛くて商細蕊は騒ぎ立てた。一方、小来が俞青を支えながら部屋から出てきた時、彼らがソファでじゃれあっており、小来は非常に腹を立て白目でにらんだ。二人は俞青を見ると、すぐにじゃれあいをやめ彼女を家に送り届けることにした。程凤台は俞青が気まずさを感じないようにと現場で老葛に休みを取らせ、自ら車を運転した。俞青は道中、ただ目を閉じて小来の肩に寄りかかって黙っていた。彼女は話をせず、程凤台と商细蕊も適当なことを言うことはできなかった。到着すると、俞青は車から降りて家の玄関口に立ち、商细蕊に悲しげな微笑みを浮かべた。商细蕊は口から出たまま言った「悲しまないで、僕たちは原小荻を懲らしめる方法を考えるよ」俞青は首を振りながら少し明るい笑顔で言った「私は原小荻のために舞台に上がったの。でも原小荻がいなくても、私はやはり俞青よ」商细蕊は俞青の言葉の中に込められた意味を一瞬理解できず、答えることができなかった。しかし、数歩離れた程凤台はそれを耳にし、ますます俞青を尊敬し非常に稀有な存在だと感じた。芝居の世界で役者は卑しい職業と言われており、特に旦角儿は身を売らないと頭角を現すことは難しい。多くの役者は良いパトロンを見つけることを最優先とし、演技の良し悪しはただ値段をつけるためのものだ。しかし、俞青は本当に芝居を楽しむために舞台に立っており、演劇を自身のキャリアとしている清らかな存在である。そんな彼女を見過ごすことはできない。俞青は商细蕊の顔にある引っかき傷をじっと見つめながら、突然優しく商细蕊を抱きしめた。彼女は顔を横に向け、頬を彼の首に寄せ、非常に愛おしそうに別れを惜しんでいるかのようだ。商细蕊は興奮しすぎた女性ファンに無理矢理抱きつかれることはよくあったが、このようなちゃんとした抱擁は初めてだった。彼は一瞬困惑したが、俞青の背中を大切に支えるように抱きしめた。彼は俞青がいつのまにこんな洋風の習慣を持つようになったのか不思議に思った。俞青はゆっくりと言った。「商老板、『潜龙记』は本当に素晴らしいし『怜香伴』もとても素敵よ。私はあなたと一緒に舞台に立つことが本当に好きなの」商细蕊も言った「僕もだよ」彼らは心にやましさがなかったため、通りを行き交う人々の目を避ける必要もなかった。程凤台と小来は二人を見つめながら、心からの平穏を感じた。俞青が家に入った後、程凤台は車を運転して商细蕊を南锣鼓巷に送り届け、からかいながら言った。「商老板、女の子を抱く感触はどうだったかい?」商细蕊は彼に向かってふんと鼻で笑って言った「あなたには関係ないよ!」商细蕊も思いもよらなかったが、今日の別れの後、俞青に再び会うのは数年後となるのだった。*緑部分はWEB版のみ
しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*修羅場です( ゚Д゚)。ドラマでは一人乗り込んできた原小荻(妻少なくとも3人もいたか!)奥様ですが、原作では凶暴な女中2人従えてた!*巾生とは昆曲においては官職に就かず冠を被っていない風流な書生の役割。彼らは方巾を被り、必ず正巾である必要があり、そのため、巾生と呼ばれているそうです。*《怜香伴》という作品ですが、以前過去の章で程凤台がこんな画期的な話があったのか、と驚いた場面がありましたね。LGBT問題、同性婚の合法性がニュースになる中、古典でこのような話がすでにあったとは時代の先を行ってましたね。もう一度ここでお話をおさらい。李魚(明朝)原作の女性の同性愛を描く昆曲。扬州の書生范介夫の妻である崔笺云は、新婚1ヶ月目に雨花庵に香を焚きに行った際、2歳年下の地方の令嬢である曹语花と出会う。崔笺云は曹语花に惹かれ、曹语花は崔笺云の詩才を愛で二人はお互いに終生を誓う。崔笺云と曹语花は数々の試練を経験し、最終的に妻妾の区別なく范氏夫人として封じられる、というお話。見目麗しい二人、商老板と俞青の《怜香伴》、見てみたいですね!(たしかにこの話、悪いけど夫はオマケ)]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 53
http://musicbirds.exblog.jp/33116527/
2023-05-29T15:42:00+09:00
2023-05-31T09:46:48+09:00
2023-05-29T14:10:08+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
二人は午後までベッドでたわむれ、その後ベッドに座って食事をした。商細蕊は自分が汗でべとべとなのを嫌って、劇場に行く前にシャワーを浴びる必要があると言った。今晩は昆曲『怜香伴』を俞青と一緒に歌う予定で、商細蕊と杜七が古書を参考にしてアレンジした衣装や面、アクセサリーに至るまですべてに心血を注いで美しく仕上げたので、清らかな状態でいどまなければならない。二人は談笑しながら、車で小公館に向かった。踊り子の女性は昨夜范涟と一緒に過ごしたのでまだ起きたばかりで、巻き髪をふんわりとさせて、階下でコーヒーやお菓子を食べていた。レコードプレーヤーでは、上海滩のジャズ歌手のレコードがかかっていた。商細蕊に年始に追い出されて以来、彼女は程凤台にすら会っていなかったため、車のクラクションに全く気づかなかった。赵妈がドアを開け、商細蕊は両手を後ろで組み、左右をきょろきょろ見回し入ってきた。彼女は驚いてコーヒーにむせそうになった。「あら!少爷、いらしたのね!こんばんは」と客引きするような声で迎えた。商細蕊は目を悠然と彼女に向けて「ああ」と答えた。そしてテーブルの上に置かれたケーキやお菓子に目が釘付けになった。彼女は彼を座らせ食べ物を出すように促し、商細蕊は恩着せがましく着席し、彼ら二人のために赵妈に二つのカップと皿を用意してもらった。商細蕊は、牛乳を全部そそぎ入れて、少なくとも5個の角砂糖を混ぜ込んだ後、コーヒーポットの蓋を開け小さな銀のスプーンでコーヒーを二杯入れ、甘い牛乳にコーヒーの香りをつけた。コーヒーの苦みを消すためだ。踊り子も地元民ではないので新鮮な目でそれを見て思わず笑い「少爷、これは老北平の飲み方なのかしら?」といった。商细蕊は彼女に好感を持っておらず、白目で彼女を見るだけで何も言わなかった。程凤台は笑って言った「よし、君、他に用事がなければ……」彼女は口を挟んで「わかってるわかってる、用事がなんかないわ、外に散歩に行くわ」と腰を振って階段を上り、服を着替えてメイクをすることにした。程凤台は商细蕊と一緒にお菓子を食べ、食事にも付き合った。とはいえ商细蕊は食べる専門、彼はそれを見る専門。さっき食事をしたばかりで、今はブラックコーヒーで少しはつきあえるが、もう一度食べ物を取ると口に入らない。商细蕊は大きなケーキを切って一口一口嬉しそうに食べた。程凤台が尋ねた「商老板、君は1日にどのくらい食べれば十分なの?」「状況によるけど、食べ物があったら食べるし、お腹が空いたら食べるし。わからないな」彼はほぼ一食分の量をまた食べた後、食べるのにも疲れたのか、口を拭いて椅子の背もたれに寄りかかった。女性もやっと化粧が完了。旗袍、コート、ストッキング、ハイヒールを身に着けている。斜めにモダンな帽子をかぶり、紫色のベールが垂れ下がり左半分の顔を覆っている。ダイヤモンドの宝飾を身につけ、輝くばかりの装いだ。彼女は丁寧に彼らに別れを告げたが、商細蕊は彼女を一瞥し、彼女の手につけている一つのダイヤモンドの指輪を凝視した。女というのは美しさへの羨望か、装飾品への羨望かにかかわらず嫉妬深い視線に対して本能的に敏感である。彼女は思う、ケーキやお菓子は譲ることができるが、宝石は絶対に手放せない。もしあの兎野郎が地団太を踏んで指輪を欲しがったら程凤台がどんなことをおこすか分からないわ。本来、それは程凤台が買ってくれたものだから、無理やり外さなければならなくなるかしら?ダンサーの女は急に不安を感じ、まじめな妻が不貞を働いたような気分になりそそくさとその場を去った。程凤台も商细蕊の考えを見抜いていた。彼は夫人や令嬢ではないし、宝石に興味を持ったことはないので驚いて尋ねた。「どうしたの?ああいうの好きなの?」商细蕊は視線を戻し「ああいった一つの宝石で、劇場全体を眩ませることができるかなあ?」といった。それを演劇の小道具として見ていたのだ。程凤台は笑って言った。「あの宝石の品質はいまいちだが、今ではなかなか見かけないものだ。世の中物騒だから女性は身に着けないで隠しているもんだ」商细蕊は頷く。「あなたの姉さんがもっと輝くものをしてたのを見たことがあるけど、一、二回しか身につけたことはなかったです」程凤台は考えてみた。「それは青い光を放つダイヤモンドの指輪のことかな?」商細蕊はそうだといった。「あの指輪は非常に由緒あるものなんだ。聞くところによるとそれはロシアの皇后への愛のしるしで、職人はその作品を完成させた後射殺されたとか。つまりその品が世界に類を見ないものであることを確実にするためにね。後に皇帝一家が滅ぼされ、一部の宝石が散り散りとなってしまった。私の義兄は一連隊の装備と引き換えにロシア兵からそれらを手に入れたんだ」ちょっとインターバルをあけて「そう言えば、死人から剥ぎ取ったものは、なかなか不吉なものだよね」商细蕊は気にしなかった。「なんでそんなに神経質なの!僕はその指輪が目を引くしとても美しいと思うよ。」程凤台は彼の態度を見て、軽く笑みを浮かべ内心楽しい決断をした。彼を階上に連れて行き、熱いお風呂に浸けた。商细蕊にとって、西洋人が作ったものは奇抜で、どう見ても使い慣れないものだったが、チョコレートケーキとこの家はとても気に入っていた。洋式の家では洗面所が一番いいところで、絶え間なくお湯は出るし、トイレを流すだけでも爽快感があった。毎日お湯を沸かしたり水を待ったりする手間が省けて、商细蕊のような気まぐれな人間にはぴったりだった。お風呂を出て裸のままマットレスのベッドに倒れこみ、ころころ回転して、子供の頃のように芝居を逃げてしまいたくなるくらいだ。程凤台はベッドの端に座り、商细蕊のお尻をポンポンと叩いた。「商老板、ここは気に入った?」商细蕊は楽しそうに「とてもいいね!」といった。「じゃあここに引っ越して住むっていうのは?」「だめです。」「どうしてだめなのさ?」「ベッドが柔らかすぎて、腰と背中が痛くなるんだ。長く寝ていると『鷂子翻身』ができなくなるよ。たまに寝る分にはいいけどね」「“鷂子翻身”って何だい?」実際に商细蕊が演じたのを確かに見ていたが、素人にとっては用語や演目が永遠にピンとこないものだ。商细蕊は常に他人に教えることは得意ではなく、真剣な口調で彼を騙すことにした。「鷂子は一種の鳥(猛禽類の一種)。“鷂子翻身”は、鷂子がひっくり返って‘啾(ちゅん)'と鳴くことだよ」そういうと彼は身振りも合わせて、仰向けになって自分の股間からその鳥さえ見せた。彼はすっきりと洗い上げられ、フランス石鹸のジャスミンの香りが漂っていて、肌は白く美しく、ベッドに横たわっている姿は花のようにキャンディのように美しく甘い。すべてが整った清潔なものを見たら気持ちがむずがゆく口が渇く。程凤台は商细蕊に比べ十分ではないように感じられた。彼は商細蕊の額からキスを始め、鼻先、唇、あご、首に至るまで下に向かってキスを続け、胸の乳首を吸いしゃぶった。商细蕊は気持ちよく目を細め、程凤台のゆるんだバスローブの中に手を入れ、彼の裸の胸を触り背中に腕を回した。程凤台はベッドに乗り上げ、商细蕊のお腹までキスをした。商细蕊は耐えきれず膝を曲げて笑い、彼の足の間のものは少しずつ持ち上がってきた。程凤台は少し弄んでから冗談めかして言った「ほら、これがまさしく“鷂子翻身”だ。」商细蕊は彼の唇が離れるのを惜しむように腰を上に押し上げた。程凤台は一瞬の衝動に駆られ、商细蕊の“鷂子”を口に含んだ。商细蕊は突然下の方が湿って熱くなったので身を起こして見て驚いた。他の人たちがいかに彼を愛でようとも、ベッドの上でここまでのことをしてくれた人はいなかった。体の喜びは、この時心の感動に勝るものだった。程凤台は数人の女と経験があり、彼女たちに金をかけることには手を抜かなかったが、ベッドの上では常に人に仕えさせる大爷であり、一人に対してもこれをしたことはなかった。自分自身でもかなり衝撃的だと感じた後、情婦たちの手法を学び、不慣れながらも商细蕊に奉仕した。商细蕊はその快感に夢中になり、恍惚と喘ぎ声をあげ、喜びのあまり泣きそうになりながら両脚をそっとけった。程凤台の唇は硬いそのものに擦られて痺れてしまい、のどの奥まで迫ってきた時、吐きそうになった。思ってもみなかったが、この小さなものは本気になるとかなり持久力があり、大きさや硬さも男として十分だった。常に男たちと付き合ってきた中で、自分の手に落ちたのは幸いだった。もし彼が戯子たちの手にかかっていたら、きっと手放すことをためらい、ベッドで絞り尽くされることになっていただろう。商细蕊はこのうえない快感に浸りながら、程凤台の短い髪を掴んで彼のリズムを制御しようとし、もう一方の手は程凤台の耳たぶをなで回し、ゆっくりと楽しむような形勢だ。しかし、程凤台は続けざまに押し込まれる「鹞子翻身」に耐えられず、無理やり再度弄んでから手で商细蕊の二つの袋を揉み、舌で柔らかく繊細な先端をなぞり、深く吸い込んだ。商细蕊は大きな悲鳴を上げ、完全に果てた。程凤台は商细蕊のそばに横たわり彼を見つめながら喉を鳴らし、商细蕊の目の前で口の中のものをゆっくりと飲み込み、舌を舐め回す戯けた仕草を見せた。これは先ほどの行為よりも恥ずかしく刺激的で、それをしたのはこの恥知らずで美しい人だ。商细蕊は顔を真っ赤にし枕を押し付けて、程凤台が何を言おうとも顔を見せなかった。枕の下で声を押し殺し「あなたは本当に汚いな!」とつぶやいた。程凤台は理解できなかった。こんな犠牲を払って労働しているのに、なぜ嫌われてしまうのだろう?顔を隠す彼を抱きしめながら笑って言った。「どこが汚いんだ?これは商郎の精髓で、のどを潤すために飲むものだ。そしたら俺も一曲歌うことができるだろう。何を歌うかな?『定军山』を歌おうか?」商细蕊は無視し続け、程凤台は彼を押したりからかったりしていたが、彼はただ腰を突き出して動かない。程凤台は商细蕊のお尻を2回叩き、バスローブの裾をめくって彼のもとに近づいた。彼は「では、遠慮なく!」と言いながら体を密着させた。商细蕊は突然彼を押しのけてベットの上に起き上がり、高い位置から「するの?今夜は商少爷は芝居がある!」といった。程凤台は自分の火の如く熱くなった部分を見て言う「君が出番があると、僕には出番がないとでもいうの?」商细蕊はつま先立ちをして言った「自分で解決してよ!」彼はお尻丸出しでベッドから飛び降り逃げようとしたが、程凤台は彼の足首を掴み、ベッドに倒して上に乗り、彼を苛めた。程凤台は彼の舞台に支障をきたすことを心配し、さすって十分な状態にしてから、「投桃报李」(桃を贈ってスモモをもらう)、同じことを彼にもしてもらいたくて商细蕊をなだめた。商细蕊は嫌々そのものを口に入れた。彼は宝石のような声を持つ名優であり、一声だせば北平の街が沸き立つほどだ。今、こうして卑猥な行為をしているのを見るだけで興奮する。彼らの梨園代表が言う「芝居を蹂躙する」という感覚だ。商细蕊を蹂躙することは、すなわち芝居を蹂躙する事と同じである。程凤台は商细蕊の後頭部を掴んで激しく突いた。それはたいそう膨らんでいて、商细蕊は彼がとても気持ちよさそうなので不満を感じ、口を閉じて歯で噛んだ。商细蕊の小さな歯はとがっており、程凤台は快感の中で痛みを感じ、すぐに果てた。商细蕊は頭を押さえられて逃れることができずに吹き出した。怒って程凤台の胸にぺっと吐き出し、そのまま浴室に直行して口をゆすいだ。程凤台はゆっくりとバスローブを脱ぎ一緒に浴室へいくと落ち込んだ様子で言った「俺がそんなに嫌いかな」商细蕊は答えず、ふっくらとしたほっぺたに水をたっぷり含んで振り返り、無邪気に大きな目をパチパチさせている。程凤台は一度やられた経験から、今回はさすがに用心深くなる。数歩下がり浴槽に立ち、シャワーヘッドを手に取り商細蕊を狙った「水を吹きかけるなよ!君はカエルか?俺にひっかける気なら、俺も負けてないぞ」商细蕊は状況を判断し相手は手ごわいと思った。彼の一撃は強烈でも、直接の水道の水はそれ以上に強烈だろう。彼は悔しそうに水を全て飲み込み、口を拭いて鏡に向かってもみあげを剃り、髪を整えた。程凤台は素早くシャワーを浴びたが、商细蕊はまだ不器用に髪に油を塗っているところだった。夜の部の芝居で髪を縛る必要があるため前髪が邪魔になる。髪をすっきりとまとめ上げているのを見るのは珍しく、油でツヤをだし、見た目もいくつか歳上になったように落ち着いて見える。程凤台は商细蕊の背後に立ち、鏡に映る二人の裸の姿を見つつ耳をくわえながら名残惜しそうに言った「さっきみたいなのは、好き?」商细蕊は鏡の中の蒸気でもやっとした自分を見つめて言った「好きだよ!」「小来が隣の家で寝ているのに、君が気持ちよすぎて乱れて叫ぶのはさすがに恥ずかしいよ。これからはここに来た方がいいな。お風呂にも入れるし」「あの女がいるなら嫌だ」と踊り子の女性のことを言うが程凤台は気にもとめなかった。「数日後に范涟に彼女を連れて行かせるよ!そもそも自分の女を俺の家に置いておくなんて、どういうことだ?それが広まったら俺の名声もおちるよ」と嘘を正当化した。商细蕊は後ろ手に手をまわし程凤台の顔を撫でた。「名声を気にするの?実際、あなたの評判はちっともよろしくないでしょう」程凤台は彼の手のひらにキスをしました。「本当に?俺の評判はどうなってるんだ?」「とにかく最悪だよ」程凤台は話すように要求し、商细蕊は彼に対して何の躊躇もなく真実を伝えた。「最初は二奶奶の財産にあぐらをかいて、それから姉さんの縁故で女達を弄び、北方での密輸の際には命を奪い、たばこや麻薬も売っている、とんでもない大少爷」通常、男性がこのような言葉を聞くと、自尊心が傷つくはずである。だが程凤台は笑いながら軽く答えた。「なるほど、俺ってそんな人間に見えるのか!」彼は反論の余地がないのか、もしくはずばり当たってしまったのか、または彼の心が強すぎて他人の言葉を気にしないのか、再び笑って言った。「君がそんな俺のような問題児と一緒にいるのは何のため?他のやつらは役者を贔屓にして大金を投資しているのに、俺は気付いたら君にいくつかの花束や指輪を贈っただけで、他の貴重なものは何も与えていない。でも俺たちの関係が広まったら、人は商老板は程二爷からどれほどの益を得ているかと思うだろうね。」商细蕊はぶつぶつと言う。「彼らは俗人だから、気にしないで。いつもくだらないことを言うんだから。」商细蕊は業界の風習により、避けられない状況下で数人の名だたる軍人や富豪と関係を持った。彼は公のそのような役者である。また、この芸能の世界では彼は高級コールガールとほとんど変わらない存在と見なされている。ただ違うのは歌唱の才能があるということだ。一方、程凤台は女性に依存して成功し、非難されるべき行動を繰り返した。命を奪ったり麻薬取引したという話は疑問視されるが、清廉潔白で財を成すのは難しい時代だ。彼らはともにゴシップの中心に立つ人物であり、噂話に対して超然とした態度を持っている。彼らは自分の目で見た人物だけを信じ、他人の口から出る言葉を信じることはない。また、信じたとしても、相手が道徳的に立派な人物であるかどうかは彼らの感情には全く影響しないのだ。彼らはだらだらと準備をして、楽屋に到着したのはぎりぎりだった。
*すべてWEB版。読みにくいため色は変えてありません。*しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止
*身を清らかにして臨みたかった舞台、なのに気が付けば真逆の展開(!)「鷂子翻身」。そもそもの芸は、高速回転でくるくる回るもの?らしい(動画のリンクがうまくはれなくてすみません)。でも商老板が説明をめんどくさがったので、程凤台も拡大解釈、あやふやなうえに妙な展開に。「投桃报李」(とうとうほうり)という言葉、日本語でもあるんですね。モモが贈られればスモモを贈りその行為に報いるという、善に対して善に報いるたとえとのこと。友人間の贈答時にも使えるようです。意味は確かに間違ってない!勉強になりました。そして初めてわかった商老板のコーヒーの飲み方、斬新!もはやそれはコーヒーとは言えない別の飲み物。でも二爷と一緒のものが飲みたいもんね!
]]>
「君、花海棠の紅にあらず」(「鬓边不是海棠红」)原作日本語訳 52-2
http://musicbirds.exblog.jp/33065573/
2023-05-11T09:47:00+09:00
2023-05-15T14:05:51+09:00
2023-05-10T21:08:24+09:00
wenniao
「君、花海棠の紅にあらず」原作を日本語訳
商細蕊は昨晩眠らなかった。しかし今は炭火が部屋を暖め、くるりと丸くなって寝ついている。もうお昼近くとなり日差しが斜めに差込み、部屋の中には飛び灰が浮かんで見えた。その日差しは梨の木の机、青花瓷の壷、そして色とりどりのお面に当たり、また、長衫にも当たっている。商細蕊の呼吸は穏やかで、ここにあるすべてのものには彼の息遣いが感じられ静かで美しい時が流れている。程凤台はこの光景を壊してしまうのを恐れてベッドの前に立ってしばらく彼をじっと見つめていた。しかし腰に痛みを感じ、炭鉢にもたれて一枚一枚服を脱ぎ始めた。すると羊毛のベストの中に砕けたガラスの破片がいくつか落ちているのに気づいた。商細蕊はそのパラパラという音を聞いて目を覚まし、程凤台が服を脱いでいるところを見ると「あなたって人は全く……」とぶつぶつ言った。程凤台は下心があるわけではなかったが、そう言われたら、せっかくだからちょっとだけ悪ふざけしてみるか、と思った。商細蕊の布団に潜り込んで彼を抱きしめ、別の手をズボンの中にもぐりこませた。商細蕊のその部分はとても柔らかく太ももの付け根に垂れ下がっていた。まるで今の彼のようにおとなしく意識がないようだ。程凤台は商細蕊のものを軽く擦りながら笑った。「今日は元気がないな。曹司令官に追い出されたからか?」商細蕊は彼を睨みつけた。「もう揉むな。揉んだら顔にオシッコをひっかけるぞ」 程凤台は笑って言った。「今回は口が回るね。君だけにだよ。他の人ならこれを見たらうんざりするよ。それに揉んでやるなんて、俺は子供たちにもしなかったよ」彼の手は商細蕊の脚の間に置かれ、動きを止めた。大げさに悲しみを込めて「俺が曹司令官に銃口を向けられても、君はこんなにすやすや寝てるんだね。まったく無関心だな!」商細蕊は急に身をひるがえし「じゃあ、打たれてないんだね?」と聞いた。「危ないところだったよ。弾丸が俺の頭をかすめてぴゅーんと飛んでいった。でも俺は俊敏だから全部かわしちゃった。もし彼が義兄でなかったら銃でうたれてたかもな!軍閥や司令官がなんだっていうんだ!」彼の話しはどれだけ速く走ったかを自慢しているだけなほら話である。商细蕊はそれを聞いて興味を持ち身を起こして言った。「わお!本当なの?曹司令官がなんであなたを撃とうとしたの?早く教えて教えて!」程凤台はその時の感情をすぐに思い出し、腹立ちを含んだ表情で言った。「何を言いに行ったかって?『曹司令官、昨晩なんで商老板を痛めつけたりしたのさ、え?あんな美しい人に手を出すなんて!商老板がどんなに尊い人物かわかっているのか!あなたが義兄だということに免じて今回は許してやる!言っておくが商老板は今後、私、程凤台のものだ!彼に指一本触れるようなことがあったら曹家とは縁を切るぞ!』ってね」程凤台は激昂しながら話し商细蕊は真剣に信じて「わあ!曹司令官、怒ったろうな!程美心は聞いてたの?」と尋ねた。商细蕊は程凤台のあごの髭をつまんで「でも、なんで私があなたの人になったの?明らかにあなたは私の人でしょう!あなたは商家の小二爷だから!」程凤台は頷きながら「これからは商老板のおおせのとおりに」と答えた。「それで、その後曹司令官と程美心はどうなったの?」「俺の姐夫の性格を知らないのか?もちろん拳銃を抜いて撃ち合いになったよ!姐姐はそばで泣いてたさ!」商细蕊は手を叩いて喜んでいたが、彼は曹司令官を憎んではおらず、代わりに程美心を憎んでいた。「いいぞ!いいぞ!程美心を怒らせて血尿させてやれ!」彼のやんちゃな怒りは解消された感じだ。程凤台は彼をベッドに押さえ込み彼の耳元で囁いた。「商老板、俺たち一緒になろうか?」商细蕊は即座に答えた。「いいよ!」しかし、彼はその奥の深い意味を理解できなかった。「僕たちはずっと一緒にいたんじゃないの?」程凤台はやわらかい口調で誘惑した。「いいかい、これから他の人と寝ちゃだめだよ。曹司令官だけでなく、俺は君をいじめてやろうというやつらにうんざりしているから。」商细蕊は同意するつもりだったが、すぐにあることが脳裏に浮かんだ。「あなたの二奶奶はどうなるの?」 「二奶奶はもちろん含まれないよ」商细蕊も二奶奶はカウントしないと考えていた。というのも、程凤台は常に外で遊びまわっており、家庭持ちの男とは思えなかったからである。また程凤台が二奶奶について話すときは、大変敬意を持って重々しい口調で話し、まるで家族の長老の話しをしているかのようで、「妻」や「子供の母親」というような親密さを感じさせるような表現はまったくなかった。しかし、商细蕊はまだ言わなければならなかった。「二奶奶はなぜカウントしないの?妻と寝るのが別物っていうなら、僕も結婚していいってこと?」「誰と寝るか、誰と付き合うかは俺が選ぶ。二奶奶とのことは義務だ。俺がしたくなくてもこれは仕方がないことだ」と程凤台は言った。言わんとするところ“常之新とは違うんだ”。つまり、彼は特別な道徳観を持っているように思えた。実際、現代において新しい考え方が一部の出版物や宣伝によって普及されているとはいえ、民間では古い考え方が比較的重要視される傾向がある。新しい考え方が間違っているとは限らないが、古い考え方は必ずしも誤りではない。例えば、常之新は正式に離婚した後に蒋夢萍と再婚し、新派人士は彼のこの行動を賞賛していた。しかしその後、彼は家を追われてしまい、平陽の古い友人たちも范涟以外は全員彼との付き合いを絶った。彼は全く人々に理解されず、単に蒋夢萍に心を奪われた男と見なされてしまっていた。明らかに彼は蒋夢萍を妾として迎えることもできたし、彼女と商細蕊とのトラブルを起こすこともなかった。しかし、彼は妻を無視し不義理な行為を行ったため、人々からひどく非難されてしまった。商细蕊はこの点では比較的旧派の考え方を持っており、頷いて言った。「二爷は本当に良心的な人だね。でもある日、二奶奶が私たちを別れさせることになったらどうしよう?」程凤台は笑って言った。「それは絶対にあり得ない。君が女の子であっても、そんなことはありえないさ」「でももし本当にそうなったら、僕たちが別れるか、あなたが離婚するしかないんじゃない!」程凤台は笑い出した。「なんだか話してるうち話がバカげてきたね!二奶奶がそんな考えを持っていたら、最初から俺とは結婚しなかっただろう。彼女は北方の皇帝の娘で、結婚相手には困らなかった。婚約を破棄したところで結婚して子供を持つなら男はよりどりみどりだった。彼女は旧思想に苦しめられているのさ!一生涯にわたって夫婦関係を保つことこそが彼女にとって意味があることなんだ。」商细蕊は感心して言った。「二奶奶は貞節の女性であり、もし前朝だったら貞操の記念碑が建てられたかもしれないね。あなたはエセ西洋人で、そんなことは気にしないかもしれないけど彼女とは合いませんね」程凤台はこれを聞いて一言いいたくなった。「俺は本当に気にしないのさ。俺は女癖が悪いという噂だが二奶奶は清廉潔白で、俺に惚れたことなんてないんじゃないかな。一旦婚約が締結されたなら、それが俺でなくて张凤台であろうと李凤台であろうと関係ない。形だけでも結婚する。家に入ったなら夫が余程の極悪人じゃなければ面倒を見たり心配したり、とにかく優先して世話を焼くがそれは俺個人のためではない。じゃあ俺はいったい何なんだ?俺は彼女の人生においてのキャリアにすぎない。家庭をうまく回していくためには手法、徳、才智が必要だ。『家庭管理の方法』『夫婦のありかた』には、ただ一つ、愛情というものがない」商细蕊は、このような家庭の夫人たちには感心している。夫が側室を連れていきたいならばいそいそと楽しそうに装飾や準備を手伝って、夫の心を掴もうとしていることはよくあることだ。商細蕊は彼女たちを賢徳と思ったり時には愚かだと思ったりしていた。しかし今日程凤台の話を聞いて、彼女たちの理解がまた一段と深まり、実に可哀想だと感じた。なぜならご主人様たちは、正妻以外に本当に愛している女性を持っている可能性があるからだ。しかし夫人たちには選択の余地がない。夫に対しては一生盲目的な愛か、もしくはまったく愛がないか、いずれにしても彼らと程凤台の愛を理解することはできないだろう。「そういうことさ」程凤台は彼を見て言った。「それでも君はまだ妻をもらう気かい?それなら必ず心から愛する人を娶るべきで、それは一人で十分だ。俺以外にそんな相手がいるとでもいうの?」商细蕊も同意し「そうだね、じゃあ僕あなたと結婚するよ!そうすれば二奶奶も気が楽になるだろう」と甘えたように言い、程凤台の顔を撫でた。程凤台は微笑み彼を押し倒し「三日しないと、君は反逆行為をするんだろ?」二人は楽しくじゃれ合い、これをきっかけにまた情熱的なひと時を過ごした。*すべてWEB版。読みにくいため色は変えてありません。*しろうとの趣味の簡略版の翻訳です。誤訳ご了承のほどを。時々訂正します。無断転載禁止 *一体誰が正解なのかわからなくなりそうな話の展開。こんな話を聞いたら美心、本当に血尿になりそう。程凤台、妻はノーカウントだなんてさらりと言ってのけるなんて、ずるっ!ちょっと自分を正当化しすぎてない?(笑)二奶奶の事をそんな風にわかっているつもりになっているけど、女心はそんな単純ではないのよ、二爷。この時代、妾が数人いても養えるならOKな時代ですから、夫婦の在り方は今とはかなり考え方が違うのでしょう。でも誰に一番愛情を感じているのか、そこは結構大事かと。二爷、あんな危険な目にあったのに、商老板に余計な心配をさせないように、さらりと言って笑い話にするところ、優しいなあ。最初の部分は、ドラマでもちょっと似たような場面がありましたね。二爷が指でフレーム作って商老板を見ているシーン。今の二爷にとっては、この商老板の部屋がどこよりも心からくつろげる場所なんでしょうね。小来に何と思われようと…。]]>
https://www.excite.co.jp/
https://www.exblog.jp/
https://ssl2.excite.co.jp/